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23 重力魔法の後始末は危険過ぎる

 その間も、震動はつづいていた。フィールドの表面が、ぼこっ、って凹んでいる。ぼこって!

 ジェレンス先生がなにか口頭で指示して、生徒はくるっと指をまわし、今度は指先を下に向けた。ピッ!

 たちまち、生徒の前の地面が直径……一メートルくらい? ぼこぼこぼこぼこぼこぼこって音をたてて凹んでいく。いやこれもうボーリングでしょ、土木重機いらないかよ、重力でこんなことできるのか!


「一箇所に集中させたみたいね」

「制御も万全なんですね」

「気を入れてるときはねぇ……優秀なのよ、ほんと」


 ……こんな恐ろしい魔法が使える生徒さんには、気が抜けてほしくない。そんなの、半端なホラーより怖い。やばい。おそろしい。

 ジェレンス先生が屈みこんで穴を確認し、問題の生徒となにか話している。生徒はすでに手を下ろしているから、たぶん実技実施は終わったのだろう。

 なんか、すごいものを見てしまったな……。

 一学年の生徒さんたち、しょぼいのから無茶なのまで、振り幅大き過ぎるよ!


「……だから個別指導なんだな」


 理解したわ。これ、みんなで一緒に同じこと、なんてできないね、無理無理。せぇので重力どーんと来たら、洒落にならん。


「なんの話?」

「いえ、なんでも……あ、ジェレンス先生の声?」


 なんらかの魔法を使っているらしく、激やば教師ことジェレンス先生の声が競技場に響き渡る。


「――地下を補修するから、少し早いがここで休憩入れる。あと土属性の生徒ー、評価上げたかったら手伝いに来ーい」


 ゆるい。


「土属性じゃないけど、ちょっと覗きに行こうかしら」


 ウィブル先生につられて、わたしも立ち上がる。


「ご一緒していいですか?」

「もちろんよ。ジェレンスの顔を見に行きましょ」


 いや、それはべつに見なくていい。イケメンだけど、イケメン間に合ってるし。

 ほんとにね……しみじみ思うんだけど、顔で転生先を選んだの、どうかしてたよね……。今さらどうしようもないけども!

 階段を一段抜きで下りて行くウィブル先生に置いて行かれるまいと、わたしはせっせと足を動かした。椅子をまたいで行ったリートといい、おまえらちょっと……いや、すごく足が長いからって調子乗ってないか?


「ジェレンス」


 ウィブル先生が呼ぶと、ジェレンス先生は顔を上げてこちらを見た。

 すでに複数名の土属性と思われる生徒たちが集まって、深そうな穴を覗き込んでいる。君ら大丈夫なのか、深淵を覗くものは覗かれるんだぞ。


「なんだ? まだ負傷者は出てないぞ」


 まだ? まだ、っておっしゃいました? やっぱりこの催し、やばいやつなんじゃないの?

 お昼を校長先生とご一緒したら、午後はさぼった方が安全なのでは? いやでも危険な一年の全力はもう終わった……むしろ午後こそ見所満載な可能性があるぞ……。


「ちょっと見に来ただけ。ずっと座ってるのも退屈だしね」

「午後は負傷者が出るといいな」


 よかねぇよ!


「そういうものでもないわよ、ジェレンス」

「ああ、軽傷なら生徒にやらせるか」


 やはり、激やば教師は激やばだと確信した瞬間である。

 ウィブル先生は肩越しというか羽毛ストール越しにふり返って、わたしに同情の視線を向けた。


「ほら、ルルベルちゃんがすっかり萎縮しちゃったわ。物騒なこというから!」

「ルルベル? ああ、来てたのか。おまえ、出番ないだろうに」


 リートと同じことをいわれた。どうせわたしに出番はないですよ……そもそも、聖属性魔法をどうやって使うのかとか、なんにもわかってないし。

 ジェレンス先生は、穴を覗き込む生徒たちに視線を戻しつつ、こういった。


「来ちまったんなら学んで帰れよ」


 雑で乱暴な発言のあいだに教師らしい台詞を挟んでくるのが、もうほんっと……。

 いやでも先生、学ぶのはいいけど、なにをですか。王子の魔法は超弩級でした、とか? 渦属性ならジェレンス先生を倒すのもワンチャンって考えて失礼しました、とか? あるいは重力属性マジ怖い、とか……。


「その……そこの穴って、重力を集中させた結果、掘れた、みたいな感じですか?」

「掘ったという表現は、あたらないな。敢えていうなら、圧縮だろう。今、永続性がどれくらいあるかについて考えてるところだ」


 永続性。……その発想はなかった。もし永続性がないなら、さっきの重力属性の生徒が魔法をかけるのをやめてしまった今、この地面はどうなるのだ。


「戻ってきちゃったりするんですか、穴の中身」


 ジェレンス先生はこちらに寄って来て、少し声を低めた。


「ただの隙間、つまり含まれてた気体や水分が押し出されて外に逃げてるなら、そう簡単には戻って来ないだろう。だから、あいつらに見せてる」


 なるほど……ぼこぼこいってたのは、空気とかが外に出ていく音だったのか! それに、負傷者が出てもウィブル先生がいるから大丈夫論にもとづいて生徒を集めたわけではなさそうだ。

 そういうところ、実はジェレンス先生の方が常識あるのかもしれない。ウィブル先生って、自称・国一番の生属性魔法使いだけあって、なにかあっても治せばいいのよって理念で動いてる感があるよね。だんだんわかってきた。


「外に逃げるって、どこに?」


 質問したのは、そのウィブル先生だ。ジェレンス先生に顔を寄せて、ひそひそ尋ねてる。うっ……イケメン率が高い。直視しない方がいいかもしれない。

 ジェレンス先生は、生徒たちを見ながら答えた。


「地中しかねぇだろうな。上は重力かけてたから、下と横に逃げたはずだ」

「周りの地面は大丈夫なんですか?」

「きちっと散ってりゃ問題ねぇだろ。ただ、開始時点で全体に負荷をかけたから、ちょっと隙間が減ってると思うんだよなぁ。どこかから突発的に気体が塊になって抜けてくる可能性も、まったくないわけじゃない」


 逃げていいかな。

 じりりと後ずさったとたん、誰かにぶつかった。


「わっ、すみま――」

「おっと失礼」

「――校長先生!」


 そこにいたのは、エルフ校長だった。なんかいい匂いする……こう、草とか森とか風とかそういう……意味もなく深呼吸したくなる系の。

 校長先生は、よろけたわたしがきちんと立てるように肩のあたりを支えてくれて、それから、あらためてにっこりした。


「昼食の招待を受けてくれたようだから、迎えに来ました。ですが、少し待ってくださいね?」

「え、はい」


 校長先生は、わたしの横をすり抜けてジェレンス先生とウィブル先生に並んだ。あっこれ直視したらいけないやつだ。見ない見ない……いかにルルベル2オープンβといえども、これは無理。たとえエルフ校長が後ろ姿に過ぎなくても、あのサラッサラの長い金髪だけでイケてる顔面の八割くらいの効果がある。


「ジェレンス、フィールド整備は生徒にまかせないでください。危ないでしょう」

「アタシがいるから大丈夫よ」

「だいじな生徒たちに、けがをさせるわけにはいきません」

「でも校長、こういうのも勉強だと思うぜ? なにが起きるか、自分で考えて、対策するってのが」

「重力魔法の後始末は、危険過ぎます」


 そう断言すると、校長先生はなにか不思議な言葉をつぶやいた。歌ってるみたいな……なんの言葉だろう。

 ……あっ。これエルフ語? エルフ語なの?

 あまりの美しさに、その場に居合わせた全員が陶然とその声に聞き入る中、フィールドをほんの一瞬だけ靄が覆い、そして風が吹き抜けた。


「……うわ」


 思わず声が出ちゃったよ。だって、あちこちの地面が凸凹してたのが、ひらたくなってる!

 ただ、さっきの生徒が最後に空けた大穴だけは、そのままだった。


「この部分を均質に戻すだけでも、生徒たちには大いに勉強になるでしょう。導いてあげてください」

「……わかりました」


 ジェレンス先生が! おとなしい! すごい、さすが校長先生!

土・日は、なろうへの移植はおやすみします。

月曜から移植再開します。

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