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22 一学年の実技実施は稀少属性の展覧会なのか

 なにか今、聞こえたよな?

 ちょっと待って、前もこんなことあったぞ、たしか……前っていうか昨日だ。そう、昨日。これは冷静に考えてみなければと思った矢先。

 わたしの鼻先に、ひらっ、となにかが舞った。


「えっ」


 あわてて受け止めると、それはまた、蔦の葉のような形をしたメッセージ・カードだった。いや、これ実際に蔦の葉なのかな……全体はやわらかな緑で、葉脈が金色にかがやいてて透けて見える。なんて綺麗。

 その葉っぱの中央に、ぱぱぱっと文字が浮かび上がる。これも金色の、流麗な筆記体。


 『あなたとの昼食を予約してもかまいませんか? ―エルトゥルーデス・ダレンシア―』


 エルフ校長、対処はやっ! というか、リートがなにをどう話したのか気になる。あの無表情で、飛び級天才少年研究員が魔性のたらしテクニックを駆使してますとか報告するのだろうか。


「あら、校長からのお招きね。羨ましいわ」

「わたしだけですか?」

「当然よ。アタシは職務があるもの。今日はこの競技場から出られないの。いつ、けが人が出ても対処できるようにね」

「なるほど……」


 それであの、とわたしはエルフ校長からの昼食のお誘いっぽいものを見ながら尋ねた。


「どうやってお返事すればいいんでしょう?」

「折って」

「えっ、この芸術品をですか」


 思わずまじまじと見てしまった。ウィブル先生の顔を。……あっいけない、こんな近距離でイケメンを浴びるのはよくなかった、いかに顎とか口とかが羽毛ストールで隠れ気味であったとしても、軽率なおこないだった!

 先生は少し目元をゆるめる。


「それ、ただの葉っぱよ」

「ただの葉っぱは葉脈が金で透けてて光ったりはしないです」


 下町の常識が通用しない葉っぱがあるなら別だけど。


「光ってるのは、もちろん校長の魔法よ。お願いすればいくらでも作ってくれるわよ。ほら折って」


 いわれるままに、葉っぱの先っちょを少しだけ折ったら、ウィブル先生がふきだした。


「そんなせこせこした折りかたしないの。もっと一気に、まっぷたつに折りなさいな」

「ええぇ……もったいないです」

「もったいなくないんだって、教えたでしょ。それ、ただの葉っぱ。もう、ちゃんと折らないと返事ができないわよ」


 ……エルフ校長しかも公爵その上魔王封印実績がある最強パーティーのメンバーからのお誘いを、ガン無視はできない。わたしには無理だ。弟じゃない方のリートなら可能だろう。あの強メンタル、少しだけうらやましい……。

 しかたなく、わたしは葉っぱをふたつに折った。すると、手のあいだで葉っぱが少しだけあたたかくなる。


「発熱した?」

「あ、はい。少し」

「じゃあもう心配いらないわ。返事は届いたわよ、校長に」

「あの、焦ってて気がついてなかったんですけど……わたし『はい』も『いいえ』も選んでません」

「やぁねぇ、校長の誘いに『いいえ』はないの。届きましたよって返せば、それでもう『はい』なのよ」


 やさしそうなエルフ校長、意外とダイナミックに自己都合優先タイプらしい。

 手の中の葉っぱがほろほろと崩れていく……この手紙は読後崩壊するのか。雅なのか、諜報的な都合なのか、判断できない……。


「校長先生は……自然属性なんですよね?」


 ううん、とウィブル先生は少し顔をしかめた。


「そこは難しいのよね。エルフの魔法って、人間の魔法体系とちょっと違うから。研究書なんかでは、自然属性ってことになってるけど、じゃあ自然属性ってなにかっていうと……明確な定義はできてないの」

「そうなんですか」

「雑にいうと、人間の手が及ばないもの。それが自然属性ってことになるかしら」

「へぇぇ……」

「それよりルルベルちゃん、次の演者は一学年でいちばん強いわよ、たぶん」


 すっかり実技から気が逸れていたわたしは、先生の言葉に、あわてて競技場に視線を戻した。


「それは見逃せません」

「ジェレンス以外、フィールドにいなくなったでしょう、誰も。残っていると危険だからよ」

「……ほんとだ」


 それでも残っているジェレンス先生の強さがわかるというものだが、それはそれとして。


「なんの属性なんですか?」

「重力」


 口がぽかんと空いてしまった。

 なんだこの学年、稀少属性展覧会か! 誰かコレクションしてるのか!

 重力属性って聖属性より珍しい。歴史上ほとんど類を見ないほど(一夜漬けのわたし調べによる)。

 逆にいえば、聖属性は、それなりの間隔で出現しているのだ。たぶん、魔王とバランスをとるために出てきちゃうんだろう(これを聖魔均衡論と呼ぶ。例の本に書いてあった)。

 そのバランスのせいで自分がこうしてここにいると思うと、なんだか複雑な心境ではある……。


「重力魔法なんて見るの、はじめてです」

「そりゃそうよぉ。公式の記録では、二百五十年ぶりだっていうもの」


 二百五十年……って、それこそエルフ校長くらいしか見たことないのでは?


「建国より前じゃないですか?」

「たぶんそうじゃない? 大暗黒期前の記録が残ってなければ、史上初になったかもしれないわね」


 大暗黒期というのは、例の、聖属性取り合ってたら肝心の聖属性魔法使いが死んじゃって魔王と戦う手段がほぼなくなった、残念にもほどがある展開が招いたアレだ。当時、聖属性魔法使いの争奪戦に参加した三国の王は、歴史的愚者として名前が残っている。名前は残ったが、国は滅びた。

 ま、当然ではある。

 大暗黒期のせいで人類の文明は衰退し、それをなんとかしたのが我が国の建国王である。王家が今も民の尊崇を集めているのは、そして周辺国をほぼ属国扱いで永きに亘る平和を実現できているのは、魔王封印の功績が大きい。って本に書いてあった。


 下町の平民的には、なにも考えたことなかったです。


 ……またしても気が逸れていたが、とにかく目の前に、いやかなり遠くに! 稀少属性の生徒がいるのだ。重力って、どう実演するんだろ。

 これまた当然のことながら、問題の生徒の見た目はふつうである。距離があるから顔立ちなんかは全然わからないが、体格的に、男子だろう。ストレートの黒髪が風になびいて綺麗だなと見ている内に、生徒は髪を紐でくくってひとつにまとめた。実技の邪魔にならないようにかな。


「はじまるわよ。よく見てなさい」

「はい。……あのかた、魔力はどれくらいなんですか?」

「重力属性は、魔力効率がすっごくいいのよ」


 ほう……。ということは、魔力が少なくても効果が見込めるってことか。省エネでいいな、と納得していたわたしに、ウィブル先生はとんでもないことを教えてくれた。


「しかもあの子、魔力量もすごいのよね」


 なんですと?


「……我々は滅亡せずに済むのですか、先生」

「大丈夫よ、ジェレンスがいるし」


 ジェレンス先生への信頼が無限大!

 そうね、はいそうね、ウィブル先生はジェレンス先生とのつきあいも長くていらっしゃるからね、信頼できるんだろうけどね、わたしは! 激やば教師とその生徒としての、この二日ほどのつきあいしかないからね!


 生徒が右手を挙げた。例によって、肩くらいの高さまで。それから、ひとさし指を立てた。ピッ! って勢いで。


 ドン!


「えっ、今――」


 音がした、といおうとしたけど、声にならなかった。

 競技場全体が震えている。え、これまずいのでは? やはり我々は滅びてしまうのでは? 全速力で逃げるべきなのでは?

 思いっきりびびるわたしの手を、ウィブル先生が励ますように握った。


「大丈夫ってば。なにかあっても、すぐ治してあげるし」


 や、先生、お心はありがたいのですが、できれば、なにもない方を選びたいです! なにかあったらいやだし、ある前に逃げたい、なにがなんでも!


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