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214 そういうフラグを立てるのはやめろぉ!

 わたしは、ぽかんとしてしまった。

 えっ……これは……どういうことなの? リートが視界から消えてしまったのだが……えええ?

 呆然としていると、声がした。


「ルルベル、大丈夫か!」


 ジェレンス先生だ。……えっ? いや……今度は大丈夫なジェレンス先生なの? ちょっと待って、わたし相当混乱してるぞ!

 すぐ目の前に、ジェレンス先生が降り立った――つまり上から来たわけだが、今さらジェレンス先生が空から来ようが地面から生えて来ようが、おどろきはしない。……いや嘘、地面からは、ちょっとびびると思う。


「校長、そっちまかせた!」

「わかってます」


 なんとびっくり、ジェレンス先生とエルフ校長が阿吽の呼吸になっている!

 そしてジェレンス先生は、わたしをまっすぐに見た。あっ、これちゃんと見えてるやつだ。視線が合ったし!


「ぶ……」

「ぶ?」

「ぶっぱなしていいですか、魔力!」

「訊いてる暇に、さっさとやれ」

「はい」


 どかーん! と気合をふり絞ってはみたけど、もはや魔力があるんだかないんだか……。

 もちろんジェレンス先生はびくともせず、わたしの脇に手を入れて立たせた。自動的に、シスコも……ちょっとよろめいたけど、立つことになった。わたしが抱えてるからな!


「納得したか? 逃げるぞ」

「あの、リートは」

「さっきここにいたのは幻影だ」


 あっ、そういうこと……。よかった。……よかった?


「ほんものは?」

「気絶してた。ウィブルに投げてある」


 投げる……って、このひとたち実際に投げそうで怖いけど、まぁそういう意味じゃないだろう。と思いたい。

 というか、ウィブル先生が忙し過ぎない? わたしたちが急に姿を消したあとのフォローも担当させられてなかった? たぶんそうだよな?

 いや、それよりまず。


「リートは無事なんですか?」

「本人の自尊心以外は大丈夫じゃねぇか? おい、ぼさっと立ってねぇで掴まれよ」

「でも、わたしはシスコを抱き上げるのに忙しくてですね」

「しかたねぇなぁ……意識すんなよ?」


 そういいながら、ジェレンス先生はシスコごと、わたしをぎゅっと抱きしめた。

 ……やめろ!

 そういうフラグを立てるのはやめろぉ! 今の今までなんとも思ってなかったのに、急に意識したじゃねぇか、トンチキ教師!

 抗議したい気もちでいっぱいではあったが、かろうじて堪えたので褒めてほしい。

 というか、ひゅんっ! と


          もうこれ


                    まじで無理


 ぶっはーっ! 意識するどころじゃないでしょこれ! 無理ッ!

 で、気がつくと研究室の前だった。もちろん、ファビウス先輩の。


「と……図書館じゃなくていいんですか」

「あそこで一泊したくねぇだろ。ここなら、無限に聖属性呪符を描ける魔法使いがいる。いちばん安全だ」

「無限、て」


 ファビウス先輩の気力と体力に配慮してない発言だが、まぁ、意味はわかる。

 図書館も完璧ではないって話だったし……場所についての意見は、差し控えることにした。ここ以上に安全な場所を求めるなら、エルフの里ってことになりそうだしな!


「おいファビウス、いるか!」


 ジェレンス先生が乱暴にドアを叩くと、すぐにファビウス先輩が出てきた。


「先生……ルルベルも。大丈夫なんですか?」


 眼をしばたたくファビウス先輩の額に、ジェレンス先生がぺちっとデコピンを当てた。軽めに。


「おし、ほんものだな」

「なんの話です」

「偽物が出たんだよ。ルルベルを預けるから、護りを固めろ」

「待ってください。僕が大丈夫かどうか、ちゃんと確認してから――」

「もうした」


 眼をしばたたくのは、わたしの番である。はえーよ。いつやったんだよ。どうやったんだよ! まさかデコピンですべて兼ねてたの? 簡単・確実・迅速と三拍子揃ってはいるが、全然スタイリッシュじゃない不思議。


「――僕の呪符を使ったんですか」

「そういうことだ」

「でも、こういうのはルルベルにもわかるように、ちゃんと――」

「ルルベルんとこに置いてった束、借りてくぞ。ここにはまだ、在庫あるんだろ?」

「――話をさえぎらないでもらえませんか? 呪符は、ご自由に。それより、ルルベルのそばに残るのが僕だけでは不安です。リートはどこなんです?」

「あいつは休憩中。余裕ができたらウィブルが来るし、実際、聖女がいちばん安全だろ。うっかり騙されない限りは。で、うっかり騙されないための予防装置が、おまえだ」


 失礼な! だが実態はその通りだ! くっそ正しくて腹立つシリーズ……。


「……わかりました。シスコ嬢も預かりますか?」

「いや、そいつは念のため、早めにウィブルに診せたい。いいよな、ルルベル?」


 嫌だよぅ……と思ったけど、しかたがない。浄化はしてあるんだし……わたしにできることは、もうないのだ。身体に異常がないかウィブル先生に確認してもらうべきだし、治療が必要なら早い方がいい。


「わかりました。くれぐれも……くれぐれもよろしくお願いします」

「まかせとけ。だいじな生徒だ」


 それだけ答えて、わたしからシスコを受け取ると――ひゅんっ!

 ……消えましたね。もはや、おどろかないけども。シスコ、気を失っててよかったね……アレを体験せずに済んで、ほんとうによかった。


「慌ただしいな。……ルルベル、どうしたの? 中に入って」

「はい。その……お世話になります」


 わたしが神妙な顔をしたのが、なにか面白かったらしい。ファビウス先輩は笑って、綺麗に一礼した。


「聖女様を独占できるなど、幸甚の至り。そのようにご遠慮なさらずとも。お手をどうぞ」

「いやあの、ひとりで歩けますし」

「残念、断られちゃったか。とにかく入ってくれる? 戸締まりして呪符を発動させたいから」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 あわてて中に入ると、ファビウス先輩はすぐに扉を閉め、ちょうど頭くらいの高さにあるステンドグラスっぽい部分に手を当てた――あー、あれ呪符だったのか! 気がつかなかった!

 我ながら、気づけよ! 案件である。気づけよ!


「それに魔力を流すと、どういう効果があるんですか?」

「形を見てよく考えてごらん。宿題」


 ひい。藪蛇だった!


「……頑張りますけど、今夜じゃなくてもいいですか?」

「もちろん。疲れたよね? 夜食はもう届いてるよ。少し食べる? それとも、お風呂を使う?」

「すみません、今、うまく考えられなくて」


 嘘でもなんでもない。おそらく、シスコをジェレンス先生に渡して気が抜けたんだと思う。どっと疲れが襲ってきて、でもキボチワドゥイじゃないから魔力切れにはなってないなー、なんて考えていた。

 いっそ、キボチワドゥくなればいいのにな。

 そしたら、今夜のことなにも考えず、ばったり倒れて眠れるんじゃないだろうか……いや、キボチワドゥいはそんなに甘くはない。ばったり倒れはするが、眠る前にさんざんキボチワドゥさを味わうことになるだろう。

 だけど、それで気が紛れるのも事実だから……。


「お茶でも飲もうか。中庭がいいかな。暖房、強くするね」

「ありがとうございます」

「いいから。なにも考えないで、僕にまかせて」


 ファビウス先輩はわたしにふれもせず、それでも完璧にエスコートしてくれた。歩調をあわせて歩いて、中庭の椅子に座らせて、毛布をかけて……。

 ちょっと待っててね、といって立ち去りかけたその服の裾を、思わず掴んでしまったときも――綺麗な動きでふり返った。

 わたしの手をそっとはずし、そのままゆるく握って。ひざまずいて見上げる眼差しは、真摯だった。上目遣いでも、こんな表情もできるんだな……なんて思ってしまうくらい。


「ここにいるよ。大丈夫」

「……すみません」


 とても情けない気分であるが、正直にいって……ほっとした。

 どうやらわたし、ものすごく弱っているらしい。疲れてるより、弱ってるの方が現状に即してる気がする。……そう、弱ってる。


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