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121 駄目出しの主語が大きくなった

 シスコは、そのままお泊まりしていってくれるとのこと。いやもうほんっと、女の子成分を補給しないと死ぬ……って感じだったので、シスコの存在がありがたい……。

 研究室のお風呂は、シスコ基準でも豪華だったらしい。

 ジャグジーは「ああいう魔道具が存在することは知ってたけど、まだ実用は無理としか聞いてなかった」とのことなので、あれもひょっとして、ファビウス先輩の独自開発なのでは……。


「ファビウス様って、ほんとにすごいわね……」

「うん」


 同意しかない、ってやつだ。

 でも、本人はそれなりにコンプレックスがあるらしいのが面白いよなぁ。戦闘には向いてないとか、そういうの。

 あれだけ美形で、高貴なお生まれで、対人スキルも高く、魔法使いとしては革新的な天才……。こんな多方向ハイ・スペック人間でも、まだ満足いかないのか!


「そういえばシスコ、最近……ごめんね」

「えっ、なに?」

「リート。こっちに護衛に来てるから、シスコが会う機会、すごく減ってない?」


 実は、気になっていたのである……。

 するとシスコは眼をしばたたいて、それからちょっと視線をそらした。


「あのね……すごく正直に、いっちゃうとね……」

「うん?」

「やっぱり、べつにリートのこと、そんな特別に好きってわけじゃないかも……」


 な、なんだってー!

 いやでもリートにシスコはもったいないと思ってたので、気が変わったんならそれはそれでいいけど! いいけど!


「わたしに気を遣ってたりしない?」

「しないしない。だって……リートって、なにも共感してくれないんだもの」

「ああ」


 わかる。……わかるぞ!

 それからしばらく、我々はリートがいかに恋愛対象としてイマイチかについて語り合った。リートが聞いてたら……ごめんね! でも盗聴は許してないので、もし聞いてたら自業自得ってやつだ!


「恋愛するって、難しいわね」


 シスコがぽつりと漏らし、うんうん、とわたしはうなずいた。

 そもそも、恋愛推奨環境にぶちこまれた転生者であるわたしが、全然、まったく、なんにも! 恋愛できていないのである……。たしかに難しいわ。


「もっと惚れっぽければ簡単なんだろうけど」


 思わず、ため息混じりに漏らしてみると、シスコもため息をついた。


「わたしは、ルルベルよりは惚れっぽいかもしれない。ちょっと素敵かも、くらいまでは思うの。リートもそうだったし、たとえばファビウス様だって……素敵だな、とは思うの。でも、すぐに欠点が見えちゃう。それで踏みとどまるんだけど、欠点だなんて勝手に駄目出しして、何様なんだろうって。自分が嫌になったりする……」

「シスコはシスコ様だし天使様だよ! 男は選びに選び抜いて、最高に幸せになってほしい!」

「シスコ様って……もう、ルルベルったら、なにいってるの」


 シスコは笑った。笑ってくれてよかった……。


「もっと駄目出し聞きたいなぁ。あ、じゃあ、ファビウス様は?」

「ファビウス様は、ご立派過ぎるわ」


 一刀両断! 一瞬の迷いもなかったぞ。


「たしかに……」

「お血筋もそうだけど、研究室にお招きいただいて確信したわ。ファビウス様は、まさに天才ね」

「それは、わたしも思う」

「あのかたの隣に並ぶのは、勇気がいるわ。わたしには、とても無理」

「そうかなぁ。シスコ、並んでるとお似合いって感じだったよ」

「それは、ファビウス様のエスコート力じゃない?」

「なにそれ」

「エスコートしている女性を素敵に見せる力よ」


 リートは駄目ね、とシスコはまた駄目出しをした。

 まぁな。リートにそういう力がないのは、なんとなくわかる。たしかにな!


「シスコは、とっても素敵な女の子だと思うけどな!」

「そんなことはないし、どれだけ素敵でも、ファビウス様の隣には並びたくないわ」

「そうなの? でもパーティーとかでエスコートしてもらったら、すごくない?」

「すごいだろうけど、わたしはそれ、遠くから見てる方がいいわ……」


 小心者なのね、とシスコは自嘲するようにつぶやいた。


「ああ、きっと華やかだろうなぁ。わたしも見てたい。一緒に見物に行こうよ」

「いいわね。今年も、もうじきあるし……」

「……ある?」

「学園舞踏会よ。手軽に見物できるっていったら、それしかないわ。パートナーなしでも出席できるし、うるさいこといわれないはずよ」


 待って。なにその乙女ゲームみたいな催しもの!

 思わず訊いてしまう。


「なにそれ」


 一応、後半は口にしないだけの良識があった。

 前半でありながら本質的な疑問である「なにそれ」に、シスコはていねいに答えてくれた。


「生徒会主催の舞踏会よ。全生徒に出席の権利があるわ。それから、生徒ひとりあたり一名のみ、外部の人間を招待できるの。だいたいは家族とか、婚約者が外部にいる生徒は婚約者を呼ぶわね……って、ルルベル。まさかと思うけど、知らなかった?」

「知らないですね……」


 庶民とは関係ない世界だからなぁ、王立魔法学園。

 ある程度は広報活動がなされている王室のことでさえ、本日舞踏会開催! みたいなのは流れてこない。いちいちやってたらキリがないからだ。王室マニアなら、把握してるかもだけど。

 ましてや、魔法学園の生徒会主催舞踏会なんてそんなニッチなもの、知るはずない。

 でも、シスコの口ぶりだと毎年開催されてそうだな、魔法学園の舞踏会。


「じゃあ、ドレスの準備もしてないわね?」

「ドレス? えっ、制服じゃないの」


 シスコの眼が、まんまるになった。エルフ校長の部屋に飛ばされたときよりは、若干小さいかな……あのときは限界に挑戦してた感じあったもんな。

 その大きな眼が、すっ、と。ほそめられて。


「まぁ……男の人たちは、そういうことに気が回らないから! もう! 全員使えない!」


 駄目出しの主語がデカくなったぞ!


「待ってシスコ、わたしほら、ドレス作るような、その……お金が……」

「なにいってるの。あなた、聖女の位をいただいたんでしょう? お金くらい、王室からでも神殿からでも、好きなようにもぎ取っていいのよ」


 いや、よくないと思うぞ? シスコ、勢いがついてるな、なんか!


「いいよいいよ、わたしは平民なんだし、礼儀作法はもちろんダンスのステップもわからないし、舞踏会なんてとても無理だよ」

「そんなわけにはいかないと思うわ。だってルルベル、わたし、前から伝えてるつもりなんだけど……聖属性魔法使いって、もう平民のつもりではいられないわよ?」


 うぐぅ。


「……光属性魔法で透明になりたい」

「なに?」

「気にしないで。ちょっと願望が口から漏れただけ。でも正直、そんなことやってる場合じゃないっていうか。ほかに、やること満載っていうか?」

「やることはあるわよ。満載よ。ドレスを作ったり、ダンスの練習をしたり……最低限の礼儀作法も学んだ方がいいわね。わたし、ファビウス様にお願いしてくるわ」

「ちょ……ちょま、ちょっまっ……ちょっと待ってシスコ!」


 わたしの慌てぶりで察していただけるだろうか。

 シスコはすごい勢いでベッドの布団を跳ね上げると、ガウンをまとい、スリッパを履き、颯爽と出て行ってしまったのである。

 ……ファビウス先輩の部屋わかるのかな。

 や、呆けてる場合じゃないだろ、追え、ルルベル!


 わたしもわたわたとベッドから抜け出すと、ショール(これもすごい手触りがいいやつを、ファビウス先輩が部屋に置いておいてくれたので使わせてもらっている。とにかく、すっごい手触りがいい。だいじなことなので、くり返さざるを得ない)を引っ掛けて外に出た。

 シスコは過たず、ファビウス先輩が書斎に使っている部屋のドアを叩いており、ちょうど先輩が顔を覗かせたところだった。

 そして、わたしはリートに遮られた。


「なにごとだ」

「シスコが、舞踏会の準備が必要だっていいだして」

「舞踏会の準備?」

「ドレスとか、礼儀作法とか、ダンスとか! そんなことやってる場合じゃないでしょ、っていったんだけど」

「だが舞踏会はあるぞ?」


 あるのかーっ! しかもリートは知ってるのかーっ!

 まぁリートは知ってるよな、うんそう、こいつはだいたい知ってる。物騒な話以外、教えてくれないだけだ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] リートの朴念仁ぐあいが良くわかった。朴念仁ってこーゆー人なんだね。 [一言] シスコ様は天使様ですね。うん。
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