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251 ファッション意識の高さが一目瞭然

「なんかシスコと話すの久しぶりな気がする……」

「ほんとだよね。でも、教室で姿は見えてたから……そこは少し安心だったかな」


 ……おお! シスコよ! わたしの天使!

 ガシッと抱きつきたいところだが、シスコとわたしのあいだにはテーブルがあり、大量の料理が並んでいる。


「それは、わたしもそう。その後……調子はどう?」


 訊きづらいよなぁ。吸血鬼の魅了に抵抗したあとの回復具合はどうですか、みたいなの。

 シスコはにっこりしてくれて、ああ! まるで光がさすようだし、心が洗われる……。


「なんともないの。ウィブル先生なんて、入学時に検査したときより健康になってる、なんておっしゃるのよ」

「そうなんだ。よかったぁ……」

「心配かけてごめんね」

「ううん、そんなの全然! わたしが勝手に気にしてただけだし」

「ルルベルの方は? 最近どう? なにか危険なことをしてたりするんじゃないの?」

「いやいや」


 これは苦笑せざるを得ない。

 基本、危険なことからは遠ざけられているのだが……今こうして研究室から出て来ていること自体が、吸血鬼の注意を惹くための餌扱いだなんてこと、話せないし。

 ……そこを真面目に考えるなら、シスコには近寄らない方がいいんだろうなぁ。シスコに限らず、誰とも交流しない方がいいわけだけど、それはそれで不自然過ぎるし。


「じゃあ、なにか楽しいこと、あった?」

「楽しいこと……」


 ここでまず思い浮かんだのは、もちろん、ほら。ファビウス先輩と、その……あれよ。あれの報告だ。

 しかし、なんかその……誰に聞かれるかわからんし。

 リートが横で飲むように肉を食っているのは、不問に処してよい。というか、リートは避けられない同席者なんだから、肉で口がふさがっている今が好機といえた。変なツッコミとか食らわないで済むだろうし。

 問題は……見えないけど、絶対、近くに忍者がいることだ。

 もちろん、忍者には職業上の倫理観を期待できる。ファビウス先輩には低姿勢だし……王族と下賎な聖女の交流とか、本心では嫌かもしれないけども、まぁいい。というか、今後どうしたってバレるだろうから……バレるよなぁ……だって研究室に寝泊まりすることになったんだぞ、忍者も。

 だから、そこも問題ないとして、じゃあなにが問題かっていうと……。


「シスコったら、聖女様が悩んでらっしゃるわ」


 コレだ。

 貴重な平民女子クラスメイト、ファーニュ嬢である。

 ファーニュ嬢は、髪色がわたしと近い。つまり、ちょっとピンクがかった茶、あるいは金髪といってもいい。わたしの方がより淡いピンク系で、ファーニュ嬢はもっと赤っぽいかな……ストロベリー・ブロンドってやつだ。

 それを流行のショート・ボブにしてるんだけど、完璧なサラサラ、完璧な内巻き、完璧なぱっつん前髪……と、ファッション意識の高さが一目瞭然である。


「ごめんなさい、ルルベル。そんな無理に、楽しいことを探さなくてもいいのよ。わたしの訊きかたが、悪かったわ」

「えっ、全然。全然だよ、そんなの……楽しいことっていえばね、最近、呪符を描くのが楽しくなってきたかな。思うように線が引けるようになると、楽しいんだ」

「まぁ、聖女様は呪符魔法をお使いになれますの?」


 平民のはずだが、ノリは伯爵令嬢集団と同じだよね……。ああいうの、もう間に合ってるんだけど。


「少しだけ。自分で呪符を選んで組み合わせたりはできないから、教えてもらった完成した図像を描くだけなんだけど」

「すごいですわ……わたしたちの学年で呪符魔法をたしなんでいる生徒は、まだいないんじゃないかしら?」

「必要に迫られてたくさん描いただけで――」


 と、そこまで喋ったところで、リートに足を踏まれた。

 ああ、わたしだってもちろん聖属性の呪符の話はしないわよ、わかってるよ! ……とは、いえないので。踏まれ損!

 しかし、である。そこに、ファーニュ嬢が食いついて来た。


「必要に迫られて? ではもうただの練習ではなく、実践なさってるということですの?」

「いや……えっと、すごく練習しなきゃいけないんです。聖属性魔法使いって、ほら……副属性の獲得が期待できないですし? 聖属性だけだと、あまりにも、こう……硬直化した魔法の運用しかできないですから」

「先々のことまでお考えになってるんですのね。さすが聖女様ですわ」


 ほらぁー。こういうノリ! 伯爵令嬢の皆様に囲まれてるのと、あんま変わらないじゃん!

 とは思うけど、彼女にとってわたしは珍しい聖女であり、親しめる存在というよりは、こう……アレだよね。聖女なんだよね。

 うん、しかたない。諦めるしかない。


「具体的には、どのような呪符をお描きになってますの?」

「基礎図形の反復練習がほとんどです」


 嘘じゃない。魔力の属性を変換するための、って説明が抜けてるだけだ。


「どなたに教わってらっしゃるか、伺っても? 呪符魔法って、指導者なしでの独学は禁じられてますでしょう? 教師を探すのが大変だと、皆さんおっしゃってますのよ。教師さえいれば学べるのに、って」


 リートの蹴りが来た。あっそう。わかったよ。あと、もうちょっと加減しろよ!


「そこは、わたしが聖女だからという理由で特別扱いをされているんでしょうね……。ご参考にならない話で申しわけありません」


 やってやったぞオラオラ。令嬢話法で「それはお答えできませんわねぇ」をかましたぞ、どうじゃ!


「あら。もちろん、そうですわよね。ええ……」


 あきらかに勢いを失ったファーニュ嬢には、もちろん、令嬢話法が通じたようだ。それじゃ、もう一発かましとくかぁ。


「わたし、もう聖属性や聖女の話には飽き飽きしてるんです。皆さんそういう話ばかりなさるので……。それより、あなたのことを教えていただきたいです、ファーニュ様」

「まぁ、わたしの話なんて……つまらないですわ」

「つまらないなんてこと、ないですよ。是非、教えてくださいな。ファーニュ様の魔法の属性は、なにか……とか」

「わたしのことは、どうか、ファーニュ、と」


 ファーニュ嬢に呼び捨てをうながされ、まぁいいだろう、とわたしはうなずく。


「じゃあ、わたしのこともルルベルと呼んでくださいね」

「とても気が引けますけれど、はい……そうさせていただきますわ」

「ありがとう。じゃあ、ファーニュのことを教えてもらえます?」

「わたしの属性は、ちょっと珍しいんですけど」


 ……またか! このクラス、どうかしてるんじゃないの?


「わくわくします。いったい、どんな?」

「嘘がわかります」


 えっ。

 わたしが、えっ、って顔をしたのを見て、ファーニュ嬢は悪戯っぽく笑った。


「冗談ですよ」


 なんつう冗談ぬかすんじゃー!


「でも、そういう属性ありますよね。たしか、判定……?」

「ありますし、わたしね、自分の属性が判定だったらよかったのに、って思うことが多いんですの」

「それは……どうして?」

「商売に使えますでしょう?」


 下町のパン屋では、さほど必要ない能力だけど。

 大きな取り引きをするような商家なら、そりゃもう、喉から手が出るほどほしいだろう。……ってことは、ファーニュ嬢のお家は上流寄りの商家ってことかな。


「ですが、判定の力があると、生きるのが大変だと聞きました」


 前王太子殿下が判定持ちだったそうだけど、それで苦労なさったらしいからなぁ。本音を隠したり遠回しに伝えたりする宮廷スタイルと判定属性って、おっそろしく相性悪そうよね。


「まぁ、そうですの?」

「どんなに正直なひとでも、嘘はつくものですから……相手を傷つけないための嘘さえすべて見抜けてしまったら、居心地が悪いと思います」

「そうね……」


 シスコは深くうなずいてくれたが、ファーニュ様は不服げだ。


「でも、わたしは欲しいですわ、判定属性」


 もうらちが明かないから直接アタックするかー。


「ファーニュ様の属性は、教えていただけないんですか?」

「あら、ごめんなさい。ほんとうに退屈で、つまらない属性なんですの。睡眠属性ですわ」


 ……どこがつまらないんだよー! 使えるレア属性じゃん! 誰でも昏倒させ放題だぞ、うわ怖っ!


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