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167 俺の使命は君を守ることだ

 その女性兵士、自分は水晶爵だと教えてくれたが、すみません……水晶爵ってどれくらいの感じなの? 銀爵と比べたらどっちが上なのか……。

 異文化! 異文化過ぎる! 言葉は同じなのに。


「ハーペンス師には遠く及びませんが、風属性魔法を使えます」

「まぁ」


 あっそう。わたしは聖属性持ちだけど魔法は使えないよ!


「お供できること、身に余る光栄に存じます。身命を賭して聖女様をお守りいたします」


 キラキラした眼差しで、カジュアルに命を賭さんでほしい。


「皆様のご無事が、わたしの望みです」

「なんとおやさしい……感激です」


 言葉を探すのもだるいって気分だったので、わたしは微笑を返事に換えてその場を去った。

 ……正直、なんかイライラする。

 ほんと、聖女やるのってめんどくさいね! 早く辞めたい! なった覚えもないんだが、どうしてこうなってる……王宮が称号授与とか余分なこというからいかんのか。それとも聖属性持ちってだけで、自動的にこうなる運命だったのか。

 という感じで、運命に流されるままに。


「……暇だね」

「……」


 わたしとリートは、例の巨人止めの柵のところにいた。

 柵は木製で、なんていうの……こう、Xの形のユニットを縦に並べて、つなげた感じ。そのXの横幅、つまり柵として見ると奥行きがだいたい一メートルほど。高さはその倍くらい? 先端は尖ってる。

 人間なら簡単に通り抜けられるけど、巨人サイズだと……足蹴にして通るんじゃないかなぁ。聖属性魔力を放出してなければ、障害物として機能するかどうかもあやしい。

 そこから見えるのは、曲がりくねった峡谷の一部だけだ。ハーペンス師の話では、遠い昔に氷河が削り取ってできた地形なのだというが、まぁそれはどうでもよくて。

 この曲がりくねりの向こうでは、ジェレンス先生をはじめとする実働部隊が戦っているらしいのだが……見えない。


「音は聞こえるけど」


 鼓膜破りといわれる巨人の咆哮らしきものも聞いた。たしかに、うるさかった。

 かなり距離があるせいで、我々の鼓膜は安泰だ。


「聖女様、お時間です」

「わかりました」


 今朝会った水晶爵のお姉さんにうながされて、わたしは巨人止めの柵の操作盤に手を当てた。

 操作盤といっても、具体的に出力調整をしたりとか、そういうことをするわけではない。単に、呪符に魔力を流し直すだけだ。

 これをやっておくと、巨人はこっちに来ないのだという。

 峡谷をこのまま進むと、王都はそう遠くないそうだ――そういう地理的な位置関係でなければ、いかにハーペンス師が優秀な風属性魔法使いであっても、あんな豪華な調度品を即座に調達はできないだろう――だから、万が一にも戦いの流れで巨人がこっちに進まないように。

 いわば、ここが最終防衛線。

 そう表現するとかっこいいけど、やってることは、定期的に魔力を流すだけ。


「勢いが強過ぎるぞ。呪符を焼き切るつもりか」


 自分では魔力が感知できないので、リートが補佐してくれて助かった。……腹は立つけどな! もう少しやさしく指摘してくれてもいいと思う。

 なお、リートが偉そうなのは、ほかのひとは遠くに控えてもらっているからだ。周りに誰かいると、即座にへりくだった態度になるの、ほんとすごいと思う。切り替えが早い。


「もう止めてもよさそう?」

「そうだな。三つ数えて止めるくらいの感覚でやれ」


 そんな感じで、今回の作業も無事終了。魔道具で測定すると、放出される聖属性魔力は目標値をわずかに上回っており、これなら巨人もこっちには来るまい、という話。

 そしてまた、ふりだしに戻る。


「……暇だね」

「……」


 座り心地のよい椅子が用意されているのだが、まぁ……やることがない。


「リートは、試験勉強のための本とか持ち込んでないの?」

「ない。急な出立だったし、荷物は絞ったからな」


 ……あー。そういえばこいつ、ポケットに無理やり詰め込めるものだけで出かけてたな! あのポケットぱんぱんスタイルで臆せず外国旅行できるの、ある種の尊敬を感じなくもない。もちろん、真似はしたくない。


「残念。本があるなら、貸してもらえたのに」

「なぜ君に貸さねばならん。持って来るとしたら、俺が自分で読むためだ」

「聖女が落第したら、護衛も肩身が狭いでしょ」

「べつに? 落第するのは君であって、俺ではない」

「それはそうでも、どうせなら試験に合格する聖女の方がいいじゃない」

「聖女だからどうこういう話なら、聖属性魔力さえ失わなければ、ほかはなにも問題にされないと思うぞ」


 そうだろうな! くっそ正しくてムカつく!


「……今、暇だから、勉強に時間を使えたらいいのになと思っただけよ」

「なら、呪符の暗記でもするか?」

「それ試験に出る?」

「出ないだろうな。一学年の基礎教養の範囲ではない」


 そうだよなぁ。呪符魔法って専門性が高いし、一学年で求められるのって、魔法の常識を学ぶ・自分の属性を伸ばす・あわよくば副属性を獲得する……このへんだと思うよね。


「暇だし、やろっかな。でも、どうやって? 本もないのに」

「俺が暗記した部分なら教えられる」

「え。どんだけ暗記してるの?」

「本でいえば、三冊」


 こわっ!


「それ、ここ数日で?」

「一回読めば覚える。むしろ、一回読んでも覚えられないという現象が、俺には理解できない」


 わぁー……。


「先生、じゃあ教えてください」

「よかろう」


 というわけで、地面に棒切れで呪符を描く授業がはじまったのだが……。

 わたしは忘れていたのだ。リートは、覚えていても描けないということを!


「ええ〜、こんな形じゃなかったでしょ、わたしもなんとなく覚えてるけど……」

「弧の長さが違うようだな」

「そういう問題じゃないよね、リートが今描いたこれ、弧って呼ばないよね! ちょっと歪んだ直線でしょ!」

「歪んでいたら直線とは呼ばない。すなわち、これは直線ではない」


 いやぁ……リートに呪符扱わせるの、危険過ぎない? そのうち爆発事故を起こすぞ。


「リートは、呪符魔法は諦めた方がいいよ」

「他人の可能性を狭める発言は、控えるべきだぞ」


 そうかもしれんが。……そうかもしれんが!


「なんか逆に自信が出てきたわ……わたしの方が、ずっと描けてる」

「君はたしか、呪符魔法の大家になる予定だったな」

「大家っていうか……使えるようにはなりたいよ。聖属性って、魔王と眷属にしか効果ないし」

「君が呪符魔法の達人になれば、俺も護衛任務から解放されるな」

「リート……」


 やっぱり護衛ってつまらないよな? 制限多いし。早く解放してあげられればいいのにな……なんて思ったわけだが。


「そうしたら、巨人との戦いを見に行ける。頑張ってくれ」

「は? 今?」

「そうだ。今すぐ達人になれ。巨人と〈無二〉と〈矢継ぎ早〉だぞ……すぐ向こうで戦っているんだぞ。こんな機会が二度とあると思うか?」


 知らんがな。ていうか、二度とない方がいいと思うよ。巨人がどんどん出るってことは、魔王の力が強まってるってことだからさぁ!

 しかし、今の発言。本音・オブ・本音って感じだな。

 そうかぁ。ヒーローが巨大ヴィランとどっかんどっかん戦うところが見たいかぁ……。

 ……子どもか!


「そんなに行きたいなら行ってくれば?」


 リートは少し迷ったものの、きっぱりと答えた。


「いや、俺の任務は君の護衛だ。よって、それを優先すべきだ」

「ここは危険はないでしょ? あんなに兵隊さんもいるわけだし」

「なにをいっているんだ。敵国の兵だぞ」

「てっ……」


 リピートしかけて、わたしは思いとどまった。リートの声はあまり響かないけど、わたしにはほら……接客業でつちかってきた、無意識の大声ってやつがあるのでね。自重自重。


「君は呑気だな。央国ラグスタリア東国セレンダーラは、表面上の友好関係をたもっているに過ぎない。逆にいえば、だからこそファビウスが王家避けとして作用しているんだ。紛争のきっかけが学園内を歩いているようなものだと考えればいい」


 言葉がないとは、このことだ。

 口をつぐんでしまったわたしをどう思ったのか、いやどうとも思ってないのだろうけど、リートは嫌そうに、しかし決然といいはなった。


「俺の使命は君を守ることだ。君さえ無事なら、ほかのことはどうでもいい」


 かっこいい台詞だなぁ。乙女ゲームとかで出てきたら、間違いなくキュンっとするとこじゃない?

 ま、現実には軽い絶望を覚えただけなんだけどな! 現実厳しい!


残念ですが、来週の更新はお休みします。

時間がたりず、進捗に問題が出ている作業が複数生じてしまい、キャパオーバーを痛感しているためです。

再来週の更新再開をお待ちいただければ嬉しいです。


(明日の金曜日は更新します&もう一回、休載のご案内を掲載します)

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