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176 真顔で嘘をつくのがうま過ぎる

 えっ、どうしよう。どうすればいいの?

 リートは後ろ頭しか見えないから目で訴えることもできないので、ハーペンス師……視線が合った! でも、肩をすくめて困り顔をされただけだった。

 ……そりゃな。困るだろうな。うちのリートがすみません。


「ファビウスねぇ……聖女様にまで手をつけたのか、あの愚弟」

「これは聞き捨てならないお言葉」


 リート……たのむから! たのむから穏便に!


「殿下、わたしがご同行したとしても、なんの役にも立ちません。昨日、魔力のほとんどを使い切ってしまい、今日はまだ……」


 これはまぁ、半分くらい嘘だけど。でも半分はほんとだ。だって、わたしの魔力回復力って大したことないからね。昨日カッツカツまで使ったなら、今日はまだ全回復はしていない。当然、要人警護なんて無理なのである。

 王子はリートの後ろのわたしを覗き込むようにして、にっこりした。


「それは残念。じゃあ、その護衛の子を貸してくれる? 彼、強いんだよね?」

「え」


 リートを貸し出せっていってんの? 正気? いや……なにか嫌がらせをするのが目的?

 わたしが穿ったことを考えているあいだに、リートが勝手に答えた。


「申しわけありませんが、俺はエルトゥルーデス師からもお側を離れないようにと申しつかっております。呪符による誓約をともなうもので、自由解釈の余地はありません」


 なんだってー!

 わたしに同行する同行する主張するのって、そんな事情があったの? 初耳なんだけど!


「それにくわえまして、ジェレンス師からは、前線に来るなら自分で飛べるようになれと申しつけられております。殿下のお供をつかまつるという栄誉を辞退申し上げねばならぬこと、心より残念に思います」

「ふうん……ま、そういうことならいいや。しかたがない、ハーペンス」

「お連れいたします」

「たのむよ。じゃあね、聖女様。またあとで、その可愛らしい声をよく聞かせてね? 楽しみにしてるよ」

「畏れ多いことでございます」


 意訳:いやぁ……わたしは全然楽しみじゃないですね!

 わたしの考えが通じたのかは不明だし、通じても困るんだけど。とにかく、王子様は楽しげに手をふって、部下をぞろぞろ連れて去ってくれたので……とりあえずはセーフ! なにがセーフかはわからんけど、セーフ!

 もうほんと……肝が冷えた〜!

 これ、肝臓に悪いんじゃないの? 魔法使いは肝臓がだいじなんだよ、お手柔らかに頼むよ!


「ちょっとリート……国際問題になったらどうすんの」

「天幕に戻りましょう、聖女様」

「あっ、はい」


 東国セレンダーラの陣地で東国の王子様をディスるわけにもいかないね、そうだね。

 というわけで、我々は天幕に戻った。中に入ると、リートはポケットから呪符を取り出し、天幕の入口に貼った。


「これを起動しろ」

「なんの呪符?」

「君に害意を持つ者が入れなくなる」

「え、そんな便利呪符、持ってたの?」


 だったら、ハーペンス師の風陣とか設定してもらう必要なかったのでは?

 と思ったが、リートの答えはこうだった。


「昨日、ファビウスに渡された。持続時間が短いから温存してあったんだが、部下に命令でもくだしていたら困る。もう使っておこう」


 誰がどんな命令をするというのか……。


「用心し過ぎじゃない? 取り込みたがってるだけで、害意はないと思うけど」

「君がすんなり迎合しそうならともかく、嫌そうなそぶりを見せた以上、誘拐・監禁・脅迫などの手法も視野に入れてくるだろう」


 ……物騒!

 ちょっとびびったわたしは、急いで呪符に円を描き入れた。……おお? 昨日何十枚も描いた成果なのか、すごくスムーズにできたぞ! ルルベルのレベルが上がった!


「それってさ、話をあわせて凌いでおくべきだった、ってこと?」

「君にできればな。だが、全員一致の意見として、君にそんなことはできない」


 全員って誰だよ。誰か知らんし、くやしいけども……まぁ、できないね。うん!


「ファビウス様のお名前を出したのも、ご本人の指示なの?」

「そうだ。こういうことが起きそうだから、自分の名前を出して突っぱねるようにと助言されていた。あと、校長の名前も」

「あっ。そういえば、誓約魔法使ってるって、ほんとに?」

「それは嘘だ」


 嘘かーっ! しれっと! こいつ真顔で嘘をつくのがうま過ぎるだろ!


「……心配して損した」

「よく考えてみろ。そんな誓約を結んでいるなら、昨日置き去りにされた時点で大変なことになっている。昨日に限らず、君は頻繁に俺が保護できる範囲外に移動するからな。命がいくらあってもたりん」

「あっそ。ところで今のうちに聞いておきたいんだけど、ファビウス様ってあの王子様と仲悪いの?」


 忘れないうちにと確認すると、リートは眉間に皺を寄せた。むむ、リートにしては表情が変わったぞ。そんなに難しい話?


「これは噂でしかない、という点は念頭に置いてほしいんだが」

「うん」

「ファビウスは、魔法の研究のために央国ラグスタリアを選んだといわれていて――つまり、王立魔法学園の研究所に入るために、姉姫の輿入れを利用したのだと」

「ああ、お姉様とはべつに仲が良いわけではない、みたいな話は……うっすら聞いたような……」

「そうだな。前王太子が亡くなられて以降は、関係はよくないはずだ。暗殺説に同調しなかったからだと聞いている」


 あー……そういえば、そんな話あったな! 暗殺説! すっかり忘れてた。


「そしたら、央国は天才を手に入れてウハウハって感じなの?」

「それがそうでもない。外国の王族ってことで、常時警戒されてるからな。央国の研究を持ち出されでもしたら困るという扱いで、こっちの重要な研究計画には関与しないようにされている」

「えっ……いや……ううん……」


 まず思ったのは、ひどいな! だったんだけど。

 でもなぁ。安全保障にかかわりそうな研究を外国人、しかも王族にさわらせるかっていうと。責任ある立場で、国を守らなきゃいけないなら……判断、難しいよなぁ。


「なんだその反応は」

「や、ファビウス様の立場って、いろいろ難しいんだなと思って」

「今さらか」

「あらためて、ね」

「ま、どっちの国にとっても『いつ敵にまわるかわからない』『味方にはしたいが信じきれない』ってところだろうな」

「なるほど……」

「君が考えているような、兄弟としての仲がどうこういう話とは別に、国同士の利害関係を象徴するかたちで、微妙な関係がある。そして、兄弟仲だが。これは、悪い」


 断言しちゃうの!?


「悪いって、どれくらい……」

「敵対しているといっていいだろうな。ここからは、噂は噂でも国外の噂ということになるから、情報の取り扱いには注意しろ」

「わかった」

「まず問題なのは、今の王子たちの中で魔法使いになれるレベルの魔力があるのは、末の王子であるファビウスだけ、ということだ」


 おおぅ……。


「さっきの王子様も、魔力はないっておっしゃってたけど」

「あれは冗談や謙遜ではない。央国ほどではないにせよ、この東国でも王侯貴族は魔法の力があって当然、というのが常識だ。そこそこ使える程度には」


 東国の風習に詳しいわけじゃないけど、央国とそんなに変わらないと仮定するなら。相続は、年長者から順にだろう。となると、末子のファビウス先輩だけが潤沢な魔力を持っている……って、非常に危険な状況な気がするね。

 つまり、王位継承順を巡って争いが生じかねないんじゃないの?


「ひょっとして、だからファビウス様はお姉様と一緒にうちの国に?」

「末の王子を担いでうまい汁を吸おうとする輩を避けたとか、自分に野望はありませんよとはっきり表明する必要に迫られたとか。そういう背景があると考えるのが妥当だろう」

「おとなしく担がれるような性格じゃなくない?」

「それがわかるような人間ばかりでもない、ということだ。私利私欲に目がくらむと、『こうであってほしい』という妄念が現実に見えてくるものだからな」


 なにそれ怖い。


「えっ、じゃあ里帰りも危険ってこと?」

「危険とまではいわないだろうが、第二王子が来るとわかっていて姿を消したということは、少なくとも、今はあれと対面すべきでないと判断したんだろう。でなければ、君をよろしく頼むなんて俺に頭を下げたりしないだろうし」

「頭……」

「下げてたぞ」


 マジかぁ! ええー!


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