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245 僕が大人じゃなかったら誰が大人だというんです

「君がいうなら……」


 ファビウス先輩、てのひら返すの早過ぎない? とは思うが、まぁ助かる。

 応援が必要なんだ。だってエルフ校長が……ちょっと尋常じゃない雰囲気よ! 顔が怖いよぉ……。


「ルルベル、甘い顔を見せてはいけません。大暗黒期のことを忘れましたか」


 だからって、そんな怖い顔やめて! わたしが怖がるよ、わたしが!


「関係ないですよね? ナヴァト様はナヴァト様です。昔の誰かではありません」

「いいえ。お聞きなさい。大暗黒期の発端となった聖者殺しの下手人は、護衛として仕えるはずだった人間なのですよ。その者は、王族の護衛任務をはずされたことを根に持ち、そこにつけこまれたのです」


 おっと。意外にもピン・ポイントに類似点が!

 大暗黒期のことなんか概念しか知らない――だって記録自体、あやふやなものしか残ってないからな!――短命種の人類とは違い、根に持つ長命種のエルフ校長は、いろいろ詳しいんだろうな。

 いやでも、光学迷彩忍者を風評被害の犠牲者にするのは、違うだろ?


「だからって……同一視するのは、乱暴です」

「他国の間諜にあやつられ、聖者殺害という罪を犯した。無論、間諜は自国有利の状況をつくりたかっただけです。聖者が特定の国に味方するのをがえんずることがなかったゆえの、狂った選択です。国同士の利害を優先し、聖者の命を国家間の力関係という天秤を動かすためのおもり扱いした。あるいは、おのれの栄達を阻む障害と看做みなしたのです」


 聖属性魔法使いの奪い合いの結果、肝心の聖属性魔法使いを死なせてしまったって……そういう……そういう流れだったの?

 人間って愚か……。

 なんとなく虚無顔になってしまったが、いや、そういう話をしていたわけじゃない。


「参考になるお話をありがとうございました。ですが校長先生、ナヴァト様は本来の職務をだいじに思ってらっしゃるだけです。わたしだって、聖女として頑張ってやって行こうと決意を固めたところへ、ほかのことをやってほしいなんて依頼されたら、ちょっと苛つきますよ」


 ため息をついたのは、誰だ。ジェレンス先生か。


「おまえ、いいやつだなぁ」

「……えっ。そんなことはないです、わたしはただ、揉めごとが嫌いなだけです。自分がその原因になるのは、特に嫌です!」

「もうやめてくれ!」


 叫んだのは、光学迷彩忍者である。

 即座に、エルフ校長がキリッとした顔で宣言した。


「ルルベルに命令する権限は、君にはありません」

「では、哀願すればいいのですか? もう……いいです。弁護されればされるほど、おのれの未熟さが嫌になる――」


 光学迷彩忍者は、わたしを睨んだ。

 お、おう……睨み返した方がいいのかな? でも迫力ないと思うけど。わたしって基本、明るい感じのパン屋の看板娘顔だしな……。つまり、無害っていうか。


「――必要なら、俺を使っていただきたい」

「お断りです」


 これもエルフ校長である。私情百パーセントって感じ!


「校長……大人気ないですよ」


 ジェレンス先生でさえ、呆れ顔だ。いや、ジェレンス先生もさ……大人気なさを競うなら、けっこういい勝負になる場面が多いと思うぞぉ!


「僕が大人じゃなかったら誰が大人だというんです」

「年齢の話じゃないですよ。力を貸してくれるってんなら、利用しない手はねぇよって話です。なにしろ、こいつは聖属性に次いで対吸血鬼戦に効果が見込める、光属性です。今、実戦に投入できるような光属性魔法使いが、この国に何人いると思ってます?」

「たとえ何人いても、ルルベルを馬鹿にするようなのは却下です」

「何人もいないんですって。こいつだけです」


 ……レアとは思ってたけど、そこまでかぁ!

 たぶん、光属性が使えなくもないですってレベルなら、何人かいるんだろうなぁ。でも、吸血鬼を相手にして戦えますかってなると、まぁ……ほぼ消えちゃってもおかしくないね。


「信用ならない人物を陣営に引き込むことは、破滅の第一歩です」

「信用できるかどうかは、彼自身に証明してもらえばいいでしょう」


 この冷静な発言は、ファビウス先輩だ。……やっぱ、さすファビじゃない?

 あと、かっこいい……そんな場合じゃないとは思うけども。でも、うん。


「実際のところ……ローデンスには、今夜の会合だけでなく、事態の推移次第では今後の作戦に、そして聖女の護りを厚くするためにナヴァトをこちらに寄越してほしい、と依頼しました。ローデンスは快諾してくれましたよ。我々に協力することは、彼にとって主命を果たすことにもなるはずです」


 光学迷彩忍者はほんのわずかに顔をしかめたが、それだけだった。

 ファビウス先輩はといえば、ミステリアスな微笑をたたえて言葉をつづける。


「リートの言を信じるなら、聖女への態度は許しがたいものがあります。が、本人が冷静になり、それを恥と認める気もちがあるならば、今後の協力を通して彼の覚悟を見極めさせてもらいたいところですね」


 ねぇ、かっこよくない? かっこいいな!

 ……ああ、聖女がこんなこと考えてるなんて光学迷彩忍者に知られたら、やはり下賤の者は、みたいに馬鹿にされそうだな。こんな聖女ですみませんけどでも、高貴なかたがたもわりとこんな感じっぽいよ? 伯爵令嬢グループと話してみて、わかった事実だけども!


「僕は信じませんからね」

「校長……」


 ジェレンス先生さえ呆れる、エルフ校長の子どもっぷり! というか、聖属性がからむと駄目なんだな、このひと。いや、このエルフ……。

 そうか、つまりこれ、わたしが宥めないといけない場面か!


「校長先生、それはいけないと思います」

「でも、ルルベル……」

「信じない、信じないといわれつづければ、誰だって、真摯につとめを果たすことはできなくなりますよ。自分は信じる価値のない存在なんだと思い込みかねません。駄目です、そういうの」


 エルフ校長は口を歪めて、なんだか嫌そうな顔をした。そんな表情でも美しいのだから、エルフはすごい。


「聖属性魔法使いは、いつもそうです」

「……はい?」

「誰のことだって許そうとする。そうして、みずから災いに飛び込んでいく……。いつもそう。止めても無駄なのです……。ああ、ほんとうに」


 エルフ校長は遠い目をしてどこかを見ている。

 きっと、今はもういない聖属性魔法使いの誰かを思いだしてるんだろうなぁ。ロスタルス陛下かな? でも、ロスタルス陛下って、本人が馬鹿強かったみたいだから、心配する必要もなさそうだけど。


「わかりました。ルルベル、君の考えを尊重しましょう。……ナヴァト」

「はい」

「君がどういう人物かを示しなさい。聖属性魔法使いを守るとは、そういう仕事です。僕は――いえ、世界がいつも見ています。君の良心に、つねに問うのですよ。常識でもなく、世俗の知恵でもなく。基準にすべきは、良心です」


 これだけは校長らしい威厳をもって語ると、長い髪をさら〜っと手でかき上げた。どうやら、自分を落ち着かせようとしているようだ。たぶん。よくわからんけど。あと、綺麗。

 一応、お礼いっとくか……。


「ありがとうございます、校長先生」

「ルルベル、もし君が簡単に死んだりしたら、僕はもうこの世界を見捨てますからね」


 ちょ。なにその特大の脅し!


「まだ死にたくないですし、気をつけます」

「リート、わかっていますね?」

「もちろんです」


 この騒ぎの原因となった悪口雑言大魔王は姿勢を正し、真面目な顔で答えた。

 ちらっと光学迷彩忍者の方を窺うと、わりと嫌なものを見る目でリートを見てるので、あっ、まだ腹は立ててるんだな、と思った。

 そりゃまぁそうだよな……。

 ファビウス先輩が、ナヴァト、と忍者の名を呼んだ。光学迷彩忍者は、さっと真面目な表情になる。やっぱ、ファビウス先輩が相手のときだけ、態度が違う気がするなぁ。階級意識、根深い!


「今夜はローデンスのところに戻って、正式に話を通して来るといい。吸血鬼に関しては、なるべく早く始末をつけるつもりだけど、うまくやっていけそうなら長期の任務になる。当然、ローデンスは君の代わりを手配する必要があるだろうからね」

「わかりました」

「先生がたも。そろそろ、夜の見回りをお願いします」

「わかったわかった。さっきの場所を重点的に、だな?」

「はい。よろしくお願いします」


 さっきの場所? 打ち合わせではそんな話は出てなかったと思うから、ファビウス先輩の部屋に移動後、なにか話があったのかな。

 あ〜、わたしもリートが忍者を煽るのに巻き込まれるより、そっちに同行したかったな……。


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