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268 いちばん盛り上がる場面でピカーッ!

 ……見えない。

 魔力感知もできないから、ほんとになんにもわからない。

 ただ、扇子が宙を舞っているのはわかる。


「ファビウス様」

「なに?」

「ナヴァト様が見えないのはわかります。光属性魔法ですよね?」

「そうだね」


 光学迷彩忍者は、わたしの人生に登場したのが正確にいつなのか、わかんないもんな。見えないから。

 まぁそれはそれとして、だ。


「リートは、なんで見えないんですか?」

「身体能力強化と、視覚操作かな……」

「視覚操作って、わたしたちにまで使う必要ないですよね?」

「観客の視線や態度で居場所が判明するのを嫌ってるんだと思うよ」


 ……そういうこと? でも。でも!


「つまり、四人分の視覚を一気に操作してるってことですか?」

「そうなるね」


 生属性、怖ぇー!

 わたしが護衛の能力におののいているあいだにも、扇は宙を舞う。


「つまらないわ」


 斜め後ろからシェリリア殿下のつぶやきが聞こえてきた。

 いやまぁ……たしかに、扇しか見えないですね。なにかすごいことが起きているって雰囲気しか伝わりませんね! わざわざ見物にいらしたシェリリア殿下にとって、これは計算外だろうな。たしかにな!

 ……と、椅子に腰掛けていた殿下が立ち上がり、すっと手をのべられた――見る間に扇子がお手元に!

 えっ。


「やめ」


 号令とともに、我が親衛隊の精神年齢が中二くらい(仮査定)の男子どもが、姿をあらわした。

 ふたりとも、なんですか? って顔である。……おお、リートに表情があるとはレア!


「練達のわざが使われていることはわかります。ですが、見えないのではつまらないわ」

「ご期待に添えず、申しわけありません」


 リートが一礼する。……これ、発言者がわたしなら、見世物ではないみたいな返答だと思うけど、さすがに相手を見てものをいっている。リートって、そのへんは如才ない。

 ……つまり、もしかして:わたしは舐められている?


「わかったなら、次は姿を消さずにおやり。いいですね?」

「はい」

「御意に存じます」


 さすが王族に仕え慣れているナヴァト忍者、返事のヴァリエーションでリートに半歩差をつけた感!

 しかし、こんなクレームがつくとは思っていなかっただろう二人組、戦術変更を余儀なくされるわけだけど……そういやリートが、見えなくすりゃいいと思ってるだろ、みたいに煽ってたよなぁ。そのへん、どうなんだろう。

 興味津々のわたしの前で、シェリリア殿下がふたたび扇を投げ上げ、勝負再開。


「……見えるけど見えない」


 思わずつぶやくと、ファビウス先輩に苦笑された。


「さすが天才と謳われるだけのことはあるね。魔法で身体能力を上げてるリートと互角に戦えるんだから」

「互角なのかどうかさえ、見えないんですけど」


 すべてが爆速なのである。

 今回、守勢に回っているのはナヴァト忍者。どっちかというとリートが攻めている。

 広い部屋を縦横に跳び回り、時には壁を蹴って勢いをつけたりして……そのうち空も飛びはじめるんじゃ? くらいの動きを見せている。ひとことでいって、派手だ。

 対して、ナヴァト忍者はほとんど動かない。部屋の中央近くに陣取って、これはこれで……おまえなんか半歩以内の動きでどうとでもしてやる、みたいな雰囲気に見えてすごい。


「扇をほとんど動かさないのは、見事ね」


 これはシェリリア殿下のご感想。

 ……そうか。勝利条件は扇を殿下にお返しすることなんだから、よく動いているリートは扇を奪い去って勝ちを決めそうなところだけど……それができないのは、ナヴァト忍者の方が扇をコントロールしているからだ。

 体格は、ナヴァト忍者の方がいい。胸板が分厚いとかそういうのはもちろん、背丈も少し高い。そのリーチを活かして、扇を自分の間合いに留めている。

 これ……リートの方が攻めあぐねてる感じなの?

 動きが派手だから、そっちが有利かと思ってたけど、違うな? ナヴァト忍者の方が優位に立ってそうだ……だって、扇によくさわってるのは忍者だもん。……たぶん。


「ナヴァト様、すごいですね。姿を消せないと、光属性の強みを活かせないのに」

「光属性の使いどころは、ほかにもある……おや、リートがそろそろ仕掛けそうだね」


 え、とわたしが声を上げた、まさにそのとき。それまでナヴァト忍者の周りを駆け回っていた――つまり、センターから動かせないようにしていた、ともいえるんだけど――リートが急制動をかけた。当然駆け抜けていくものと思われた身体が一箇所に止まり、そのまま扇を狙う。

 ナヴァト忍者が右足を軸に左足を回転させ、それをリートがびっくりするような垂直ジャンプで避けた。扇子はナヴァト忍者の頭上高くに浮いており、これはリートが掴む! と思ったその瞬間だ。

 ピカッ!

 視界が真っ白になるほどの、すごい光。


「わっ」


 思わず声が出てしまったのは、わたしだけである。

 ……高貴な人々、動揺しないための訓練を積んでるんだろうか? 積んでそう……だってこんなん、おどろくでしょ!


「なにが……」

「落ち着いて、ルルベル」


 さりげなくファビウス先輩の手が肩に回され、わたしは落ち着くどころではない。

 鎮まれ、俺の心臓! と変なポーズを決めて叫びだしかねない場面である。いややめろ。それだけはやめろ。


「な……なにが起きたんですか?」

「光属性魔法だよ。目潰しだ。まともに食らっちゃったんだね?」

「……はい」


 そうか。ナヴァト忍者、いつも姿を消してるから……光属性って光学迷彩に使うイメージしかなかったけど、こんな風にも使えるのか……!


御許みもとに」


 ごく近くで声がして、はっと気づいてそちらを見れば、シェリリア殿下の前にナヴァト忍者が跪いていた。自身の頭より高く差し上げているのは、扇子である。

 ……リート、破れたりぃ!

 ねぇどんな顔? 悄気しょげてる? ねぇねぇどんな気分?

 と、意地悪な気もちでいっぱいになってしまったことは、許してほしい。わたしも鬱憤がこう……ね? 蓄積しているのである。

 リートはセンターに立っており、表情はいつも通りだった。……この鉄仮面男め!

 そして、シェリリア殿下の裁定がくだった。


「扇を奪った手腕は見事でした。でも、命じたはずよ。姿を消さずに、と」


 ナヴァト忍者は顔を上げ、一拍遅れてその表情が曇った――シェリリア殿下のお言葉の意味を理解したのだ。わたしも、このときにはわかっていた。

 目潰しも、姿消し判定ってことだよ!

 ……そりゃまぁ、そうだよな。シェリリア殿下は、天才少年の戦いぶりを見物なさりたかったのだ。姿を消すなという指示は、見えるようにやれとイコールである。

 それが、いちばん盛り上がる場面でピカーッ! 目が、目がぁーッ! ……である。

 わかりましたわ、たしかにアウトですわ。


「聖女よ」

「……はい?」

「そなたの護衛は、ふたりとも負けです」

「あ、はい。ご裁定、ありがとうございます」

「この扇、気に入っていたのだけど。あなたにあげるわ」


 ぽい、と投げられた扇を、わたしは慌てて受け止めた。

 そして――。


「あっ」


 思わず声が出てしまったのは、投げられた拍子に扇が開いて、その絹地の先端が一部、破り取られたようになっていることに気づいたからだ。

 えっ。激しい攻防の結果、こうなっちゃったの?


「負けるくらいなら相手の勝ちも奪おうとするの、嫌いではないわ。だから、許します」


 実に寛大な言葉を残し、シェリリア殿下はガウンをひるがえして立ち去ってしまわれたわけだが……。

 じわじわと、その意味が染み込んできたぞぉ。

 つまり、目潰しを食らって負けを悟ったリートが、なんとかして扇の一部を破った、ってこと? そういうことなの?


 リートの方をふり返ると、ふふん、って顔になっていた……。

 おまえってやつはー! 根性悪いな、おい!


「やっぱり、隊長向きなのはリートかな」

「いや、シェリリア殿下の扇を破く男ですよ? 駄目じゃないです?」

「君の腕に斬りつけるより、ずっとマシだよね?」


 これには、わたしも返す言葉がない。

 ナヴァト忍者は地獄の責め苦を受けているような顔である……でもわたし、思うんだ。このネタ、たぶんずーっと持ち出されるよ? 慣れた方がいいよ?


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