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197 夢ですわよでございますかぁぁ!

 んでまぁ結論からいうと、エルフ校長は真っ当に校長先生してた……。

 もちろん、迎えに来たときは美辞麗句をつらねて褒められたけど、それだけだったし。

 突然腰に手を回して夜空の散歩とかいいだされなくて、ほんっとによかったよ。やりかねないからな……。


「試験を終えた一学年の生徒諸君、これは君たちのための祝賀会です。魔法使いへのかがやかしい第一歩を今、楽の音とともに踏み出してください。かろやかに。きらびやかに」


 会場に着いたらすぐにフリーにしてくれたので、今のわたしはクラスメイトと一緒にホールに立っている。

 ホール――大講堂は、こりゃまた豪華な建物である。校長先生が挨拶をおこなっているのは、一段高い壇上だけど。吹き抜けで二階か三階くらいの高さがあり、二階に該当する部分にはぐるりと、下を見下ろせる張り出し廊下みたいなのがある。父兄とか卒業生とか、縁はあるけど下で踊るほど若くないひとたちが休憩したり社交をくりひろげたりするみたいよ。クラスメイトが教えてくれた。

 あと、一部はオーケストラ・ボックスになってて、そこから音楽が降ってくるのである……。楽団が上にいるとは思ってなかったので、ちょっとびっくりした。


「聖女様、とても素敵なお召し物ですわね」

「どこでお仕立てになられましたの?」

「シスコ嬢にご紹介いただいたんです」


 わたしはシスコに話をふった。本格的に布が産地がデザインがって話になりそうだったからだ。

 でも、ひとりが宝石に気がついた。


「あの……ひょっとしてそれ、〈黄金の涙〉では?」


 はぁ? なんか名前がついてんの? 知らんがな……許してすみません許して、知らんのだわたしは!

 と思いつつ、にっこり答える。


「シェリリア殿下のご厚情を賜って、お借りしました」

「……やっぱり!」


 じゃあこの宝飾品、〈黄金の涙〉っていうんだな。サークレット? ネックレス? いや、ピアスもセットで呼ばれてるのかもしれないが、ネックレスの石がいちばん大きいから、これのことかなぁ……。


「近くで拝見してもかまいません?」

「え、はい……借り物なので、気をつけていただければ」


 見るだけで、気をつけることがあるのかはわからんけども! でも一応、いっておくよ。わたしのじゃないからね……万が一のことがあったら怖いからね……。

 しかし許可を出したとたん、わたしの周りは完全に女子で埋め尽くされた。

 まぁ、男子に埋め尽くされるよりはいいんだけど……圧が! 目がギラついてる!


「これが伝説の……」

「亡き第一王子殿下が、歌をこめられたという……」

「歌?」

「ご存じありませんの? 求愛の歌ですわ。出会いは政略であっても、感じている愛は本物だ、と」

「たとえ王冠を失うことになっても、愛をつらぬこうという歌を添えて贈られたのですわ」


 夢ですわよね〜、とクラスメイトたちは声をあわせた。

 夢ですわよでございますかぁぁ!

 わたしは知らん話だから、庶民向け広報には載ってなかったんだと思う。

 察するに、シェリリア様かその関係者が仲良しアピールのために流した話なんだろうけど、まんまと引っかかった皆さんが、目の前に並んでるよね……こうかはばつぐんだ!

 たしかにね。ロマンはあるよ? あるけど、地位を失った王族って、暮らしていけるの? お金を稼ぐ力あるのかな……。

 そこで思い浮かんだのがファビウス先輩だったことは、いうまでもないだろう。

 ……あのひと、一切そういう心配いらなさそうだなぁぁ! 発明品でお金を稼いでそう……専門馬鹿で契約はおろそかにしてる、みたいなイメージがない。実際どうなのかは知らんけど……実は抜けてて搾取されてるなんてことだったりしたら、現実が解釈違いを起こしているとしか。

 なお、ローデンス王子を思い浮かべたところ、こっちは余裕で無理そうだった。


「王族だからって、ひとくくりにしちゃ駄目なんだな……」


 思わずつぶやいてしまったよ。クラスメイトは宝石と夢ですわよに夢中で、気がついていないようだった。助かった。

 いやしかし……当然ではあるけど、そういうことだよなぁ……。

 わたしはド平民だから、お貴族様のことはお貴族様としか思ってなかったけど。もちろん、王族も。みんなまとめて、なんか関係ないすごい存在って思ってただけだけど。ひとりずつ、違うよね。

 違うってことを、忘れないようにしないとな。

 つまり、このクラスメイトの皆さんもそれぞれ覚えていかないとではあるが、ちょっと難しいなーっていうのが現状で。どうしよう。

 さすがに試験で力を合わせた経験があるから、皆さんなんとなく見覚えがあるかもしれない……くらいには、なってるけど。今日、全員髪型違うし、ドレスに合わせてメイクもしてるしで、さらに混乱してしまう。

 もうちょっと、ばらけてもらえないかなー! と思っていると、音楽が変わった。


「輪舞ですわ」

「最初から輪舞ですのね」

「まぁまぁ。さ、皆さん列をおつくりになって! 聖女様、どうぞわたしの前に」

「ま、前ですか? 前はちょっと……」


 目立ちたくないし、先頭に立ったらほかのひとの動きを真似できないじゃん! 無理!


「ルルベル、こっちよ」


 シスコ女神が後ろに引っ張ってくれて、助かった! シスコほんと女神。

 シスコのドレス丈は膝下ジャストくらいなので、綺麗な脚がよく見えてドキドキする……。わたしって脚フェチだったのかな。いやぁ、いいですね、脚! 半透明のオーバードレスがひらひらしてるのがまた、とてもいいですね……。

 あと、デコルテもね! 手入れを気にするだけあって、けっこう開いてるのね。レースで一部覆ってるんだけど、それがまたいいね……いいわ……。


「シスコ、ドレスよく似合ってる」

「ありがとう。ルルベルもよ」

「そりゃシスコの見立てだもの! ほんとに感謝してる」


 シスコがいなかったら、いったいどうなっていたことか……。

 本日のわたし、シスコとラズマンドさんがこだわりまくった、やや生成りに近い白の布を重ねることで生まれる微妙なグラデーションに包まれて、本来の生まれが下町の庶民であるとは、一見しただけではわからない雰囲気に仕上がっている。

 しかも、えーっとなんだっけ……〈黄金の涙〉か! あれもあるからな。

 ダンスがはじまって、ひらひらっとオーバードレスがひるがえるのを感じながら、なんだか夢みたいだなって思う。

 ひらひらドレスの列に並んで、男子もステップを踏み、列をつくる。ひらりと回転してお辞儀をして。一歩前に出て、手を掲げて合わせ、すぐに下がる。ひらり、ひらり。回転しながら列がずれて、またお辞儀。一歩前に出て、次の男子と向かい合う。

 男子の顔も、なんとなく見覚えが……レベルでしか認識できてない。はっきりわかるのは、例のレンデンス師のご子孫のかたくらい。お辞儀をして、手を合わせる。今度、書店に行かせてもらいますね、と心で思いつつ。


 そんなこんなで、ゆったりしながらも目まぐるしく踊っていたのだが。曲が変わって、組んで踊るやつになった……っぽい。

 シスコがわたしの手をとった。


「ルルベル、ちょっと休憩しましょう。わたし、疲れてしまったわ」


 若干棒読みなのが可愛い! これは事前に打合せてあった、誰かと組んで踊るのを避ける方法のひとつである。だから棒読みなのだが、そこがいい!


「そうね、そうしましょ」


 早速手を取り合って踊る男女ペアが何組かいるのを眺めつつ、我々は壁際に撤退した。


「今踊ってるのは、婚約者同士がほとんどよ」

「えっ、そうなの……」


 ていうか、婚約者とかいるんだな、やっぱり!


「お互い相手が決まっているから、ちょっかいかけるなよってことを知らしめる意味もあって。だから、まず最初に組んで踊るのはそういう間柄がほとんどなんですって」

「へぇぇ」


 わたしには縁のない話だな!

 ……いや、すっかり忘れてたけど、そういえば幻想の聖女様と婚約したがるチャチャフの列ができてる問題があるんだったな。

 でも大丈夫、王子はみずから脱落してくれたし、シェリリア様の〈黄金の涙〉効果もあるはずだ。陣営が違う男は寄って来ないだろう。

 と、思っていたわたしが馬鹿でした。


「ルルベル嬢。踊っていただけないだろうか、どうか。この男を哀れと思し召して」


 ……来たわぁ、スタダンス様!


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