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177 否定しろよ! 勧めるからには!

「ファビウス様がそこまでするほど、あの王子様は厄介ってこと?」

「だろうな。君は、いざとなったら校長の紙を使え」

「校長先生の……紙って、あれ? 瞬間移動するやつ?」


 いつも使途不明のまま授けられるやつな! なんのかんので確認する暇がなく、今回も未だに効能のほどがわからない……。


「それだ。もらってるだろう、新しいの。持って来てるだろうな?」

「ブラウスのポケットに入れてある……でもこれ、使いたくないんだけど。どういう効果があるか、説明を受けてないし」

「エルフの里に移動だろうな。緊急退避用のものであることは間違いないし、その場合、校長が選択するのはエルフの里しかあり得ない」

「やっぱりそうなるの……」

「退屈ではあるだろうが、エルフの里に、君の意に染まないことを強いる者はいない。人間の世界は、そうはいかんからな」

「いやでも、あそこ……行ったら二度と出られない気が……」

「それは否定できんな」


 否定しろよ! 勧めるからには!


「助けに来てくれる?」


 リートは眉を上げ、馬鹿を見る目つきでわたしを見た。


「俺が? なんでだ」

「聖女様のお覚えも目出度めでたい人物として、こう……ゆくゆくは、どこかに売り込めるよ!」

「面倒ごとが増えるだけだろう」

「……いやいや。そんなことはないよ。未来が薔薇色になるよ!」

「胡散臭くて話にならんな。ま、人間界も君のことを放ってはおかんだろうし、誰かが助けには来るに違いない。君が望む人物かどうかは知らんが」


 絶望! エルフ校長のあの紙を使う必要が生じないことを、ひたすら祈るしかない……。


「もう嫌だ、こんな生活……」

「なにをいっている。まだ、はじまったばかりだぞ」


 それが嫌なんだよッ!


「聖女ってもっとこうさぁ……。ちやほやされて? なんか、重要な場面でだけ、聖なる祈りだとか浄化だとかそういうことすればいい、みたいな感じにならないの?」

「そうしたいなら、君が頑張ってそうすればいい」


 できたら苦労せんわ。いやマジで。ほんと。

 あ〜、なにもかも嫌だぁぁ!


「腹が減らんか?」

「いや、特には……」

「そうか。じゃ、俺のぶんだけでいいな。食い物を調達してくる。誰も中に入れるなよ」

「待って待って待って、それだったらお菓子――」


 聞く耳持たずに出て行ってしまった……ていうかさぁ! やめてよ、フラグ立ててくの!

 絶対、誰か来るに決まってるやつじゃん! ……と、思ったのだが。


「誰も来なかったな?」

「来なかった。よかった」

「ま、大部分が巨人の方に移動したようだから、こっちにかまってる暇もないんだろう」

「そうなの?」

「王子がいるからな。要人警護ってやつだ」

「なるほど……」

「自覚がないようだから教えておくが、君も要人ではあるんだぞ」


 ……いや、さすがに知ってるよ? それくらいは!


「その割に、わたしにあわせて大量に人員が移動! みたいなことって生じないけどね」

「君の場合は俺かジェレンス先生っていう自前の護衛がいるのと、外国人であることが大きいだろう。ハーペンス師も後ろ盾になってくれているから、そのへんの裁量がまかされているのもある」

「そうなの?」

「ファビウスが俺に頭を下げるんだ。ハーペンス師になにもたのんでない、なんてことはないだろう」

「……ファビウス様、ハーペンス師とは仲が良いのかなぁ」

「叔父・甥の関係は良好だろうな。でないと、従僕に君の茶の好みまで伝えたりはせんだろうし」


 ああ。誰得個人情報流出、そういうことか。よろしくお願いしますの一環かぁ!


「ちゃんと親しくできてる親戚がいるなら、よかったな」


 殺伐だけが人生だなんて、寂し過ぎるもの。

 ……いや、殺伐だけってこともないだろうけど。魔法の理論とかの話になると、まぎれもないオタク特有の早口で喋りだすしな、ファビウス先輩。好きなこと、楽しいものがあって、ほんとによかった。

 リートはそれには答えず、手に入れたらしいパンをもぐもぐしていた。なお、わたしのお菓子はなさそうだ。やはり聞いていなかったのか、聞こえたものを無視したのかは不明だけども。とにかく、お菓子はない……。


「じゃあ、従僕さんなら、まぁまぁ味方と考えていいかな?」

「ハーペンス師がこちらの意を汲んでくださるあいだは、そういうことになるな。ただ、面と向かって王族に楯突くわけにもいかんだろう」

「うん。やっぱり、まぁまぁってことね」


 基本的には、東国のひとは王子様に逆らえないだろうな。

 ってか、わたしは東国の国民じゃないけど、王子様に逆らえるかっていうと……無理だろ。無理。

 今のわたしは、ある程度は前世日本人として生きた知識があるからともかく、その記憶を思いだすまでの下町ド平民ルルベルの意識における王族とは! 生き物として違うレベルに存在するなにか、って感じだもん。

 同じ人間とは思えないんだよね。それが、一般的な平民が上流階級の皆さんに感じてること。そういう時代だし、そういう社会なんだ。


「でもさ、わたしが浄化を進めたおかげで助かった、っていってくれたのがほんとなら、水晶爵のひとたちなんかも、そこそこは好意をもってくれてるんじゃない?」

「そこそこ? 認識が甘いな。崇められてるぞ」


 ……いや、それは遠慮したいけども。


「王子様と対立したときに、味方……までは難しくても、敵対はしないでくれないかな。消極的な協力っていうかさ」

「場面によるだろうな。対立の内容が、たとえば、このまま東国にいてほしい、いや帰る――なんて話だったら、かれらは東国に留まらせる方に味方するだろう」


 なんにせよ、とリートはパンを口に押し込んで話を結んだ。


「味方はいないと考えておいた方がいい。油断するな」

「……わたしは巨人の対処に力を貸しに来ただけなのに」

「それがすでに『だけ』では済まないってことだ」


 まぁ、そういうことなんだなって理解しつつあるけどさ。あるけど、すっごい理不尽だよね!


「リートってすごいね……」

「なにがだ?」

「なんか、いろんな可能性とか考えられて。同じ十六歳とは思えないよ」

「俺は十六歳じゃないぞ」

「……は?」

「見た目が十六歳で通るだけだ」

「どういう――」


 理屈なのか、と訊きかけて理解した。

 エルフの血だ! リートって、四分の一エルフだから……!


「えっと、本来は何歳なのかを伺っても?」

「それを君に教えて、なにか得があるのか?」

「……すみません。興味本位です」

「だろうな。君には関係のないことだ」


 正論!

 でもそっかー、いろいろ考えてるなとか、度胸あるなとか感心してたけど、年齢! ……いや、度胸の方は年齢とは関係ない気もするな。リートだから、で終わりそう。


「そういうわけだし、俺を心配する必要はない。君は無駄に周りを案じて、自分のことを後回しにする傾向があるから、一応いっておくが」

「……どういうわけだし?」

「いざとなったら、エルフの里との外交問題にできるということだ」


 ……爆弾! 爆弾だ! やめろ、やめろーッ!


「いや穏便に。穏便にたのむよ」

「エルフの里で楽しい思いをしたことはないが、こういうときは便利に使える」

「いやいやいや……だってリート、エルフの里とつながりがあるって話はしたくないんじゃないの?」

「俺を軽く見る迂闊なやつの足をすくうためなら、いくらでも使う」


 この……フフン、って笑顔。完全に悪いやつじゃん。リートよ、その笑顔は駄目だ。とても聖女様の清廉なる護衛には見えないぞ!


「それさぁ……まず、軽く見られないようにするという選択肢はないの?」

「とりあえず、おおまかな事情は掴めたな? 当面の方針を決めよう」

「いやだから――」

「第二王子はファビウスを嫌っている。彼に嫌がらせをするためだけでも、君を手に入れようとしかねない」


 えっ。そこまで?


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