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12 寮の部屋は最高で布団は至福

 王立魔法学園、家から通うことも許可されているけど――ほら、王女殿下が馬車でお通りになったのは、そういうことでしょ! まぁ……宮殿を「家」と呼んでいいかは不問に処していただきたい――寮を選ぶ生徒の方が多いんだそうだ。

 わたしは粘着質な客から逃れられると思って寮を選んだけど、まぁ正解だよね。部屋が豪華だからというよりは、門から本館までの距離がな……。あんなん、親切な王侯貴族のお通りを待って馬車に便乗するしかないでしょ! いや走れといわれたら走るけどもさ……。

 当然のことながら、寮は性別で分かれている。だけど制服同様、身分や財産による差別を排し、才能ある生徒がその素質を開花させるためにベストな環境を! という理想のもと、すべての居室は同じしつらえだそうだ。

 ていうことは、王侯貴族の皆さんも我慢して暮らせるレベルにととのえられているというわけで、つまり!


「なにこれ豪華〜!」


 乙女のあこがれ天蓋付き寝台! 大きな出窓には、ゆたかなドレープのカーテン! 壁一面の書架! なんかドアがあると思ったらクローゼットだ……えっ、こんなの家にある服をぜんぶ持って来てもスペース余って、ダンスの動画撮影も余裕でしょ。スマホないけど。なお、トイレとシャワーも完備。寮母さんがいうには、卒業間近になると食事も部屋に運ばせる学生がどんどん増える……らしい。

 ……なるほど?

 つまり、部屋から出る時間も惜しいくらいの状況になりがちってことだね、なんとなく把握! 王立魔法学園って思ってたほど優雅じゃないな? たぶん厳しい。

 でも、施設が一級品なのは間違いない!

 家具は作り付けで、ファブリックも基本的には寮で管理しているので、勝手に私物に置き換えるのは非推奨らしい。シーツの交換や洗濯も、寮の使用人がやるそうだ。もちろん掃除も。

 寮母さんの話に使用人という言葉が登場したとき、ちょっと顔が引きつったかもしれない。わたし、使用される側の階級の人間でございますし。ええー、シーツ交換に来る人とどんな顔して会えばいいの。

 ……それは、わからないけど。


「ベッドふっかふか〜!」


 背中から倒れ込んでみると、ふわふわと埋まっていく……ああ、この布団なんなの、すごい。好き。一生を共にしたい。愛してる。


「……もうずっとこの部屋に引きこもっていたい」


 あれっ。部屋から出なくなるって、勉強が忙しいからじゃなくて布団が最高過ぎる可能性もあるんじゃない?

 ……でも。机の上には、分厚い本が三冊置かれている。……ハイ、正体はもうわかりますね! 例の、激やば教師に課されたレポート用の参考書に違いないですよ。

 あああああ。おまえ来るのが早過ぎだろ、なんで部屋の主人たるこのわたくし! より先に届いちゃってんの……。

 しかたなく起き上がると、わたしは机に近寄った。こんな立派な机を自分のものとして使えるのだって、人生初の経験だ。前世のわたしは勉強机なるものを使っていたけど、格が違い過ぎる。

 椅子だけは、人間工学にもとづいて設計されたゲーミング・チェアの方が上を行くかもしれないと思う。あと歯医者。前世の歯医者の椅子は強かった。おじいちゃんの家にあったマッサージ・チェアもけっこうよかったな……。

 前世の椅子はともかく、そして机が豪華なのもともかく。

 机の前に立つと、本の横にメッセージ・カードが置かれているのが目にとまった。蔦の葉のような形をした、品の良いベージュ色の紙だ。持ち上げると、透かしが入っているのがわかった――あっ、これ王立魔法学園の紋章だ。制服にも入ってるから、わかる。


 『この紙を折ってください。どこからでも連絡できます。 ― エルトゥルーデス・ダレンシア ―』


 ダレンシア……校長先生か! 文字うまっ!

 えっと……この紙は、迂闊に折れないように、どこかにだいじにしまっておかないと……ひきだし? むしろ額装して飾りたい勢いだけど、誰かに見られても困るだろうし。

 ひきだしも今はガラガラだから間違って折れる心配はないが、ものが増えたら考える必要があるな……ああ、ノートに挟むか! 押し葉みたいな感じで!

 エルフ公爵校長のメッセージ・カードを挟むために、これだけはずっと抱えていたノートを開く。

 忘れないうちに、転生コーディネイターから聞き出した話をメモしておこう。攻略対象も、整理し直しだ……。


 ……あれこれの設定や攻略対象者、隠し攻略対象者などを書き出して、ふぅ、とわたしは息を吐いた。

 ついでに、弟ではない方のリートに聞いた話も書いておこう……あまり考えたくないけど、わたしは対魔王最終兵器として有効過ぎる(そして、自分自身の防御力は校長先生のメッセージ・カードにも劣ると思われる)ので、各方面から狙われている……と、いうことだ。


「あいつは、どの陣営なのかなぁ」


 教えてもらえなかったが、少なくとも学園とは協力関係にあるのだし、エルフ校長は王家とつながりがあるから……国家? 国家に身を守られるパン屋の娘か……やばやばだな!

 あるいは学究機関とか……?

 王立魔法学園にあるのは、学校だけではない。魔法研究所もあるのだ。つまり、魔法学園で優秀な成績をおさめた場合、希望者は魔法研究所に在籍することも可能なのである。

 正直、ルルベルの狙いはこの研究所だった。

 どういうことかっていうとね? パン屋の娘が高等な教育を受けても、パン屋に戻ってたら意味がない! ってこと。

 この入学は、平民に降って湧いた「人生のルートを変更する大チャンス」なのである!

 ……いやまぁそれ以前に、頑張って魔王をなんとかしないといけないと、金も身分も意味なくなるらしいけどね。


「今後、学園内で検証がどうこういってたよなぁ」


 聖属性の魔法は、魔王とその眷属以外になんの効果もない。それを検証していく……みたいなこと、話してたはずだ。うん、いってた。間違いない。

 すると、研究対象を無傷でキープするのが護衛の目的?

 わたしとしては、どの派閥にも取り込まれたくない。せめて身柄を攫って脅迫のタネにされる路線は避けたい……当面、あの護衛は敵ではないということにしよう。

 だって忙しいんだよね、魔王をうまく倒すには、対魔王戦で力になってくれそうな攻略対象の好感度を適度に上げつつ、修羅場が発生しないように調整しないといけないみたいだし。それぞれが持っているチート級のアイテムだの支援だの技能だの本人乙だのを手に入れねば、わたしの命と世界の命運があやうい。


「あ〜……」


 積み上げたままの本を、一冊ずつ置き直して、わたしは元気のない声をあげた。

 あの性格に問題はあるが優秀らしい教師が、これを読めと指定したのだ。なんだっけ……属性魔法の基礎を学ぶ必要があるのだ。時間が許す限り、読むしかない。

 しかし、食事は死守したい。よし、アラームをセットだ! さっき寮母さんに教えてもらった使用法を守って、針を回して……うん、これでよし!

 この世界の時計はもちろん魔法式。前世でいう電波式時計みたいなもので、魔法の波動で正確に動く。ただ、ムーヴメントなどの機械的な部分は、前世のように職人の細工によるものだ。つまり……わかるな? 一般庶民には手が出ない、高価なものなのだ!

 粗悪品なら買えるけど、庶民は神殿の鐘の音で「朝だ」「昼だ」「夜だ」と判断する。なお、パン屋の早起きは意志の力で実現されている。

 わたしは部屋に備え付けの魔法式時計を鑑賞し、感慨にふけった。

 もちろん、前世には日常的に時計があった。だけど、ルルベルとして生まれて育ってすでに十六年。前世の記憶なんてぼろぼろだし、だいたいは他人事としか思えない。あまりにもアレなせいか、転生コーディネイターとの記憶だけはバッチリだけど……。


「わたし、ルルベルだよなぁ」


 オープンβまでバージョン上がってるし、他人には到底話せない、いや肉親にだって話せない謎な知識もいろいろあるけど、結局は、ルルベルなのだ。

 だから、ルルベルとして。幸せな人生をまっとうしたい。


「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、弟の方のリート……わたし、頑張るからね!」


 そうやって自分で自分に気合を入れないと、とても激やば教師の課題をこなせそうになかった……いやこの本! 分厚いでしょ! どこまで読めるかなぁ……。


本日は二回更新します。

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