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107 守秘義務は破られた?

 安眠ホット・ワインのご利益でぐっすり眠れたわたしは、翌朝、爽やかに目を覚ました。


 魔法学園の朝食は、食堂で食べるか寮の部屋で食べるかの二択。

 はじめは食堂に行ってみたんだけど――だってほら、使用人がいる環境とか慣れてないから、持って来てもらうのがもう落ち着かないわけよ! ほしいものを自分で取る食堂の方が、気が楽かなと思ったんだよね。

 でも、部屋で食べるとゆっくりできるし、人目を気にしなくて済むし……持って来てもらったものをドアのところで受け取ったら、あとはひとりで食べるだけだから、楽なんだよね〜! って気がついてからは、ずっと部屋食。一回シスコと一緒に食べようって話してるんだけど、まだ実現してない。

 今朝のメニューはパンとソーセージ、温野菜の盛り合わせ。家の朝ごはんより豪華であるが、食費は安い……そう、食堂で食べるより安いのだ! お金使いたくないから部屋で食べる、とは……いいづらいよね。


「俺としては、部屋食の方が護衛が楽で助かる」


 図書館への途上、リートの感想は相変わらず自分の都合全開である。


「でもさ、部屋まで食事を届けてもらうの、なんていうかこう……人手の無駄遣いっていうか」

「無駄遣いじゃないだろう。俺たちはともかく、ほかの寮生はほとんどが貴族だ。自分でなんとかしろという方がおかしい。食堂で好きなものを選んで食べるのだって、貴族には難しいんだ。やつらは、目の前に置かれたものを順番に食べるだけの暮らしをしてるからな」

「なるほど……」


 いわれてみれば、そうかもしれない。


「ま、護衛任務は最近、非常に楽だがな」

「一緒にいないもんなぁ」

「ずっとこのまま、楽ができることを願っている」

「わたしも願ってるよ……リートが楽できるってことは、わたしに危険が迫らないってことでもあるからね」

「わかってきたじゃないか」


 笑顔も見せずにそういって、リートはわずかに顔をしかめた。


「どうかした?」

「いや、あまりにも需要がないと、護衛の任をとかれる可能性もある。今の仕事は楽だから、このままがいい」

「それは、わたしにはどうしようもないね……あっ」

「あっ?」

「いや……えっと、リートが王家に雇われているとしたら、雇い主のご意向で護衛終了になるとか、あるいは拉致するとか、あるのかなって思って」


 リートは足を止め、しげしげとわたしを見た。


「危機意識が出てきたのは結構なことだが、それを俺にいってどうする」

「……わたしらしいじゃん?」

「そうだな」

「で、雇い主については――」

「明かすことはできないな」

「――ま、そうだよね。でもわたし、聞いちゃったんだ」

「なにを」

「リートの雇い主は王家だって」


 それこそ黙っておけという話だ。しかし、口が勝手に動いていた。こういうとこだぞ! おまえが駄目なのは、こういうとこだぞ、ルルベル!

 リートは眉を上げ、ふうん、といった。


「聞いたということは、君が勝手に考えたのではなく、誰かがいったんだな」

「うん」

「信じたのか」

「えっ」

「信じたのか、と訊いたんだ。訊き返すほど難しい質問ではないと思うが?」


 いやまぁ、そうだけど……そうだけど、そこは疑ったことがなかったのだ。だって。


「ファビウス様が、いったんだもん」

「は? ファビウスが、君に、俺を雇っているのは王家だといったのか。それで信じたのか?」

「うん、まぁ……そうかもしれないけど忘れて! わたし、喋るつもりじゃなかったの!」

「君は間抜けだな」


 低評価、いただきました! くぅ〜、反論……反論をもてい! やり返したい!


「だって、最初に校長先生が」

「校長が?」

「つまりその……ファビウス様は東国の王子だって教えられて……国のために、わたしを取り込もうとしてる、とか」

「疑うように仕向けられたのか」


 ……そういうことだね! まさに!


「それで、気になって。ファビウス様に確認したら――」

「本人に確認したのか?」


 うっ。そこツッコまれると、胸が痛い。


「――したんだよ。そしたら逆に、疑うなら自分以外にも、って……その中に、リートも含まれてて」

「王家の護衛だ、といわれたのか」

「うん……」

「なるほど、そういうことか」

「わたしの話、信じたの?」

「信じる。君はあまり嘘が得意ではないし、こんな嘘をつく理由がない」


 リートは大きく息を吐いた。呆れたんだろうなぁ……。


「あの……是非、忘れてくださると嬉しいかと」

「元凶は校長だな。守秘義務は破られたと解釈してもいいだろう」

「……いや、ごめん、昨日のことでわたしも混乱していて、王家のことが気になってしかたなくて、だから――」

「なにをいっているんだ。君には守秘義務はない。だから破ることもできない」


 ……ん? わたしは眼をしばたたいた。


「どういうこと?」

「守秘義務を破ったのは、依頼人だ」

「……あの、つまり?」

「察しが悪いにもほどがあるな。はっきり教えてやろう。君を護衛するよう俺に依頼したのは、校長だ」


 ……。


「えーっ!」

「ほかにどんな解釈ができるのか、理解に苦しむ」

「いやいやいや、待って待って。だって、なんで?」

「依頼の理由までは知らん」


 わたしはわかる気がするけど! エルフ校長、聖属性魔法使いに関しては過保護の極みだから! 自分の目が届かないところもフォローしたくて護衛を依頼したんだろ、わかる……わかっちゃう気はするけど、待って!

 ファビウス様に話を聞いてから、リートは王家に依頼を受けてるって思い込んでたから……認識をあらためるのが難しい。混乱する!


「じゃあ、なんで……ファビウス様は、リートは王家の護衛だなんて嘘を」

「俺が知るわけないだろう。はっきりしているのは、俺が事実を教えておかないと、君は今後もそういう嘘で騙される恐れがあるということだ」

「……」


 反論できない!


「校長の守秘義務違反というのは、拡大解釈だ。しかし、校長が余分なことをしなければ済んだ話だし、君の誤解をただし、今後にそなえる必要があると判断した。あとで校長に報告するが、依頼人を明かしたことで揉めた場合は、君にも口添えをたのむ」

「そっか……わかった」

「君は、俺を信じるのか?」

「あ、うん。だって、えっと……嘘つく理由、なくない?」

「捻り出したな、信じていい理由を」


 うっ。


「それにほら、校長先生、わたしには過保護だから。びっくりはしたけど、まぁ納得はできるかな〜、って!」

「エルフのやることはわからん。ファビウスの考えの方が、まだわかる」

「嘘をついた理由ってこと?」

「そうだ。自分への疑いを逸らすため、その場で思いついたことを口にしたのだろう。うまくやったものだ」

「うまいの?」

「信じてたじゃないか」


 ……反論できない!

 急募:リートを黙らせる方法!


「だってリートも、前にほら、依頼人を教えてくれたら感謝して親しくするかもって話したとき、そうとも限らない、っていってたから……わたし、王家とは近寄りたくない雰囲気醸し出してたから、そのせいかなって納得してたのに」

「相手はエルフだぞ? 俺だったら、エルフは信じない」

「えっ、なんで」

「エルフは人間とは価値観も論理も違う。つまり、友好的にやってるつもりが、いつのまにか激怒させてた……みたいなことに、なりかねない相手だ」

「そのエルフと雇用契約を結んでるの、誰でしょうね。矛盾してない?」


 やっと一矢報いることができたところで、図書館に着いてしまった。

 大きな扉を開いてくれながら、リートはわたしに説教をかました。


「契約があれば、はっきりするからいいんだ。君は相手の好意を信じやす過ぎるし、善意に解釈する傾向が強い。それに口が軽い。気をつけたまえ」

「……気をつけてるつもりなんだよ、これでも」

「つもりでは意味がない。結果をともなわない努力は、単なる自己満足に過ぎない」


 厳しい。


「でも、口をすべらせたせいで情報のすり合わせができたんだから、よかったじゃない」

「情報のすり合わせは結構だが、意図せず実行したのは誇ることではないだろう」


 どんどん殴ってくるじゃん、正論で! もう勘弁してほしい。


「……わかったわかった、わたしが迂闊だった、間抜けだった!」

「今日はファビウスはいないようだな」


 いわれて気がついた。たしかに、書類を揃えてにっこりする魔性の美形の姿が見えない。


「ファビウス様に会ったら、どうするのがいいんだろう」

「どう、とは?」

「なんで嘘をついたのか訊いても大丈夫だと思う?」


 正気か、という顔をされた。うん、まぁ……うん。


「君の行動には、君が責任をもて。昼は、誰かが迎えに来るまで勝手に図書館を出るんじゃないぞ」


 そう念を押したリートの声のするどさに、わたしは無言でこくこくとうなずいた。

 昨日の今日なので、わたしの危機意識もそれなりに仕事してるわけよ……ジェレンス先生にも、気をつけろっていわれたしな。

 でもなぁ、気をつけろ気をつけろと皆にいわれる人生、そろそろ疲れてきたよ。もっと気をつけなくてもいい人生がいい。ああ、転生するときのオーダー、それにすればよかったんだ! はたらかずに、のんびり、ゆったり、だらだらできますように! って。

 失敗したなぁ……。

 ほんと、乙女ゲームっぽい世界で生きるのが、こんなにめんどくさいなんて。想像もしてなかったよ。計算外だし想定外だよ!


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[良い点] 主人公の設定と周りの顔面偏差値以外に乙女ゲームらしさがどこにもない件
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