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239 話の進みが早い! 新幹線か!

 結局、昼食も例のお嬢様グループと一緒に食べることになったんだけど、なんか……興味深い。

 わたしの知らない世界、って感じ!

 全員が伯爵令嬢で、経済的には困っていない。

 お金って、集まるところに集まるからなぁ……というのが、わたしの感想である。

 で、困ってないからお金を稼ぐ意識もなく、しかしおとなしく嫁に行くのも癪に障る、って感じみたい。

 嫁に行きたくないなら自分で稼ぐ道を探しなよ、ってとこだが……貴族のお嬢様、そういう発想自体がないんだろうなぁ。


「ルルベル嬢は、どうなの?」


 おっと、急にふられた!


「どう……とは?」

「結婚の話よ。婚約者はいらっしゃるの?」

「ああいえ、わたしはまず聖女のつとめをまっとうしたいと思っておりますので」

「まぁ……なんてご立派なのかしら!」


 シデロア嬢は、感心のしかたも明るい。


「ね? ルルベル嬢とお話をして、わたしやっと理解したわ。聖女って、なるべくして聖女になるものなのね」


 アリアン嬢の方が、少しクールである。クールなだけに、ふふっと笑ったときの破壊力がね……。これがギャップ萌えというやつか!


「そうね。でも、婚約のことは考えておかれた方がいいんじゃないかしら。わたし、思うのよ……ローデンス様が、あなたを放っておくわけないだろうって」


 へぇ〜、と聞き流してから気がついた。

 いや待てよ。ここでいう「あなた」イズ「わたし」か! ルルベルに、いってんのか!


「そんなことは……第一、身分が違います」

「身分ですって? 国がおおやけに聖女と認めたのなんて、何年ぶりだと思っているの?」

「たしか、わたしの前に公的に認められた聖属性魔法使いは西国〈ノーランディア〉の出身で、亡くなったのが三十年ほど前のことになります。彼女を聖女として認定したのは西国なので、それを勘定に入れてもいいなら約四十六年前です。その前は央国〈ラグスタリア〉出身のかたで、彼女が聖女として認定されたのは、えっと……八十四年前?」


 いかん。引かれた。

 聖属性魔法の歴史については叩き込まれたので、うっかり知る限りの知識を披露してしまったが、ここまでは求められていなかった!

 わたしにはわかるぞ、これ絶対「キモ……」って思われてる!

 あわてて看板娘スマイルを召喚し、説明する。


「聖属性魔法の歴史はちゃんと把握しろとジェレンス先生に強くいわれまして、それで……とても勉強しました」

「そういえば、あの試験でも……かなり正答なさってましたわよね?」

「さすが聖女様ですわ」


 スマイル延長!


「試験の方は、教えてくださったかたが優秀だったので」


 いやしかし、そうか……彼女らの反応を見ていると、座学が得意でないのはアリアン様だけではなさそう。全員、興味がないんだろうなぁ。

 なんなの? わたしの周りって座学が得意なひと存在しないの?

 いやそんなことはない、全問正解のエーディリア様とリートがいる……。

 ……極端なんだよなぁ!


「どなたに教わったんですの? ジェレンス先生? それともウィブル先生かしら……。舞踏会のとき、親しげになさってましたわよね?」

「あのときのウィブル先生、とても素敵でしたわね」

「ほんとうに」


 全員が、うっとり顔になった。ウィブル先生もなぁ……あれも一種のギャップ萌えよね。


「いえ、ウィブル先生ではないです」

「ではどなた? やっぱりジェレンス先生?」

「まさか。ジェレンス先生は、あの試験を楽しんでらしたじゃないですか……」


 楽しむ方向性が、あきらかにおかしかったよな!

 とにかく、わたしに楽をさせてくれるつもりは微塵もなかったと断言できる。


「そういえばそうね。だったら、どなた?」

「その……ファビウス様です」

「まぁーあ!」


 まぁーあ! って声にしたのはシデロア嬢だけだったけど、全員がそういう顔になったよね。まぁーあ! って。


「ルルベル嬢は研究所にお部屋をいただいているって、ほんとの話なのかしら?」

「わたしも聞いたわ。もうずっと、女子寮には帰ってらっしゃらないって」

「まさか、ファビウス様とご婚約?」


 早い早い、話の進みが早い! 新幹線か!


「違いますよ。わたし……皆様もご存じのように聖女であるせいで、いろいろこう、危険がありまして。それで、魔法的に防御がなされている研究所の方に寝泊まりすることになっただけです」

「まぁーあ!」


 まぁーあ! 第二回!

 ああ〜……うっかりまともに回答しちゃって、まずったかな〜!

 シスコじゃないけど、未婚の女性が! 男性の研究室に泊まるなんて! あり得んくらい、ふしだら判定がくだるんだけど!

 でも、わたしの不安を彼女らは吹き飛ばした。


「わたしも寮以外のところにお泊まりしてみたいわ」

「あなたはいいじゃない、わたしなんか、寮さえ許してもらえなかったのよ。毎日、馬車で学園と家を行ったり来たり……自由というものがない暮らしに、うんざりよ」

「わたしもよ。学園に入れば家を出られるかと思ったのに」


 ……ますます、皆様非常におよろしいお家柄なのでは疑惑が深まるね! 怖い!

 伯爵家は伯爵家でも、いろいろありますからね……家柄の古さとか、王室との距離とか。こういうのも、エーディリア様に教わったんだけども。ものすごくざざっと、爵位だけで見たら地雷を踏むことになるから気をつけろ、的なレクチャーを受けたのだ。


「でも、ファビウス様に教えていただけるなんて、羨ましいわ」

「たしか、ルルベル嬢と入れ違いで卒業なさったんだけど、あまりお教室にいらっしゃらなくて」

「そうそう。せっかく同じ学年なのに、ご挨拶くらいしかしたことがないの」

「とても感じのよいかただけど、いつもお忙しそうだったわよね」

「研究所に入られたときは、卒業しても学園の敷地内にはいらっしゃるのだからと、胸を撫で下ろしたひとが何人もいたのよ」

「でも、競争相手が聖女様じゃねぇ……」

「ほんとにね」


 だから! なんですぐ話がそっちに行くんだ!


「ファビウス様は、誰にでも親切にしてくださるだけですわ。そういえば、今回の試験勉強は、ローデンス殿下やスタダンス様も一緒に教えていただきましたのよ」


 ああ……お嬢様言葉が伝染するぅ! 伝染するけど、ちゃんと使えてるか自信ないぃ!


「まぁ、殿下が?」


 ……あっ。一対一じゃないということを説明したかったのだが、ますますめんどくさいことになりそうな。


「やっぱり殿下は聖女様を狙ってらっしゃるわね」

「ええ、間違いないわ。今日も教室で、熱心にみつめてらしたわよ」

「スタダンス様も? スタダンス様もそうなのかしら?」

「そうであってもおかしくはないわ……」


 ほらぁー! どうして喋っちゃってから気がつくかな!


「ですからわたし、聖女としてのつとめを果たすことが最優先だと心得ておりますので……。殿方のことは、なんとも」


 正確には、なんとも思ってないわけじゃないけど!

 でも、なんとも思わないようにしようと全力で頑張ってるから!


「決まったかたがいないと、大変なことになりますわよ」

「そうですわ……」

「でも、ちょっと面白そうでなくて? たくさんの男性が、ルルベル嬢の前に列をつくるのよ」

「なんてことを! あなたの厳しい伯母様が聞かれたら、絶対にこうおっしゃるわよ。『アリアン、求婚者について噂するなど、はしたない。恥を知りなさい。我が家の家訓を思いだすのです』」


 お嬢様がたは、声をあわせてつづけた。


「『つねに気高くあれ』!」


 皆で笑ってらっしゃるのは、たいへん微笑ましい。厳しい伯母様の決め台詞、よほど頻繁にいわれてるんだろうな。

 しかし、求婚者が列をなすって。まさかそんな。

 でもここで、わたしは舞踏会で遭遇したチャチャフの群れを思いだした。あれは伝言を仰せつかった使用人たちだったけど、機会さえあれば、どこぞの御曹司ご本人がチャチャフ化しかねないの? 直接?

 いやまさか!

 ……スタダンス様が実際にそういうムーヴをこなしてた気もしないでもないけど、スタダンス様はスタダンス様だからなぁ!


「そういえば、舞踏会を開こうという話は、お聞きになって?」

「あ、はい。でも、それもお断りしました」

「ルルベル嬢ったら! ほんとうに真面目なのね」


 お嬢様たち、吸血鬼が出たことについても、あんまり深刻に考えてなさそうだなぁ。

 なんかこう……ああ〜! ってなるね。

 今! 王都には伝説的吸血鬼が潜んでるんだよ! かなり危険なんだよ!

 リートがわたしを危機感がないと盛んに批判していたときって、こういう気分だったのかな……手の届かないところがかゆいみたいな気分。ああ〜! もうほんと、ああ〜!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ルルベルに足りない恋愛脳をここで習得するのだ!
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