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232 護衛対象を置いていくなーッ!

「魔力の計測を――ルルベル?」

「はい」

「なにしてるの?」

「スカーフをかぶっています」

「どうして?」

「うっかり、おでこをぶつけてしまって。変な顔なので」


 嘘である。ファビウス先輩の顔をまともに見たり見られたりしたくないので、大判のスカーフを前めにかぶっているのである……つまり、顔の上半分が隠れそうな勢いで。

 ……この変な格好を見られるのも、それはそれで恥ずかしいのではないかという気がしてきたが、今さら! 後には引けぬ!


「大丈夫? ちょっと見せてくれる?」

「絶対、嫌です!」

「絶対……」


 わたしの口調が強過ぎたのか、ファビウス先輩を絶句させてしまった。

 もうこの勢いで押し切るしかない!


「嫌です」

「そんなに?」

「乙女心ってやつです。顔にちょっとでも異常があったら、誰にも見られたくないです」

「……なおさら心配なんだけど」

「覗き込んだら死にますからねっ」

「やめてよ、冗談でもそんなこといわないで」

「冗談じゃありませんから」

「わかった、わかったから落ち着いて……」

「魔力の計測をしましょう」

「……そうだね、そうしよう」


 よし、押し切った!

 ものすごく残念な達成感!

 魔力測定ができる、いつもの部屋――つまり、呪符書いたり魔力玉作成の実験をしたりに使っている部屋だ――に着いたところで、ファビウス先輩は調子を取り戻した。


「まず呪符を描いてもらえる? いつもの聖属性の」

「……はい?」

「呪符一枚を作成するにあたって、君が魔力をどれくらい消費しているかを測定しよう。前から、数字を出したいと思っていたんだ」

「魔力消費してるんですか、これ」

「もちろんしてる」


 リートなら思いっきり馬鹿にしてくるところを、肯定だけで済ませてくれるファビウス先輩マジで対人能力高い。

 いや、リート風情と比較するのが間違ってる。失礼しました!


「えっと、つまり……大した量じゃないだろうって思ってたので」

「そう、大した量ではないはずだよ。でも、そういう思い込みや見込みで動いて、間違っていたら困るからね」


 というわけで、わたしは呪符を描くことになった。

 しかも、一枚だけではブレがあるからと、何枚も……エンドレス……えっこれ日常作業と同じじゃん? なんも変わらないよね?

 ウィブル先生ごめんなさい、せっかく治してもらったけど、なんか早々に痛くなってきましたよ、右手……。


「リートも黙って見てるのは暇だろう? 練習していいよ。紙はたくさんあるし」

「呪符魔法は諦めろとウィブル先生にいわれました」


 いつの間に!

 でも、正しい判断っぽい気がする。


「暗記はできているみたいなのに、惜しいな」

「呪符を見て効果を判断できるので、暗記は今後もつづけようと思っています」

「ああ、じゃあ基本図形に一対一対応する呼称を決めるといいね」

「一対一対応する……円、みたいなですか?」

「そう。円や直線は一般的な用語としてあるから、それはいいとして、呪符の場合は配置と割合が重要だからね。割合も数値化できるとして、配置はどう表現するのがいいかな……」

「失礼ですが、それが可能だと、どんな利点が?」

「描ける相手に伝えることで、その相手が暗記していない呪符を作成できる。たとえば、ルルベルに伝えれば、ルルベルが描ける」


 少し考えてから、リートは質問を追加した。


「その場合、一対一対応の呼称をルルベルも覚える必要があるのでは?」

「そうなるね。ただ、図形自体を覚えるよりも、部品となる図形の呼称を覚える方が数も少ないし簡単だ。きちんと意思疎通ができれば、君の記憶力は武器になる」


 リートがこっちを見下ろしている気配を感じる……スカーフ越しに感じる……こいつ馬鹿だから自分で覚えられる数には限度があるだろうなって思われてる気配まで感じる……なんでこいつの役に立ってやらねばならんのだ、まで思ってそう……。

 とはいえ、結局のところ。リートとわたしは護衛する側・される側という関係なわけだし。だったら、護衛対象本人も、手段として使える方がいいな、と結論しそう。

 わたしの想像するリートの解像度が! 無駄に高い!


「わかりました。まず、ルルベルを教育してみましょう」


 おい! 言葉のチョイス! 結論は合ってたけど、表現!


「その前に、どう伝えるかをきちんと体系立てておいた方がいいね。必要な基礎図形の割り出しと、配置の規則化、誤解のない表現の選出。どこぞの国の軍隊あたりに前例がありそうだけど、大暗黒期前の記録はほとんど残ってないしな……。よかったら、書庫を使ってくれていいよ」

「感謝します」

「策定できたら、まず僕に見せて。たぶん助言できるから」

「わかりました」


 リートが素直! べつにバイト代が出る仕事でもないのに!

 さっそくリートが書庫に行ってしまったので……。

 えっ。

 ちょっと待て。

 待てい!

 ファビウス先輩とふたりきりにしないで!

 使えねぇ護衛だな、おい! こら! 護衛対象を置いていくなーッ!


「ルルベル、手が止まってるよ」

「わ。すみません」

「紙がなくなるまで描いたら、ちょっと休んでね」

「はい」


 紙が……なくなるまで……けっこうあるな。

 わたしは無言でせっせと呪符を描きつづける……すぐ近くにファビウス先輩が立っている。気配が近い。重い。意識し過ぎだっつぅの、もうほんと!

 呪符に集中しろ!


「思ったより、数字が上下するなぁ」


 すみませんね、わたしの集中力がですね……迷子だからです!

 とにかく、なんとか描ききったので、次は休憩である。ふぅー……やることがないの困る。リートなんで戻って来ないの。早く戻って来いよ。


「綺麗なスカーフだね」

「ありがとうございます。シスコがくれたんです、首元が寒……いや、さびしいときに使ってね、って」


 そう。ファッションには厳しいシスコなので、実用面についてはなにも言及しなかった! しかし贈られたのがファッション意識の低いわたしなので、おもに、微妙に寒いなって感じたときに活用させてもらっている。そして今の使いかた、シスコが見たら……ううう。


「シスコ嬢はセンスがいいね」

「はい」


 センスのいいスカーフを変な使いかたして、ほんっと! ごめんねシスコ!


「じゃあ、次は魔力玉を作ってみようか。大きさは、服のポケットに入るくらいがいいかな。君の魔力は残置性と物理干渉性が高いから、問題なく持ち運べると思う。以前、動かなくなってしまった例もあったけど……あれは再現性がないからなぁ。とりあえず、持ち運べるものと想定していいだろうね」


 忘れてたけど、そんなことあったな!


「あの魔力玉、お邪魔じゃなかったですか?」

「全然。むしろ――」


 ファビウス先輩の声が途切れた。


「むしろ、なんですか?」

「いや、こういう風にいわれるの、君は好きじゃないかなと思って」

「どういう風です?」

「口にしちゃったら戻せないからな」

「途中でやめられると気になりますよ」

「そうだよね……しかたないな」


 大きく息を吐いてから、ファビウス先輩は低い声で告げた。


「――君の一部が残っているようで、嬉しかった」


 ズガーン。

 おおシスコよ、大判おしゃれなスカーフをありがとう! 変なかぶりかたをした自分、グッジョブ! 今絶対、顔真っ赤になってる!


「こんな風にいわれるの、気もち悪くない?」

「え、いや……えっと……でもファビウス様って、はじめから、そういう感じでいらっしゃいましたよね?」


 そうだよな? たしか。


「厳しいな」

「すみません」

「まぁ、確かにそうなんだけど……それは、社交辞令で口先だけの話だったからだろうね。でも、このあいだの失言もそうだけど、僕は君に嫌われたくないから」


 今は慎重なんだ、と。聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でいわれて、わたしは!

 どうすればいいんですかーッ!

 もう無理マジ無理全部無理!


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