198 手をとるならわたしの手になさい
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試験勉強をしてたときは、そんな素振りは見せなかったのにな。いやでも、あのときは全員――つまり、わたしも含めてという意味だが――それどころじゃなかったんだな!
でも、終わったからってすぐコレー? ファビウス先輩という強力な指導者を得たことで、ちょっとはわたしに恩を感じたりしないのか。いやわかんないのか……王子が一緒に勉強できるようにとりなしたのは、わたしだけど……スタダンス様のときは、ファビウス先輩がもう諦めてたからな。しかたないね、って感じて受け入れちゃったから!
「申しわけありません」
とりあえず、謝っておく。恥をかかせることになるわけだしな……自分から恥をかきに来てるともいえるが!
「ルルベル嬢」
「はい」
「尊敬しているのだ、あなたを」
「……はい?」
「その胸元にかがやく〈黄金の涙〉のように、熱い想いを持ちはしない。だが、ともに手をとりあうことは、できるのではないだろうか。世界のために。あなたの魔法と、我が家の財力で。国という縛りを超えた救いをもたらそう、世界に」
……攻めてるなー! しかも直球!
お貴族様がわさわさいる場所で、国という縛りを超えた〜、なんて正気?
まぁ、スタダンス様のノーランディア侯爵家は、現在その……つまり、王宮との関係が悪化してるからね。このままだと財産の差し押さえなんかもあり得るかもだし、強めの一手を打つべきなのかな。
しかし、それはそれ、これはこれ! わたしを巻き込まないでほしい!
たしかに、国がどうしたこうしたって話を抜きにはしたいと思うよ。国家間のアレコレとか、雰囲気を味わうだけでお腹いっぱいだし、対魔王で結束するには邪魔な要素でしかないもん。
でもさー!
「ここは、そのようなお話をなさる場ではないでしょう?」
エーディリア様直伝の扇使いで、わたしは顔の下半分を隠した。こうするとね……表情が読みづらくなるわけよ。わたしみたいな顔に出やすいタイプでも、多少は戦えるわけよ。
代償として、看板娘スマイルも使えなくなっちゃうけどね!
「ならば、いつなら聞いていただけるのですか、話を」
「少なくとも今宵、この場ではないとはお答えできます」
「ですが、この央国はもちろん、他国でも魔王の眷属による被害が出ているそうではありませんか」
わたしは眼をしばたたいた。
えっと……これって、公言していいやつ? 駄目っぽくない? スタダンス様は、前に明かしてくださったように西国と浅からぬ縁をお持ちなわけだし、ご本人が吸血鬼の被害に遭ってるわけだし……眷属が出没していることもご存じでしょうけども?
皆さんはどうなの。一応、学園内の事件は闇から闇へと葬られたっぽい雰囲気なんだけど、どうなの!?
対処に困っているあいだに、スタダンス様はわたしの前に跪き、扇を持っていない方の手をとった。
「皆を救えるのは、あなただけ。お役に立ちたいのです、あなたの」
「……そんなことはないです」
気がついたら、扇でスタダンス様の手をぺちっと叩いていた。
……侯爵家の御子息の手をド平民のパン屋の娘がはたくの、どう考えてもアウトな行為だけど。どうもこうも考える隙がなかったんだもん。
手を握られたくなかった。そんな風に、いわれたくなかったんだ。
「聖女さえいれば、聖属性魔法使いでさえあれば、魔王と戦えるわけではありません。わたしができることなど、たかが知れています」
「ですから、力を合わせましょうと――」
「あなたとあなたのお家と、ですか? それだけ?」
なんでかわかんないけど、わたしは猛烈に不服だった。
聖属性が稀少なのはわかってるよ。わかってる。大暗黒期の再来が起きても不思議がないことも、最近ようやくわかってきた。
だからこそ、こんな場所でこんな風に、無造作に手をとっちゃうの……駄目だと思うんだ。
「では、どこぞの王族と手を組むと?」
「わたしは誰のことも特別扱いはいたしません。少なくとも、魔王に対抗するにあたって――魔王との戦いを見据えて手を組みましょうということであれば、わたし個人の好意も、思惑も、なんの意味もありません。あるのはただ、そういうことはできないという結論があるだけです」
「……協力は不要だと? あなたの戦いに。魔王との、戦に?」
「いいえ。協力は必要です。ただ、スタダンス様を特別扱いすることで、ほかのかたのご協力がいただけなくなることを恐れております。そういう話です」
なんで! こんなストレートな会話を! この微妙な場所で! やることになったかなぁ!
だいたいスタダンス様のせいだからな……いやもちろん直球に直球を返しているわたしにも責任はある。
責任は……あるけども。あるな。ある……。ううう。
「スタダンス様」
そこへ。あらわれたのは誰あろう、エーディリア様だった!
つやっつやの銀髪を綺麗に巻いたアップ・スタイル、もはや大人の女性って感じで圧巻……。額と首には、細い銀鎖と真珠をあわせた繊細なジュエリーが飾られていて、これがまたエーディリア様にぴったり賞! ジュエリー・デザイナーが誰か知らんけど、褒め称えたい。
ドレスはシンプルなデザインで、エーディリア様のスタイルの良さを引き立てている。いや眼福。
……なんていってる場合か?
「エーディリア嬢、本日もまた……麗しくあられる」
「お褒めにあずかり、光栄です。スタダンス様も、とても素敵でいらっしゃいますわ。言動以外は」
……直球キター!
えっこれどうすんの、わたし引っ込んでいい? 引っ込みたい。
あと、スタダンス様はたしかにカッコイイ。言動以外は。
「しかし、これは――」
「舞踏会で女性を困らせるなど、紳士のおこないではありませんわ。そうでしょう?」
ストライク、ツー!
エーディリア選手の豪速球に、スタダンス選手、まったく手を出せない! このまま見送り三振か!
「だが、君も……いや、君こそ! 君こそが、知っているだろう。王家の――」
「馬鹿なひとね。知っているからこそ、あなたを助けに来たというのに。さあ、手をとるならわたしの手になさい」
そういって、エーディリア様はスタダンス様の手を優雅に握って。
「では、この愚か者は借りて行きますわね。ご機嫌よう、ルルベル」
「ご……ご機嫌よう、エーディリア様」
呆然としているスタダンス様の手を引いて、さっさと踊りはじめてしまったのである!
エーディリア様すっご……えっなに? すっご! 今のが貴婦人のテクなの? とても真似できる気がしないんだけど……だってスタダンス様、流し目一発で完全に放心状態になってたよ。
いやまぁ、とにかく……一応なんとかなって、よかった……?
「ルルベル嬢」
「あっ、えっと……レンデンス師のご子息のかた!」
反射的にご先祖の名前を唱えるという失礼をかましてしまったが、爽やか好青年は笑って許してくれた。
「そろそろ名前を覚えてほしいな。僕はアルスルというんだ」
「アルスルさん……ちょっと珍しいお名前ですね?」
「そう? じゃあ、すぐに覚えてもらえるかな」
「頑張ります!」
あっ。正直な答え過ぎた……。それでも、アルスル青年は笑顔。
「君は面白いひとだね」
「それ、馬鹿になさってません?」
「褒めてるんだよ。うちのご先祖様の名前をちゃんと知っててくれただけでも感激だしね」
それはだから……出題の傾向と対策のプロがですね……。
「でも、わたしたち以外にも三人は正解者がいたわけですし! エーディリア様とか」
「そうだね……その……君の隣にいる……」
わたしの隣にいるのはシスコである。さっきから、超展開過ぎてさすがに割って入ることができてなかったが、逃げ出したりはしていなかったのだ。
……あっ! そうか、この「間」は紹介を待ってるんだな!
「ご紹介します。彼女はわたしの親友で、シスコ嬢です」
「……急にごめん。クラスは同じでも、話したことがなくて……実は名前もよく知らなかったんだ。はじめまして、ってわけでもないし、どう挨拶すればいいか悩んでた。こんばんは、シスコ嬢」
「こんばんは、アルスル様」
「その……よければ……一緒に踊ってくれないだろうか?」
「え?」
シスコは意外そうだが、わかってたよ、わたしには! アルスル様はシスコ狙いだ、って!




