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123 男どもの足が救われる計画

 というわけで、シスコの突然の一喝により、会議の方向性は完全に変わった。

 なんていうか……アレよ。聖女の政治的活動に関しての云々じゃなくなったわけ。

 じゃあ、どうなったかっていうと。ド平民の女の子ルルベルの、理想的な社交界デビューをプロデュース〜トキメキの一夜を君に〜みたいな?


「王子を押しつけられないように、エスコートを禁止にしようか?」


 エルフ校長が、また強権発動しようとしてる! 万事、雑なんだよなー!

 でも、シスコが冷静に反論した。


「それでは横暴な印象を与えてしまいます。わたしがご提案するのは、ダンス曲を輪舞用の曲目にすることです。実効性を考えれば、悪くないと思います。聖女――ルルベルが、特定の派閥に属さないということを表現するためにも」

「なるほど……悪くない考えですね」


 なるほどわからん。

 わたしは隣に座って無言をつらぬいているリートに訊いてみた。


「輪舞ってなに?」

「男女が別々の輪になってぐるぐる踊る」


 輪になって、ぐるぐる……。

 頭の中に浮かんだのは、前世日本人としての記憶。そう、盆踊りである。

 盆踊り、子ども会で参加必須だったんだよな〜。あれも地域によっては高速で回って汗だくになるらしいよね? わたしが住んでた地域のは、ゆっくりまったりパパンがパンって感じだったけど。

 しかし、王立魔法学園の舞踏会で盆踊りはどうなのか?

 いや、盆踊りを馬鹿にする意図はない。そういう意図はないし、これを採用すればエスコートもへったくれもなくなるのはわかるが、いくらなんでも!


「内側の輪が女性で、外側の輪が男性なの。で、逆方向に回って、対面するパートナーがどんどん変わるのよ」


 反対隣のシスコが、わたしの妄想をうち砕いてくれた。

 なるほど、そういうことか! わかったぞ、アレだろ! アレ! これ盆踊りじゃなくて運動会のアレだ……なんかあったじゃん! アレ!


「特定の誰かとずっと踊るわけじゃない、ってこと?」

「うん。これなら、パートナーがみつからないって悩みも少なくなるし……特定のお相手がいたとしても、それはそれで胸がときめくと思うわ」


 わかる……わかるぞ。くっついたり、離れたりだな!

 次はいよいよ、憧れのあのひと……あっでも曲が止まっちゃった……なんてこと、次の曲は反対回り! ああ、あのひとが遠ざかっていく……みたいなやつだろ、甘酸っぺぇ〜! ナイス、シスコ!

 わたしがフォークダンスの思い出に浸っているあいだも、話は進んでいく。


「ちょっと古くさいって、いわれるかもだけどねぇ。今は、男女ペアで踊る方が流行だから」

「でも、父兄には好意的に受け入れられると思いますよ」


 ファビウス先輩がフォローすると、ウィブル先生は顔をしかめて見せた。


「そりゃ保守反動だから。上の年齢層は好意的に受け入れるに決まってるわ。これだけ広まった今でさえ、破廉恥だなんて眉をひそめるご老人はいるんだもの。……まぁ、いいんじゃない、輪舞。がっかりする生徒もいるかもだけど、とりやめになるより、ずっといいわね」


 舞踏会中止はダメ、ゼッタイ。そこはたぶん、エルフ校長以外は合意が持ててるところだろう……いや、リートはなんも思ってなさそうだけど。

 シスコは大きくうなずいて、よし、って顔をした。


「これで、ダンスのレッスンに割く時間を最低限にできます」


 どゆこと?

 またリートを見ると、質問する前に答えてくれた。


「組んで踊るダンスは、基本的には男性が後退、女性が前進するかたちで移動する。男性はフロアリング――つまり、ほかの踊り手にぶつからないように進路を適宜変更しつつ、それがダンスの動きとして成立する動きを習得しなければならない。女性はそれに合わせる練習が必要になる。君は女性だから、男性が次にどちらに足を出すか、どちらの足が残るかを頭に入れてから自分の足を出さないと、男性の足を踏むことになる。君にとっては、瑣末な問題だ。踏まれる男の方は大問題だが」

「……」

「大丈夫よ、そういうダンスは最低限にしましょうって、今、決めたところだから」

「男どもの足が救われたわけだ。喜ばしい」


 リートが真顔でいうのは腹立たしいが、いやいや、そこじゃなくて。


「生徒会主催なのに、勝手に決められるんです?」

「会場を提供するのは僕ですからね」


 エルフ校長、どや顔も麗しいですね……。でもそれ、ウフィネージュ様がすんなり飲んでくださるかしら……弟と違って、チョロくないぞ?

 疑問の眼差しをファビウス先輩に向けると、なんの憂いもないね、って感じに返された。


「そのへんは、生徒会長が条件を飲んでくれるような旨味を、別途提供すればいい。なにか考えるよ」


 なにかってなんだ。不安だ。

 わたしの表情の意味を誤解したらしいシスコが、手をぎゅっと握って元気づけてくれた。


「輪舞は基本の動きさえ覚えれば、あとはそんなに難しいことないから。大丈夫だよ」

「だから飽きるのよねぇ」


 ウィブル先生は美意識が高いから、かび臭い輪舞はお気に召さないみたいである。

 でも、わたしも誰かの足を踏みまくるのは避けたい。それが王子であっても、なくても。

 あとは「エスコート」という名の専有権っていうか優先権? それをどう縮小していくか、あるいは王家に委ねずに済むかについて、もう少し煮詰める必要があるらしい。具体的には、エルフ校長がマジのガチで王家にわたしを渡したくないらしくて、ゴネている。

 ダンスの練習は、シスコとリートが面倒をみてくれることに決まった。


「ドレスは、わたしに見立てさせてくれる? うちの総力を上げて作るわ」

「見立ててもらうのはいいけど、ほら、わたし……」

「お金なら心配しないで」


 シスコが、ガシッとわたしの手を握った。あ、目がマジだ。


「いや、そういうわけには」

「こういうの、ルルベルにいいたくないけど、聖女との交友を深める意味での投資っていえば、うちの親はいくらでもお金を出すわ。わたしがルルベルと友だちになったって報告したら、小躍りしてたもの。大丈夫よ、まかせて」

「いや……」

「もちろん、わたしはルルベルを商売のために使ったりしない」

「待ってシスコ、そこは使ってよ。使ってくれないと、遠慮しちゃう」

「じゃあ使う」


 はやっ!

 シスコは少し悪戯っぽく笑って種明かしをした。


「ルルベルなら、きっとそういうと思ってた。だから、そういう約束でいいわ。協力の対価は、必要なときに取り立てさせてね。でも、わたしの気もちはほんとのほんと。利用したいなんて、思ってないから……。信じてくれる?」

「信じるよ!」


 もちろん即答である。

 シスコがちょっと視線を落として、あ〜もう可愛いぃ!


「あと、いつもほら……部屋の小物とか、ケーキとか。選ぶのがうまいって、褒められてるから。わたし、調子に乗ってるの。ドレスも選べたらいいな、って」

「是非、シスコに選んでほしい」

「そうと決まったら、明日は仕立て屋に……行けないかな? どうしよう」

「ここに業者を呼んでいいよ。校長先生、いいですよね?」


 ファビウス先輩が確認をとろうとすると、エルフ校長はなぜか悲しげに提案した。


「エルフの里で仕立ててもいいんだよ?」

「いえ、遠慮させてください……」


 絶対似合わないっていうか、着るのが申しわけなくなるに決まってる!

 それはまぁ、シスコにドレスを見立ててもらっても、あんまり変わらないかもしれないけど……でも一応、人間界のものだからね? エルフのはね……非日常的な芸術だから……無理。


「じゃあ、あとは僕たちにまかせて、君らは寝て」

「そうそう、大人にまかせときなさい」

「……まかせておける問題ばかりならいいけど」


 シスコが小さくつぶやいたのは、たぶん、わたしにしか聞こえなかったと思う!


 そんなこんなで急遽、ダンス・レッスン、行儀作法レッスン、ドレス注文などのミッションが舞い込んだのであった……。

 いやもうほんと、吸血鬼が街を跋扈して犠牲者も多数出てるってのに、そんなことやってる場合じゃなくねー? って思うけどね。

 ほら、前世日本でいうとさ、地方が豪雨とか洪水とかの災害に襲われているときに、政治家は東京で宴会やってましたー、みたいな感じじゃない?

 しかも、わたしは宴会に参加する側に強制エントリーだよ……。

 どうなる、この国の――いや、世界の未来!


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