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163 軽率に地雷を踏んだわたしが馬鹿だった

「見たことは見た。魔力が巡ってるみたいだが、あれは魔道具なのか?」

「ファビウスが送って来た呪符を使って、空気中から抽出した魔力を聖属性に変換、蓄積している」

「それが巨人止め、ってことか」

「もちろん、操作すれば放出もできるが、まだ試験段階だから、あまり出力を上げられない」


 呪符を使ってるってことは、わたしが魔力を流すと効果あるって案件は、この巨人止めとやらなのかな。ジェレンス先生が山の上から見たくらいだから、それなりの大きさなんだろうけど……。


「放出もやってみたのか?」

「ああ、小規模にだが。貯めるにも限度があるからな」

「貯め過ぎないように抜いてるってことか」

「設計上の耐用限界が、正確に計算できていない状態だ。現場で運用しながら、安全に操作できる範囲を見極めるしかない……ってわけさ。だから、大した量にはなってないんだが、それでも巨人は勘づいたようだ。聖属性魔力を嫌がって、進まなくなった。今日で三日、うろうろしつづけている」


 ジェレンス先生は、少し考えてから尋ねた。


「進まなくなった原因が聖属性魔力だ、って確証はあるのか?」

「そこを突かれると弱いな。特にないが、ほかの理由も思い当たらない」

「そりゃそうか。ま、俺でも同じ仮定に立つな」

「お褒めいただいたと考えてもいいかね?」

「まさか。で、攻撃は?」

「いろいろ試したよ。睡眠の魔法をかけた酒を飲ませてみたり、爆炎が使える魔法使いを送り込んだりね。が、効果は認められない。食べ物がないせいか、昨日から山を削って岩を食いはじめた。このままだと、峡谷の地形自体を壊して脱出しかねない」


 えっ、岩? 岩を食べちゃうの? ちょっと確認したかったが、とても口を挟める雰囲気ではないので我慢した。


「観測装置の方は?」

「二段構えだ。巨人の体表面積が大き過ぎるせいで、魔力の拡散がひどくてね。だから、まず魔力の流れを一箇所にまとめる必要がある。それから、観測だ。だから、装置も二種類ある」

「魔力を収束させる方は、巨人本体に取り付ける必要がある、ってか」

「ご明察。大雑把な説明は、こんなところかな。幕屋はこの少し下にある。各隊の隊長に召集をかけておいた。もう揃っている頃だろうし、そこで詳細な話をしよう」

「めんどくせぇ」


 ジェレンス先生の態度が悪い! ……今にはじまったことではないが。

 しかし、仮にも王妃様の親戚相手に、この対応……これ、我が国の恥になったりしないの? ねぇ? まぁ、わたしにできることはないんだけどもさぁ!


「そういわず。君が来ないなら、聖女様にご臨席いただこうかな。その方が、兵士たちの意気も昂揚するだろう」


 ……って思ったところで、わたしに話を持ってくるかーっ! なんなのこの魔性のイケオジ。さっきから、気を抜いた瞬間を見透かしたように、フッ、って来るよね。

 ジェレンス先生は、すかさずわたしの前に立ち塞がり、ドスのきいた声で宣言した。


「勝手に巨人ブチ殺して帰るぞ」

「おやおや。魔王の復活場所、特定したくないって?」

「出たらわかる」

「被害も出るよね?」


 はい、勝負あった! ジェレンス先生より、ハーペンス師の方が三枚くらい上手うわてだと思う!

 そういうわけで、我々は天幕が並ぶ野営地に連れて行かれた。途中、わたしがよろけて、すかさず支えてくれたハーペンス師をジェレンス先生がどつく、などのイベントもこなしつつ。

 ……あのスピードで動けるなら、わたしがよろけた時点で支えてくれればいいんじゃないの? なんか理不尽!

 で、ジェレンス先生は隊長が集合しているらしい大天幕へ連行されて行った。わたしとリートは護衛をつけられて、ハーペンス師が個人的に使っているという豪華な天幕へ。

 そう。……豪華!

 外がどんな環境かを忘れそうな内装……いや、天幕に「内装」って言葉が適切なのかはわかんないけども! ふっかふかの絨毯に、ビシッとととのえられた寝台、書き物机、椅子……それから、食卓かな? やや大きめのテーブルと椅子のセットも置かれていて、壁面(?)には芸術的なタペストリー。

 いやぁ……ちょっと想像と違ったわ。正直にいうと、かなり違うわ。入口の垂れ布持ち上げた瞬間に足が止まって、リートに文句いわれたくらいには、おどろいたわ。

 椅子に座っていいのか悩む……座るべきではあるんだろうけど、どの椅子に? この天幕のあるじが戻って来たとき、座っていても失礼がない位置ってどれだ! 助けて、エーディリア様!


「君も臨席したいと主張すればよかったんだ」


 べつに入口で立ち止まらなくても、リートは文句があるらしかった。


「なんで」

「軍と魔法使いが連携しての作戦行動だ。今後の参考になる」


 ああ、作戦会議に参加したかった、ってことかぁ……。

 我々の立場だと、発言は許されない気がするけど。見てるだけでもいいのかな。


「リートは武闘派なの?」

「は?」

「今後の参考になる、っていうから」

「君の表現はわかりづらいな。いいか、聖女として、君は前線に招かれる可能性が高い。対魔王でも、今回のような対眷属戦でもだ。となれば、護衛をつとめる俺も同行せざるを得ないだろう。知識は豊富なほどいいし、今ここにいる兵士は、これまでの何日間か、巨人と対峙しているのだからな。新鮮な情報を持っているはずだ。今後に活かせるに決まっている」


 なるほど。……なるほど?


「リートって、わたしの護衛任務、気に入ってるの?」

「気に入るとか入らないとかいう話じゃない。俺の生活の道だ」

「もう、なんとでもなるんじゃないの? その……生活? 収入とかさ。なにも、校長先生に頼らなくても」


 リートは押し黙った。

 ……この話題については二度と喋らない、ってやつかぁ。

 でもさぁ……なんかこう。納得してやってるならいいんだけど、嫌なら辞めてほしいな……と、思っちゃうんだよなぁ。わたしの護衛。

 ま、リートのことだから? 俺は辞めたいと思って辞められる状況ならもちろん辞める、君の意見は関係ない、みたいな感じになるんだろうけども?

 そうだよな……。うん、よしわかった、わたしが考えてもしかたないことだ! この話題は終わりだ!


「全然関係ないんだけどさ、わたしは女性だから聖女って呼ばれるけど、聖属性魔法使いが男性の場合って、なにか特別な呼びかたあるの? 称号とか。ロスタルス陛下は男性だったわけだけど……なんて呼ばれてらしたんだろう?」

「陛下、だろ」

「それ魔法関係ないじゃん」

「魔法が関係ある呼び名にする必要があるとでも?」


 トゲトゲしい! 言葉だけだと、いつも通りのリートなんだけど、雰囲気がトゲトゲしい!

 ……悪かったよぉ、軽率に地雷を踏んだわたしが馬鹿だったよぉ……。


「失礼します」


 天幕の垂れ布が上がり、ハーペンス師の従僕だという男性が入って来た。

 この風貌なら「爺さん」呼びでも納得するなぁ、って感じのご年配なのだけど、動きはきびきびしてるし、背筋はビシッとしてるし、いかめしい顔なのに笑うと可愛くて、ポイント高いよ! なんのポイントかはわからんけど!


「お飲み物を、お持ちいたしました。聖女様の天幕のご用意がととのうまで、こちらでおくつろぎください」

「わたしの天幕?」

「はい。御身はうら若き乙女なれば、むくつけき男どもと雑魚寝というわけにも参りません。ハーペンス様からも、早急に準備せよと申しつかっております。日没も近うございますゆえ。さ、どうぞお座りください」


 そういって、従卒さんは椅子を引いてくれた。椅子選びの悩み、解決!


「わたしも、お手伝いさせていただいても? その……天幕の設置とか」

「いえ、手慣れた者がいたしますので」

「でも――」

「聖女様には、旅の疲れを少しでも癒していただきませんと。さ、ごゆるりと。でないと、自分がハーペンス様に叱責を受けます。どうぞ、この爺を哀れとおぼし召せ」


 ほんとに哀れっぽい声でいいながら、悪戯なウィンクを飛ばしてくるあたり……東国セレンダーラ。東国!

 東国の男って、みんなこんななのか!

 てきぱきとお茶を淹れながら、従僕さんは語る。


「聖女様のお好みの茶葉は、渋みが少なめの、香りが華やかなものとか。幸い、ちょうど条件に合う茶葉がございます。どうぞご賞味ください」

「わたしの好み……ですか?」

「はい。ファビウス坊っちゃまより、伺っております」


 情報漏洩ー! えっ、いつ、なんで、どうして、そんな瑣末な情報がこんなところまで届いてるの!


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