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132 うまくいかせてから、ものをいえ

「それはともかくとして、もう図書館へ行くような時間じゃないね」


 王子の襲撃、実は学園の始業時間くらいだったので、図書館に行きそびれていたのだ。そして、実はもう昼が近い。

 リートがウィブル先生をともなって戻って来るまでにも、それなりに時間がかかってるからなー。


「昼食は注文しておくから、ここでとって。午後は課題だけど、今日はふたりで協力してほしいんだよね」

「協力、ですか?」

「ルルベルの魔力でリートの魔力玉を覆って、何個中身を残せるかに挑戦してほしい」


 リートとわたしは顔を見合わせた。まず、リートが質問する。


「大きさなどは?」

「自由だよ。自分たちで工夫して、どうするのが長く、多く残るかやってみて」


 えっ、これ難しいな。大きさに関係なく消えちゃいそうな気もするし、大きい方がスカスカで減衰しやすい気もするし、小さいと簡単になくなっちゃう気もするし……あっやばい! すべて、なくなりやすい方ばっかり考えてる!

 こういうの、残るって考えなきゃいけないんだよね。たとえリートの魔力が減衰しやすくても、わたしの魔力でなんとかしてみせる! って気概で挑まねば。


「指示はそれだけですか?」

「うん。ある程度の推論はできてるけど、それが結果に影響しない方がいいし。それに、実際にやってみた方が、君たちも実践するときに心強いと思うよ。鍛錬にもなるし」


 にこやかにそう告げると、ファビウス先輩は外套を手にしてドアへ向かった。


「僕は所用があって出かける。わかってると思うけど、誰か訪ねて来ても、安易に中に入れないようにね」

「はい」

「いい返事だ」


 じゃあね、と手をふって、ファビウス先輩は出かけてしまった。


「どこ行くんだろう」

「俺が知ってると思うのか」

「またそれ?」


 飽きたわその返し……と思ったが、リートの言い分はこうだ。


「君がそういう質問ばかりするからだ」


 くっ。確かにそうだけどさぁ! 気になるじゃん!

 しかし、リートはその話題を引っ張るつもりが微塵もないようだった。


「それより、課題について考えよう。俺は失敗したくない」

「失敗、って?」

「君の覆いの中になにも残ってませんでした、みたいな結末は避けたいということだ」


 おおぅ。そんなことが……あり得るな。あり得る。

 リートの魔力は、わたしの魔力に比べてはるかに減衰しやすい。なんだっけ……残置性? あれが、異様に低い。

 生属性の魔力はそういう傾向がある、とはファビウス先輩が話してた気がする……生属性って、つねに変化する「生命」にはたらきかけるものだから、永続性が不要なんだよね。というより、合わない。その場その場でピタッとくることをするのが、生属性魔法なんだそうだ。

 逆に、なかなか消えない聖属性魔法って、残る必要があるのかな。……必要ありそうだなぁ。魔王の封印なんて、最たるものじゃん。なるほど理解。


「……頑張って魔力を練っていただいて」

「君こそ、魔力を漏らさない工夫をしてくれ」


 そもそも、ファビウス先輩がいないってことは、魔法を色付けしてもらえないってことでもある。

 ひとりで魔力玉を出すのはもう慣れたものだけど、共同作業ってつまり、不可視の魔力玉に不可視の覆いをかけるってことで……。ここまで考えてようやく、わたしは事態の深刻さに気がついた。


「ねぇ、この課題……難しくない?」

「だから、はじめからいっているだろう」

「いってないよ、難しいなんて」

「俺が失敗を案じるんだ。簡単なんてことがあるか」


 少しは考えろ、と叱られてしまった。くそぅ。

 そのあとは、少しどころではなく考えることになった。まず、サイズに差をつけた魔力玉をリートが作り、わたしがそれを覆うことにしたのだが……これがもう難しい。

 魔力感知が得意じゃないからね! リートの魔力玉がどこにあるか、漠然としかわからないのだ。もたもたしていると、リートの魔力玉は消えてしまう。

 そこで順番を逆にすることになった。わたしが覆いを作り、その中にリートが魔力を注入するという手順でトライしたのだが、ここでも問題発生。

 わたしの魔力覆いが完成してしまうと、リートの魔力を入れられないのである。我が魔力覆い……魔力遮断が完璧過ぎる!


「えっ、これうまくいったらリートの魔力も減衰しないんじゃない?」

「うまくいかせてから、ものをいえ。どこかに穴を開けろ」

「見えなくても球体をつくるのは慣れてるけど、穴を開けろって急にいわれても……」


 染色! 染色をたのむぅ……!


「使えんな」

「ずいぶん一方的にいうじゃない。リートの魔力が減衰しなければ、何回でも覆いに挑戦できるんだよ」

「だが減衰するのが現実だ。受け入れて、対処しろ。君は手早く作業をおこなうか、俺が魔力を入れられるように注入口を残して形をつくる必要がある」

「できないからできないっていってんでしょ!」

「……癇癪を起こすな。うるさい。黙って考えろ」


 我々は考えた。思いついたというか、思いだしたのはリートである。


「見たことがあるだろう」

「なにを」

「シスコだ。魔力玉を作るときに、ファビウスが覆いを作っていただろう。あれを念頭に置いて、やってみろ。具体的に想像できれば、成功率も上がる」

「じゃあ、手の上でやればいいのかな」

「そうだな、床や机の上でやるより位置が特定しやすい。……なるほど、手を使うのは悪くない」


 そういうわけで、まず器を作れるかやってみた。自分ではよくわからないので、リートの魔力感知で探ってもらう。

 いい感じにできたところでリートが魔力をそそぎ、できるだけ急いでそれを球体として完成させる……。はじめは失敗つづきで互いをののしったが、だんだん手順が掴めてきた。


「……できるようになってきてない?」

「大きさに変化をつける段階に入ったな」

「あと、魔力覆いの厚みも考えた方がいいかも」

「当然だが、君にそんな芸当ができるのか?」


 煽られたわたしは、全力で厚みの違う覆いを作成した。全力で!


「……これ、中空になってないぞ。分厚過ぎて」


 なんてクレームも入るくらい頑張ったよ!

 見えない状態で試行錯誤することで、よりわかってきたこともある。わたしも……少しなら魔力感知できる。少しだけどね!


「自分の魔力はよくわからないけど、リートの魔力はわかるようになってきた……なにこれ」

「分析は学者にまかせろ。今は課題の達成に集中しろ。俺の魔力を感知できるなら、先に魔法玉を置いてから覆う作業もできそうか?」

「それは……無理そう。わかるのが、中身のことだけだから」

「中身?」

「魔力覆いが完成したら、中身のことはわかるって感じ?」


 そうなってから感知できても、作業の役には立たないんだけどな!


「俺は逆だ。君の魔力で覆われてしまうと、自分の魔力がどうなっているかはわからん」

「今のところ、目立った減衰はない……ような気がする」

「よし、君の魔力感知が事実なら、大きさや覆いの厚みで変化をつけて、どれが減衰しづらいのか、有意差が生じるかを確認することもできる」

「そこまで綿密にはわからないよ」

「なにもわからないよりは、ずっといいだろう。ある程度の推測ができるところまで仕上げていきたいが……その前に保険だな」

「保険?」

「課題がなんだったか、覚えているか?」

「え、魔力玉を……たくさん作る。あ、いや違う。残す」

「覚えてないのか。何個、中身を残せるか……だ」

「あー……」


 たしかに、そんな課題だった。すっかり忘れてた……問題は個数、そして中身が残ってるかどうかだった! 感知成功に浮かれて、意識がそっちに行ってた!


「だから、まず小さめのものを十個は作ろう」

「覆いの厚みを変えて」

「そうだ。薄めの覆いでも残りそうなら、小さく薄くで作り足して、二十個くらいあればいいか……。ある程度の個数があれば課題としては成功と判断されそうだし、実際の個数より、条件を変えたときにどうなるかを実測して傾向をまとめることができれば、その方が評価は高くなるはずだ」


 ……リートがガチだ。今まででいちばんガチな気がする!


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