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120 魔力は持ち主の考えに従う

「ルルベル……!」

「シスコ……!」


 ガシッ!

 あ〜、女の子ぉぉ! 女の子、いいぃぃぃ!

 って感じで知能が退化したわたしの頭を、シスコが撫でてくれた。

 ファビウス先輩がシスコを連れて来てくれたのは、翌日の夕刻である。へろへろだったけど、シスコの顔を見れば元気百倍だ。だってシスコはわたしの天使だもん。


「寂しかったよぉ」

「わたしも。ルルベル元気かなって、ずっと心配だった」

「心配かけて、ごめんね! まぁ……元気は元気かな……?」


 ちょっと体重が増えた可能性まである……ごはんが……ごはんが美味しくて!

 疲れ果てるのには、一日で慣れた。慣れたということは、疲れ過ぎて食欲がなかったのは一日だけで、あとはもう……食欲すごかったよね! 横でリートが飲むように食べるから目立たないだけで、わたしもこう……食べたよ。うん。

 ちゃんと上品に食べたつもりだけど、上品といっても、下層の平民基準ではある。


「課題はできた?」

「できる範囲で、できました」


 シスコを連れて来てくれたファビウス先輩は、やさしいが……やさしいが、課題は鬼である。

 今日は、魔力だけで光の呪符を描くという課題だった。中空にした魔力玉を使い、その形に並べるように、とのお達しである。

 ……なんだその繊細な操作の集大成みたいな課題!


「そう。じゃあ、さっそく拝見しようかな。シスコ嬢も、ご一緒に」


 ファビウス先輩が、流れるようにシスコをエスコートした。なかなか絵になるなぁと思いながら、わたしはふたりの後ろ姿を鑑賞する。いや正直にいうと、おもにシスコの後ろ姿を鑑賞する……。あ〜女の子だ〜、女の子がいる〜、って気分で。

 現実逃避は、部屋に着いたら終わりである。ファビウス先輩のチェックは厳しく、逃避していては答えられない。


「大きさが不揃いだね。厚みも違う。徐々に手を抜いたね?」

「いえ、その……手を抜いてはいません」

「じゃあ、無意識にそうなったんだな。それはよくないね、ルルベル。魔法は、常時制御下に置かないと。無意識、無自覚、無頓着――すべて魔法使いが選んではならない態度だ」

「はい」

「スタダンスの弱点がそれだよ。そのために、彼がどんなに苦労していることか」


 ……説得力があり過ぎる! 骨折の治療痕で個人特定されるタイプの苦労ですね! したくない!


「心がけます」

「でも、光は出てるね」


 そうなのだ。魔力で作った呪符、ちゃんと発動したのである。魔力だけで!


「ルルベル、すごいね……呪符魔法も使えるんだ」


 シスコに尊敬の眼差しを向けられ、得意げな顔になるのが抑えられない。わたし今、すっごいだらしない顔してると思う! 自覚はあるが、あらためられない!

 そんなわたしに、ファビウス先輩はきびきびと質問を投げてくる。


「完成したのは、いつ?」

「え、ついさっきです」

「……記録を見ればわかるか。どれくらい保つか、きちんと記録しよう」


 なんでもかんでも記録しているらしいこの部屋に、いったいどんな呪符がどれだけセットされていることか……。想像もつかないし、心から思う。天才マジ天才。


「ルルベル、すごいなぁ……」

「シスコ嬢も、魔力玉を出してみない?」


 さりげなく天才ファビウス先輩が話を向けると、シスコは首を左右にふった。


「いえ、わたしはこんな制御、できなくて……」

「そうなの? ちょっとやってみようか。手を握ってもいい?」


 シスコ真っ赤〜! 魔性にやられてるけど、それ魔性モードっていうより研究員モードだし、放っておくと早口で喋りはじめるタイプのファビウス先輩だぞ〜!

 なんてニヤニヤしているあいだに、ファビウス先輩はシスコの魔力を染色した。少し紫がかった青。あ〜、なんかもうシスコにぴったり! 透明感があって、やわらかいのに凛としてて。


「属性のことは意識しないで、ただ魔力を出してごらん」

「ただ……魔力を」

「そう。そして、球体をイメージするんだ」

「難しいです……すみません」


 シスコは眉根を寄せ、必死だ。手の上に魔力はじわっと滲むけど、すぐにこぼれていってしまう。挙動としては、水みたい。


「じゃあ、僕が覆いをつくるから、内側を満たすようにしてごらん」


 まばたきひとつのあいだに、ファビウス先輩のあの多幸感のある色の球体が、シスコの手の上に浮かび上がった。


「これを……満たす?」

「そうだよ。この中に入れるんだ」

「あの、どこから入れれば?」

「上からかな? そうだな、君の手の上だと入れづらいか。下に作り直すよ」


 球体は見る間に崩れ、今度はシスコの手の下に出現した。しかも、上部が開いている。ボウルみたいな形。

 ……速い。正確。器用!

 シスコが手をかたむけると、そこからシスコの魔力が流れ落ちていく……なんか不思議だなぁ。わたしの魔力って、ここまで重力の影響受ける感じないけど。シスコの魔力は挙動が違う。


「できたね。これで、君の魔力は球体という形を覚えた。容れ物の、内側の形をしっかり確認して? 球を満たすんだ」

「球を……」

「大丈夫、固まったよ。僕の覆いをはずしても平気だけど、はじめは、手で支えた方が安心するよね? うん、そう。下から手で支えるようにして。もうすっかり安定したね」

「安定してますか?」

「うん。大丈夫。球体をよく覚えて。覚えて、自分のものにするんだ。覆いをはずすよ」

「……はい」


 という流れで、シスコの魔力玉もめでたく完成した。

 輪郭はぶれていて、それは魔力が拡散しようとしていることを示している……ってのは、ここ数日リートの魔力玉を観察していて得た知識だけど、比べると、シスコの魔力の方がずっとしっかりしてる。ぶれが少ない。


「よく練り上げられた魔力だね。濃度が高い」

「そうなんですか?」

「こんなことで、嘘はつかないよ。魔力のことは正確に把握しておかないと、どんな事故につながるか、わからないからね。君の魔力はとても質がいい。基礎訓練をしっかりしてることが、よくわかる」


 それって、リートは基礎訓練をしっかりやってないって意味か。……リートだもんなぁ。使えればそれでいいとか、今すぐできなければ意味がないとか、いいそう。まぁ、あまり深くは考えるまい……。

 ちらっと様子を窺ってみると、リートは真面目な顔でシスコの魔力玉を見ていた。なにを考えているかは、さっぱりわからない。


「もう一回、僕が覆いを作るから、中に魔力を入れてみよう。今度は下側から、噴水みたいに入れてみるのはどうかな? はじめから、手の上で」


 あっさり成功。そしてその次には、もう魔力覆いなしで、独力で魔力玉の作成に成功。


「……できた!」

「できたねー! わたしはもっと時間かかったよ、シスコすごい!」


 わたしが褒め称えると、シスコはきらきらした笑顔をこちらに向けた。……ぐぅっ、胸に来るぜ! 可愛い! マジ天使!

 そんなことをしてるあいだに夕食が配達され、我々は食堂に移動した。もともと食堂ってわけじゃなかったんだろうけど……なし崩しに食堂として使われている。


「シスコ嬢は、想像力がとても現実に即していて、しかも強い……と思う」

「想像力が強い……ですか? はじめて、いわれました」

「うん。魔力の挙動が水みたいだっただろう? 想像力が強いからだよ」


 わたしもそう思ったので、深くうなずいてしまった。

 でも、シスコは不思議そうだ。


「それが、ふつうじゃないんですか?」

「魔力は持ち主の考えに従うからね。水みたいだと思えば水のようにふるまう。ルルベルなんかは、たぶん浮かせる方が得意だね。きっと、魔力を現実離れしたものだと考えてるんだろうなって推測してる」


 シスコに見られて、わたしは半笑いで肯定するしかなかった。


「うん……だってほら、わたし、つい最近まで自分に魔力があることさえ知らなかったわけで……」

「みんなこうなんだと思ってました……」


 シスコは、思わぬ事実にびっくりしたようだ。


「染色しない限り、素の魔力なんて観察しようがないからね。シスコ嬢の魔力が液体に近い挙動を示すのは、渦属性のイメージに引っ張られてるんじゃないかな。もっともよく可視化される渦って、液体をかき回した結果だからね。それで、魔力も液体みたいにふるまうんだと思うよ」

「そうなんですね……はじめて知りました。自分のことなのに」


 シスコも感慨深げだが、わたしも納得しかない!

 魔法は想像力、イメージする力だってさんざん教わってるけど、こんなところもそうなのか!


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