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191 そういう設定じゃねーんだな、って

 翌日、事態はさらに悪化した。

 なぜかスタダンス様が合流したからである。


「僕が誘った」


 王子は鼻高々だが、余計なことすんなー! と、いいたい。


「なぜ、そんなことを?」


 ファビウス先輩が簡潔に問いただす。いや、声が平板過ぎて怖いわ……。


「昨日、切磋琢磨すればいいといわれて、そうか、と思ったんだ」


 思うな!


「……その意見に納得したなら、ふたりで勉強をする流れじゃないのか」

「ふたりで頭を捻った結果、ここに来て教えてもらえばよいという点で意見の一致を見た」

「そうなのです、一致したのです、そこだけは」


 スタダンス様も、ここぞとばかりに唱和した。いや、しなくていーから。

 ため息をついたものの、ファビウス先輩はかれらを迎え入れた。わたしの方をちらっと見て、こういわれてしまったけど。


「どうせ、ひとりもふたりも同じなら、もうひとり増えても同じっていわれそうだしね」


 それはもう……ほんっと……反省してます!

 そういうわけで、本日の食堂には生徒が四人いる。王子、スタダンス様、わたし――そして、姿をあらわしているナヴァト光学迷彩忍者である。今までで最高におとなしく、最高に身を小さくしているところから見て、忍者も座学は不得手なんだろうなぁ。

 ……あれっ、転生コーディネイターが用意した攻略キャラの内、学生やってるのが全員その……お勉強ができないタイプってこと? えっ。マジで? そういうの、おかしくない? ねぇ? 学年で成績一位と二位をはりあってる感じのこう……なんか、いないの?

 釈然としないが、この状況では納得せざるを得ない。そういう設定じゃねーんだな、って。


 幸い、今日はシスコが自分の勉強に忙しくて同席していない。いや、幸い……? 不幸なのかも? 怖かったけど、昨日のシスコのテーブルばーん! は、とても役に立った。おもに、王子を静かにさせるのに役立っていた。

 なお、リートは常時無言で壁際に立っている。本なんか一回読めば覚えると豪語していたから、あいつは勉強など不要なのだろう……ていうか、エルフの血って四分の一でもやっぱりアレなの? 記憶力に影響があるの? リートのくせに、根に持つ長命種の一員ってことなの? でもこれ、いじると間違いなく地雷原に突っ込むやつだよね!

 ……なんてこと考えてないで、勉強せねばならんのだが。


「せっかく人数が揃ったから、今日は競争してみようか」


 ファビウス先輩が、不穏な提案をしたぞ! なにそれ遠慮したい。


「競争か。いいな」

「かまいません」

「はい」


 味方が! いない!

 おまえら全員、なんでここに並んでるか自覚あんのか! お勉強ができないからだぞ! なのに、そのできないことで競争したいとか……信じらんない。なんだこいつら。


「ルルベルも、いいね?」

「……はい」


 逆らえないわたしも、たいがい愚かではある。


「具体式には、どうするのだ?」


 王子の質問に、ファビウス先輩は笑顔で答えた。


「僕が質問をする。もちろん、試験の傾向を踏まえた対策問題だよ。答えがわかった者は、この魔力線を押して」


 魔力線……。えっ、これかぁ。いつのまに配られてたのかわからないけども、我々の前にはそれぞれ、押しボタンのようなものが置かれていた。そのボタンから伸びた線は、テーブルの反対側でひとつにまとまっている。まとまったところには、小さなランタンのようなものが置かれていた。


「ボタンを押すと、ここが光る。ローデンス、押してみて」


 いわれるままに王子がボタンを押すと、ランタンの中にピカッと黄色い光が灯った。


「誰がいちばん早く押したか、色でわかる。次、ナヴァト」


 光学迷彩忍者はオレンジ色の光だった。スタダンス様は、緑。わたしはピンクである。

 ……つまり、早押しクイズをやれってことかー! べつにやりたくない!


「じゃあ、第一問。王立魔法学園の創立者は――」


 ピカピカッ! 黄色い光がランタンに灯った。

 にっこり笑って、ファビウス先輩は王子に回答をうながす。


「――もうわかったの? どうぞ、ローデンス」

「シュルベアル三世!」

「残念、問題がまだ終わってない」


 ……えっ。

 そんな前世のクイズ番組みたいな展開、ここでやるの? 誰か納得する?


「くそっ……早まったか!」


 王子、納得してますね……つまり、こういう文化あるんだ。お貴族様の遊戯か? 魔法を使ってやるんだな、早押しクイズ。庶民にはないぞ、こんな遊び!


「じゃあ、あらためて。王立魔法学園の創立者はシュルベアル三世だが、初代学園長となった魔法使いの名前は?」


 ……なんという引っかけ! えげつなーい! そして、覚えてなーい!

 ピカピカッ!

 おお、スタダンス様の緑色だ!


「スタダンス、答えて」

「勢いで押してしまった、すまない」

「……適当でいいから、答えてみれば?」

「まさか。できるはずがあるだろうか、適当に答えるなど……」


 ファビウス先輩は、こめかみを揉んだ。なんとなく、気もちはわからんでもない。


「不正解の場合、なにか罰を用意した方がいい?」

「罰はやめましょう!」


 ここは口を挟んでおきたい。是非とも! 罰は! やめましょう!

 男子どもは不満げな顔をしたが、わたしは看板娘スマイルでこれに応じた。もちろん、ファビウス先輩にもスマイル大盛りでお願いする。


「罰より、ご褒美がいいんじゃないですか?」

「君たち全員、褒美を期待できる立場じゃないと思うけどね……」


 きっつ! だが、わたしはひるまない! 鉄壁のスマイル!


「とにかく罰で行動を支配するのは、よくないです。罰がなければ、なんでもしていいと思うようになってしまいますから」

「そうなの?」


 ……はっ。これひょっとして、前世知識? いや……母がいってたような気も……いってないかな……やべぇ、前世知識っぽいけどここは押し切ろう!


「そういうものだって、聞いたことがあります」

「じゃあ罰はとくに設けないけど、あんまり適当な答えをするのはやめてほしいね。僕のやる気がなくなっちゃうから」


 最高の脅しが出たところで、ふたたび早押しクイズ大会はスタートしたのである……。

 クイズ大会はこのあと、わりと盛り上がった。当初、男子ってほんと子どもねという目で見ていたわたしも、最終的にはボタン早押しに全力だったことは告白しておこう。

 でも、反射神経で勝てないんだよなー! 例の「●●を××したのは誰某。そのときの▲▲は?」みたいな問題があるから、無造作に押せないし……質問終わったなと思ってから押すと、だいたい誰かに負けている。

 反射神経でいえばスタダンス様はなかなかのものだったが、正答ではないことが多かった。そこからまた残った三人でボタンを押すんだけど、スタダンス様抜きでも負けるんだよな! きー!

 熱戦を制したのは、意外にも光学迷彩忍者だった。


「ナヴァトは基礎がよくできているね。ローデンス、彼に教われば最低限の点数はとれると思うよ」

「そうか。わかった。ナヴァト、帰ったら寝るまで勉強につきあえ」

「御意」


 相変わらず声が渋い……胸板が厚いせいかなぁ、声にも厚みがあるよな。


「明日は来なくていいからね」


 全員を追い出すときにファビウス先輩が宣言して、わたしも深くうなずいた。もうね……男子には、つきあいきれんよ。

 とはいえ。


「じゃあ、つづきをやろうか?」


 やつらがいなくなると! マンツーマンのハードなお勉強タイムがスタートしてしまうのである、アンビリーバボー! わたしはすでに、へとへとよ!


「ファビウス様のお時間がもったいないです」

「そんなことはないよ。君と一緒に過ごせるんだからね」


 また! そういう表現をサラッと織り込んでくるが! わたしは知っているぞ、お勉強のことになるとファビウス先輩はマジガチ本気になるってことを! 騙されはせん。騙されはせんぞぉっ。


「ですが、余分な生徒まで引き受けてくださって、お疲れですよね? ご自分の研究を進めるお時間も、ないのでは?」

「うん。でも今は、君を助けるのが僕の使命だから。だって、はじめてだよ?」

「はい?」


 なにがでしょうか。


「まともにたよってくれたの、はじめてだと思うよ」

「えっ。たよりっぱなしじゃないです?」

「それは結果としてそうなってるってだけで、君が選んでくれたわけじゃないからね。今回は、直接助けを求められたんだ。張り切らないはずがないよ」


 いやぁ、たしかに助けは求めましたけども! ほどほどでお願いしたいです。ほどほどで……。


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