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248 失礼の念押しをしてどうする

 甘々なはずがシリアスな会話になった! を経て、翌日である。

 今日は出歩かない日なので、せっせと聖属性呪符を描きつつ、魔力玉の生産もするよ!


「相変わらず、魔力感知はできないのか」


 リートが無表情に尋ねてきたけど、意図がわからん。唐突だし。


「できないよ。なんで?」

「そうだな……できるようになったら、君のことだ、さぞ大騒ぎをするだろう」


 否定できないディスりは遠慮してもらっていいですかね?


「その通りだよ。で、なんで急にそんなこと訊くの?」

「魔力玉の仕上がりが、よくなっている」

「仕上がり?」

「いびつさのない球体で、しっかり固まっている。感覚もなしに、これをつくれるとは……信じがたくてな」


 ……あれっ? リートに褒められてる?


「わぁ……」

「なんだその反応は」

「いや、リートに褒められたの、はじめてじゃない?」

「そうか?」

「たいがい失礼なことしかいわないでしょ」

「君のその反応も、かなりのものだと思うぞ」


 いいや、悪口雑言男に勝てる気はしないね! わぁすごい、褒められた!

 ……いやでも待てよ。


「リートのいう『球体』とか『いびつさがない』とかって、信用できないかも」


 円が描けなくて呪符魔法を諦めざるを得ない男の評価である。残念ながら、かなり怪しいといわざるを得ない。


「君こそ失礼じゃないか」

「ごめんあそばせ」

「まあ失礼かどうかなど、どうでもいい」


 よかねぇよ!


「今日の夜からナヴァト様も研究室に詰めることになったそうだから、気をつけてよね」

「礼儀作法か? だったら、君よりしっかりしている自信はあるが」

「……リートって、なんにでも自信があっていいなぁ。でもね、そういう話じゃないの! 無駄に煽ったりしないで仲良くしてね、って話だよ」

「君はほんとうに失礼だな。俺がやることに無駄があると思うのか」


 知るかーッ!

 ああ駄目、リートと話してると血圧が上がりそう! 血管切れたりしそう!


「じゃあ、無駄を省いてあげる。煽ったりしないで仲良くしてね!」

「あれは必要なことだと判断したから、やったまでだ」


 やっぱり煽った自覚はあったんだ! しかも故意にか!


「どういうことか、説明してくれる?」

「本音を吐かせるためだ。主命があれば、不承不承ふしょうぶしょうであっても任は果たすだろう。が、身の入りかたが違う」

「そんなの、しかたないじゃない」

「しかたない、で聖属性魔法使いの命を危険に晒すわけにはいかんだろう。君は世界の命運を握っているのだからな」

「でも、もうちょっとやりようがあるんじゃないの? あんなやりかた、リートが嫌われるだけだよ」

「俺が嫌われるのはかまわんし、君があいつを擁護することで好感度を高め、罪悪感を抱かせ、職務に忠実になる可能性を上げてくれるなら、それでいい」


 リートよ……。ちょっと待ってくれ。


「じゃあ、わたしの反応まで計算してたってこと?」

「当然だろう。あの場面で君がやりそうなことくらい、だいたいわかる」

「……なんか嫌だ」

「そうか? ……ああ、ファビウスもたぶん、わかっていたと思うぞ」


 それは嫌じゃない気もする。差別か!

 でもね、ごめんだけどね、ファビウス先輩に理解されてるのは胸きゅん案件。リートにあやつられるのは、胸糞案件。

 理解されてるって安心感より、操作されたのかという不信を覚えるのがリート。


「とにかく! なんかこう、空気が悪くなるのは嫌だなぁって思ってるわけ」

「君がファビウスとのあいだに醸し出した空気の悪さと比べたら、あんなもの」

「その話はやめて」

「いいや、これは持ちネタにさせてもらう」


 持ちネタ? なにいってやがるんだ、こいつ!

 ふふん、と得意げな顔でわたしを見て、リートは説明した。


「ことあるごとに、あのときの空気の悪さときたらなかった……と、蒸し返す予定だ」

「変な予定立てないでよ!」

「あれだけの不快さを耐え忍んだ上に、解決のための後押しもしたんだ。その程度の嫌がらせは許されるだろう」

「嫌がらせ?」

「身近な男女がくっついて楽しげにしているときの、独り身の男の気もちがわからんのか」


 知らんがな……と思ったが、いやいやいや。それ以前の問題としてだよ?


「リートでも、そういうの気になるの?」

「どういう意味だ。君はほんとうに失礼だぞ」

「だって、友人ってなにそれ美味しいの、恋愛ってなにか得になることある? みたいな感じだし」

「失礼の念押しをしてどうする」

「まぁ……失礼かもしれないけど、事実じゃない?」

「だいたい事実だな」


 ほれみろ!


「それなのに、気になるの?」

「鬱陶しいからな」

「……じゃあ、なんで解決のための後押しをしたのよ。ファビウス先輩に、その……はっきりさせろっていったの、リートなんでしょ?」

「無論だ。ウィブル先生の意見も追加したら、効果があったようだ」

「鬱陶しくなるとわかっていて、どうして……?」

「くっつかない方が、もっと鬱陶しいと判明したからだ」


 一刀両断……。あくまで自分の都合!


「りょ……両思いでよかったとか、いってくれたから……ちょっと見直したのに」

「見直さなくていいぞ」

「……リートと話してたら疲れてきた」

「俺と話す必要はないから、作業を進めてくれ。まだ紙束が半分くらい残っているし、さっきから完全に手が止まっている」

「そうね……そうする」


 リートとの会話は不毛だ。

 それにしても……わたしの魔力玉、そんなにうまくできてるの? 発端となった話を思いだしたら、ちょっと口がにやついちゃうよね!

 魔力感知が戻ればなぁ……自分でも確認できるのに。


「リートは、なにか知らない? 魔力の感覚を戻す方法」

「知っていたら、とっくに教えている。ただでさえ、自力で身を守ることが難しいんだ。せめて感知くらいは上達してほしいものだと思っていたのに、まったく感覚を失うとはな。……ああ、この点では君は俺の予測を裏切ったな」

「……然様さようでございますか」


 リートの予測の範疇を飛び出しても全然嬉しくない案件だね!

 ……はぁ〜。どうすれば戻るのかなぁ、魔力感知。リートの台詞じゃないけど、ほんと、復活してくれないと困るんだよ。


「手が止まっているぞ」

「わかってるよ」


 まぁ、できないことを考えてても、しかたないな!

 わたしは気もちを切り替え、聖属性呪符の製作にいそしむことにした。

 腕がだるいのと飽きたのを除けば、平和な作業である。それに、やるべきことがあって、役に立っている実感もあるのは喜ばしい。

 漠然と聖女様扱いされるだけっていうのは、こう……身の置き所がないっていうか? 申しわけなさがあるというか……。伯爵令嬢の皆様と喋っていると、すごく感じるんだよね。

 そうだ! この単純作業こそが、わたしの救いだ! ……と、思うことにしよう。


「ルルベル、ちょっといいかな?」


 ファビウス先輩に声をかけられたときには、わたしは真面目に呪符を描いていた。描きまくっていた。


「あ、はい……でもまだ今日のぶんが、終わってません」

「あと何枚?」

「あ……あと三枚ですね」

「じゃあ、それが終わったら休憩にしない? 僕も休むから」


 おお。

 ファビウス先輩がみずから休む宣言するとか、レア中のレアじゃないだろうか!

 これは、乗っかるしかない。


「わかりました。急いで、しっかり描きますね」

「うん。……ルルベル、すごく上達したねぇ」


 えっなに? 今日、褒められの日なの?

 あっ。にやけてしまうぞ。口元がゆるんじゃうぞ。やめろやめろ、ファビウス先輩の前でそんなみっともない顔はやめろ!


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