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229 またしても「聖女のくせに試験落第」の悪夢が!

「おーっし、今日はちょっと時間あるから、おまえらがきちんと学んでるかを確認するぞー」


 入室するなり、ジェレンス先生はそう宣言した。

 周りの皆が姿勢を正すのを見て、ジェレンス先生はちゃんと先生扱いされてるんだなぁ、と思う。

 ……ヤバい。

 王子に慣れたのもたいがいどうかと思うが、当代一といわれるジェレンス先生にも慣れ過ぎだよね、わたし?


「じゃ、順に進度見てくから、各自学習!」


 エーディリア様が呼んでくれた場所は教室のいちばん後ろで、わたしの数少ない、教室で授業を受けた記憶によれば、定位置である。

 たぶん、当時は常時同行していた王子の安全を守るためのチョイスであろう。戦いは高所に陣取るのがセオリーだからね。よう知らんけど。


「おいおいマルデブラン、前に見たときからなにも進んでねぇ。どういうことだ?」


 マルデブランなる生徒が餌食になっているあいだに、わたしも本を広げて……いやでも最近、呪符魔法の実技ばっかやってたからなぁ。魔法の歴史の本とか読むの、久しぶりだわ。

 このあいだ詰め込んだ試験用知識は持ち堪えてるけど、問題は、その前だ。

 なにやってたか、忘れてるかもしれない。

 ……あれっ? マジでヤバいぞ。わからんぞ。わたし、なに勉強してたんだっけ。

 ちょっと待てよ、今の呪符地獄の前は……東国セレンダーラに連行されてたな。そういえば、本を持って行くの忘れて勉強できなかった。その前は……その前、なにやってたんだっけ?

 わぁ、勉強の指針が迷子になってる!

 動揺するわたしの耳に、ジェレンス先生の声が響く。


「そうだ、これ伝えておかなきゃな。おまえら、前回の試験は全員同じ問題で、話し合って解決なんつう裏技が使えたが、次は違うから覚悟しとけよ。あと、進級に挑戦したいやつは申し出ろ」


 ……ナ、ナンダッテー!

 そういえば、進級の要件とかも確認してないな……ファビウス先輩がすごい勢いで卒業してるくらいだから、期間とかそういうんじゃないんだろうな。

 ああ! 皆、国家試験の条件とかまで調べてるというのに、わたしときたら! 次の試験がどんな内容になるのかさえ、おぼつかないぞ。


「ひとりずつ問題が違う……ってことですか?」

「そうなのだろうな」


 思わずつぶやいたわたしに返事をしてくれたのは王子だが、よく考えたら、並んで座っているエーディリア様、わたし、王子、リート……全員、入学時期が一緒。試験を体験した回数も同じである。

 学園のシステムがよくわかっていない団体だ!


「次の試験は、試験官にひとりずつ呼び出される形式になるそうですわ」

「同じ教室にいるものの、入学時期は違うからな。学習の進度も当然、それぞれ違う。試験で知識を確認すべき内容にも差が出て当然だ」


 ……よくわかってる生徒が半分を占めている、この現状!

 よく考えたら、エーディリア様もリートも前回のテストは満点でさっさと退室したわけで。ああ……人間としての性能や心構えの差が! 胸をえぐってくるね!


「そもそも論なんだけど、わたし、『そのとき必要な知識』と『その場で必要な技術』を詰め込みつづけてるから、体系的に学べてる気がしないんですよね」

「同感だ。魔力の制御の練習をはじめた頃は、それ以外のことはできないくらい疲労困憊ひろうこんぱいしていたからな」


 駄目な方の二名が、自己正当化に励んでいると。


「ですが殿下、最近はずいぶんと上達なさったではないですか」

「……ああ、ひとりで出歩ける程度にはな」

「制御のための無駄な力みが消えれば、きっと、お疲れになることもなくなりますわ」

「それは、まぁ……」

「これからは、座学の方もきっとはかどりましてよ」


 わたしを挟んで、貴婦人スマイルがぶっぱなされた。う……美しい。

 そして、あろうことか、そのスマイルが次はわたしに向けられた!


「ルルベルも、舞踏会の支度に時間をとられることもなくなったわけですし」

「……そうですけど」


 でも、聖属性呪符を描きまくって腱鞘炎になりかけてるんだよなぁ! この状況で、どうやってふつうの勉強をしろというのか。無理だ、無理!

 そして、この話は一応、部外秘である。

 聖属性呪符の存在自体が、あまりオープンには話せない内容だ。まぁ、東国の前線で使った以上――あれも、こまかい説明をしたわけじゃないから、聖女様が力をこめてくださったから聖属性になった、みたいな誤解をされている可能性はあるが――完全に秘中の秘ってわけでもないし、察しのよろしいタイプならば推察は可能だろうけど。

 まぁ、嘘じゃないラインで説明するならば。


「わたし、護身のためもあって呪符魔法を勉強していて……最近は、そちらばかりやってるんですよね。でも、一学年の試験で呪符魔法って、やるでしょうか?」


 この疑問に回答したのは、リートである。


「試験官次第だろう。次の試験は筆記ではなく、実技だからな」

「え、そうなの……どうしよう」


 ますますヤバいじゃん! 魔力感知できないのに、どうやって魔法を使えっていうんだよ!

 待って待って待って、またしても「聖女のくせに試験落第」の悪夢が! 外聞悪過ぎ聖女への道を突っ走りかねない未来が!


「まぁ、ルルベル……」


 なぜか、エーディリア様に同情的な顔をされてしまい、さらに怯えるわたし。

 えっなに? なんでそんな顔? なにがあるの!


「エーディリア様、わたし……。無理です、実技試験なんて」

「あなたの場合、どなたが試験官をつとめられようと、事情を斟酌しんしゃくしてもらえると思いますわ」


 聖女であることを忖度そんたくされちゃうのか! それはそれで嫌だ!

 あの聖女、なんにもできなくても試験通過だって〜、さすが聖女、みたいになるのは嫌だぁぁ!


「なぜ頭を抱えるんだ」


 シンプルに疑念を発したリートに、わたしはうめき声だけで答えた。

 君たちにはわからんよ! デキる人間には!


「試験までに、もっと魔力の制御を鍛錬しておかねばな」


 王子も、やる気に満ちた決意表明をしている。

 魔力の制御……わたしもしたい。できるようになりたい。なるべきだし。

 だけど、相変わらずまったく感知はできないんだよなぁ!


「そういえば、試験官は誰がつとめるのだ? 担任か?」


 王子の質問に、エーディリア様が答える。


「担任と、最低でもあと一名、場合によっては二名が同席すると聞いていますわ」


 えっ。マンツーマンよりきっついじゃん!

 つまり試験に失敗した場合、ジェレンス先生に「つっかえねぇな〜」って顔されるだけでは済まないわけだよね。これが当代の聖女か……って、がっかりされるわけだよね?


「俺が聞いたところでは、その生徒の魔法を専門に扱っている教師が来る、という話だった」

「ええ、そう聞いていますわ」

「だったら、はじめから教師を全員並べておけばよかろう。そうではないのか?」

「殿下、魔法学園の教師は全員、同時に優秀な魔法使いでもありますの。かれらは、さまざまな依頼を受けていますのよ。余分な時間など、ございませんわ」

「依頼? 誰からだ」

「国からの依頼も少なくはないと思いますわ」

「なるほどな。しかし、ルルベルの魔法が専門の教師など、いるのか?」


 三人とも、なぜかわたしを見た。

 ……知らんがな! 知るわけあるかい!


「わたしは存じませんが」

「研究者だったら、いるんじゃないかしら……」

「研究所員が立ち会いに来るかもしれんな」


 ……こっちはわかる。わかっちゃうぞ。今、間違いなく聖属性魔法を研究している研究員を知ってるもん。

 ファビウス先輩だよ!

 なんか嫌だぁ、試験官がジェレンス先生とファビウス先輩だなんて……なんかこう、身内っぽくて嫌だぁ!

 試験は受かりたい。わたしにも体面というものがある。だが、ズルはしたくないし、ズルだと思われたくもないんだよ……。

 ジェレンス先生はともかく、ファビウス先輩は絶対甘やかしてくるだろ。君はそれどころじゃなかったんだから、しかたがないよ……みたいにいうだろ! なにができても、できなくても、合格にしそうだろ!

 ……まさか、試験に無条件で受かりそうで嫌だ、なんて悩むことになるとはね。


明日は更新をお休みします。

じわじわ近寄ってくる台風のせいで頭が重くていろいろ無理そうなので、作業量を減らすためです。

毎日更新って大変ですねぇ……。

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