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209 チャチャフの群れ、ふたたび!

 ご歓談中失礼します系の人々から封筒を受け取って――ひとりだけ「あるじがお待ちしております」だったけど、ジェレンス先生が断ってくれた――まぁいいんだけど、きりがないよね。

 わたしが学園にいるのはわかってるんだから、舞踏会の最中に渡さなくてもよくない?

 幻想の聖女に向かうチャチャフの群れ、ふたたび! ってなってるよ。ならなくていいんだよ!


「印象づけたいんだろうよ」

「いや、こんな順番に来といて印象っていわれても……」

「遅れをとるわけにはいかない、って思うんだろうな」


 ファビウス先輩説、なんとなく納得感あるね。


「ルルベルちゃん、ちょっと踊って来たら? ああいうの相手するの、めんどくさいでしょ」

「あはは、わたしは座ってるだけですし。それはいいんですけど……」

「いいんですけど?」

「あの、シスコどこにいるのかなって。ウィブル先生、ここに来る途中で見かけませんでした?」

「シスコちゃん? ……いいえ、見てないわね」

「ほかの休憩室にいるのかもしれない。僕が探そう。ドレスは知ってるし」


 そう。衣装合わせを研究室でやったので……舞踏会の前にシスコのドレス見せてほしいってわたしがたのんだので……ファビウス先輩も見ているのである。


「いえ……そこまでしていただかなくても」

「気にしないで。彼女と話したいんだろう?」


 にっこりして、ファビウス先輩はホールの方へ消えてしまった。

 ……まだ来て間もないのに、申しわけない。


「あの子、囲まれちゃうんじゃないの? 女の子に」

「大丈夫だろ。断るときは断るやつだぜ」

「まぁそうだけど」


 最近ずっと研究室に籠ってるからよくわからんけど、そういや最初の頃、食堂で同席してるとむちゃくちゃ見られたよな〜。あきらかに目がハート型になってる――もちろん比喩表現であるが、そうとしか表現できないのだ――女子生徒、たくさんいたもんな〜。

 舞踏会の会場で、ひとりで歩いてたら……ワンチャンないかアタックかけたり、思い出作りお願いしますって突撃したりする女子もいるだろう。いなかったら、びっくりだ。


「戻って来ないかも……」

「ルルベルちゃん、そんな深刻な口調でいわないでちょうだい、笑っちゃうじゃないの」

「わたし、自分で探して来ます」


 はじめから、そうすべきだったのだ! と立ち上がりかけたわたしの手を、リートが押さえた。


「やめろ」

「なんでよ」

「踊りに行くならともかく、ただの移動だと面倒なことになる」


 ……チャチャフかー! まだ来るのかな。来そうだなぁ。

 ここに座ってれば、わたしは聖女スマイルしてるだけでいいんだけど、移動するとなると……まず、あの使用人さんたちが人波に揉まれながら方向を変える必要があり、当然ダンスの邪魔にもなるだろう。

 特大のため息をついて、わたしは椅子に体重を預け直した。


「わかった。じゃあリートも探して来てくれない?」

「俺は――」

「ジェレンス先生とウィブル先生がいるんだから、わたしの身の安全はバッチリでしょ。なんなら、ちょっと踊って来てもいいわよ。自由時間だと思って」

「自由時間をダンスについやす気はないな」


 そういいながら、リートは先生たちに視線を向け、お伺いを立てた。


「あんたの方が目立たないから、探しに行って来なさい。ルルベルちゃんのことは、まかせて」

「おう、行っていいぜ。俺はドレスがどんなかもわからんし、見分けられる自信もねぇ」

「では行って来ますが……会場の外に出ても?」


 リートが意外なことをいうので、わたしはびっくりしてしまった。


「は? なんで外?」

「会場内で見当たらないなら、外を探すべきだろう」

「いや、人混みで……見えないだけ、でしょ?」


 そう問い返しながら、不意に湧き上がる不安に飲まれそうになる。

 だって、いくらなんでも見かけない時間が長過ぎる。わたしは、ウィブル先生と踊ったらすぐ感想を話したかった。シスコだって、例の……名前なんだっけ……アルスル! そう、アルスル青年と踊った感想を、わたしに伝えたいと思わないだろうか?

 上階で挨拶まわりをしていたあいだは、接点がなくても不自然じゃなかったけど、でも。輪舞に混ざったときも、見かけなかった。休憩室でも。そのあとも。


「いそうな場所の見当がついてんのか?」

「いいえ」

「んじゃ会場内からだな。一緒に踊った相手とか、確認してけ」

「アルスル様です……シスコをダンスに誘いにいらっしゃいました」


 ジェレンス先生が、眉根を寄せた。


「アルスルか。あんまり度胸のある方じゃねぇし、魔力もほどほどって感じだな。筆記は悪くねぇが、最良ってわけでもねぇ」


 最良に入ってたら、試験で会話する機会もなかっただろう。


「保健室では見かけない子ね」


 ご健康そうで、なによりです!

 そんなことよりシスコは大丈夫なのだろうか……。


「アルスルも、会場で見かけない」


 リートがビシリと告げたので、へっ? っと思った。


「探してたの?」

「君がシスコの行方を探していたから、当然、彼女を連れて行ったアルスルの動向も気にはかけていた。が、俺の視界には入っていない」

「しけこんだのか? そんな度胸ねぇと思ってたが」


 やーめーてー!


「シ……シスコはそんなことしませんからっ!」

「まぁ待て、アルスルなら魔力を覚えてるから俺が探す」


 ジェレンス先生が眼を閉じたので、わたしはウィブル先生を見た。ウィブル先生はくちびるに指を当てて沈黙を示唆したから、これは冗談とかではなく、ほんとに探してくれているのだろう……。

 ていうか、えっ? シスコも魔力で探せたりするんじゃ? だったら、さっさと探してくれたらよかったのでは?

 ややあって、ジェレンス先生が顔をしかめた。


「みつからねぇな」

「えっ……」


 今度こそ立ち上がったわたしを、ふたたびリートが制した。


「君は役に立たないんだから座っていろ」


 い・い・か・たー!

 いやそうじゃない、問題はそんなことじゃない。それって、会場にいないってこと? アルスル青年が? えっ、どういうことなの? シスコは……シスコは一緒にいるの? いないの? どっちなの?


「どちらかが具合が悪くなって帰ったのかもよ? 例年あることなんだけど、今年は人数が多いから」

「シスコは……シスコなら、帰る前に絶対に連絡してくれます」

「そうねぇ。心配ね」

「アルスルなら探せるから、俺が行くわ。事情を聞いて来よう。おまえらは、待ってろ」


 そう宣言するとジェレンス先生は立ち上がり――消えた。

 は?

 ……はぁあああ?


「なにが起きましたか」

「〈無二〉が〈無二〉〈無二〉しい行動をしたって感じ? もうほんと、こういうの困るわ――ちょっとリート、どこ行くの」

「アルスルとシスコを探しに行きます」

「待ちなさい。ジェレンスがいなくなったんだから、あんたはここに残るのよ」

「先生がいれば俺がいてもいなくても問題ないと思いますが?」

「問題あんの。人数が必要になる場面もあるかもしれないんだから。会場外に行くつもりなら、なおさらよ」


 わたしとしては、リートにもシスコを探しに行ってほしかったが……。

 しかたなく、そのまま三人で座って待つ。

 気は焦るのに、できることがない。わたしは役に立たない……リートの言葉は事実で、ほんっと腹が立つ。

 そう、腹が立つのだ――リートにではなく、役に立たない自分に。

 誰に相談しても、そんな風に考えるなといわれるだろう。あるいは、自己顕示欲ではないかと指摘されるはず。そんなの、わかってる。でも、だけど……どうしても苛立たしいのだ。


「どうしよう。わたしのせいで、シスコが狙われたりしたら」

「シスコになにかあったとしたら、それ以外の理由は考えにくいな」

「リート」


 ウィブル先生が咎めるように名を呼んだが、リートは怯まない。


「あの男、少し挙動がおかしかった」


 わたしはリートを見た。……なんやて?


「あの男って、アルスル様のこと?」

「はじめは、まっすぐ君に向かって歩いて来た。君に声をかけたあと、手をのばしかけて、やめた」

「は? どういう――」


 いいかけて、言葉に詰まった。わたしは喉元を押さえる――そこには冷たい宝石の手触りがあった。害意ある者を見抜く魔法がかけられた〈絶対防御〉が。


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