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100 お招きを絶対断れない選手権の本命は

こちらの移植も、ついに100話に到達しました!

いつもお読みくださり、ありがとうございます。

 下町で乙女を量産したのち、我々は王立魔法学園に戻った。いやぁ……近所のおばちゃんたちの顔が、すっかり変わっちゃってもう。別人か! って感じ。

 食堂の前で、ファビウス先輩とはお別れである。今日は中まで入らないようだ。

 だいたいの生徒は校舎内を移動して食堂に来るから、夕食がはじまる時間帯、外との出入口には人がいない。食堂内で注目を浴びた昨日と比べれば、かなり気が楽である。

 お土産のパンは、一個を除いてすべてファビウス先輩に差し上げた。一個はほら……わたしの夜食用だ。実家の味だからな! 一個は許してほしい。


「助かるよ。今夜はちょっと忙しくなるからね」

「またですか。毎晩、大変ですね……」


 そのときだ。思いついてしまったのは。


 もしかして:原因は、わたしでは?


 ……あり得る! だって、研究所の仕事もそれなりにあるだろうし、ご身分的に社交も仕事の内に違いない。そんなひとが、朝から夕方までわたしの指導だけに時間を使ってたら、そりゃ……。

 えっ、大丈夫なの?


「ファビウス様、あの……」


 問いただそうと口をひらいたところで、わたしは踏みとどまった。気をつけろ、ルルベル。こういうの、アレだぞ。そういうとこが駄目なんだって展開になりやすい話題だぞ。よく考えてから喋れよ!


「どうかした?」

「いえ、お食事、ちゃんととってくださいね」

「そこは安心して。こう見えて、食い意地は張ってるから」

「パンは焼き立てが最高なので……これ、一口だけでも」


 自分のぶんにとっておいた一個から、少しだけちぎりながら、絶対お行儀悪いやつだよなー……とは、思った。お貴族様なら、やらない感じだ! 確信がある!

 ファビウス先輩の顔を見ると、そら思った通りだ、常識にないことされて驚愕って顔だ!

 でも、そこはファビウス先輩である。笑顔で受け取ってくださった。


「今、バリッ、ってすごい音したね。皮が硬いんだ?」

「焼き立ては皮がバリッで、中がふわっふわなんですよ」


 ああ、流れるようにパン屋トークをしてしまう……お客さんを相手にしてるわけでもないのになぁ、と思いつつ、それでもすぐに食べてくれたファビウス先輩の反応が気になる。

 ……どうかな。


「美味しいね。まだ、ほんのりあたたかい」

「はい」

「ルルベル、ありがとう。残りのも食べるのが楽しみだよ」


 そういって、ファビウス先輩はわたしの背後を見た。誰かいるんだなと思ってふり返ると……。

 えっ。

 二度見しちゃったよ。だって、この赤毛はたしか、イケボ忍者である。だよな?

 ってことは、近くに王子もいるのかと視線をはしらせたが、誰もいない。王子は姿を隠したりはできないだろうから、イケボ忍者単品での出現ということか? えっ、なんで?


「ルルベル嬢、殿下がお呼びだ」


 うおお、今日も無駄にイケボー! 顔もいいけど、声がすごい、マジで!


「ローデンスに、彼女と会って話をするような元気があるの?」


 即座に応じたのは、もちろんファビウス先輩である。……たしかに、そこは疑問だ。

 しかし、イケボ忍者の返答は、わたしの想像の斜め上だった。


「そちらの殿下ではない」


 そんなにたくさんいるのか、殿下。いや待てよ、ファビウス先輩だって殿下の一種だよな……。ほかに誰が?


「あの、では……どちらの殿下です?」

「ウフィネージュ王太女殿下だ」


 お招きを絶対断れない選手権が開催されたら間違いなく本命で、賭けるんなら倍率一.二倍くらいになりそうな殿下だったー!


「……なにかのお間違いでは?」

「ルルベル」


 ファビウス先輩が、たしなめるようにわたしの名を呼んだ。

 よくわからんが、なんらかのマナー違反をおかした……ってところかな。対王室に関しては、ファビウス先輩はわたしの味方なんだし……おそらく。

 おとなしく口をつぐむと、ファビウス先輩が一歩、前に出た。


「ルルベルには、まだ用があるんだ」

「いましがた、別れの挨拶をなさっていたようですが?」


 あー、透明になって観察してたってやつねー、ここ誰もいないかのように見せかけてそうでもなかったわけねー! むっちゃ悔しいな、光学迷彩め!


「今、予定が変わったんだ」

「王太女殿下のお招きを無視するおつもりか」


 お招きを断れない選手権、わたしと無関係なところで開催してくれないかな……。だが、どうしようもない。招かれる側は、選ぶことができないのだ。

 意を決し、わたしはファビウス先輩の袖を引いた。


「ファビウス様、わたし、殿下にお会いして参ります」

「……うん。わかった」


 決断すると、ファビウス先輩の動きは早かった。

 迷いなく、わたしを引き寄せて。頬にキスを落としそうな距離でくちびるを近づけて、ささやく。


「僕が必要なら、これに魔力を通して。できるね?」


 そういいながら、イケボ忍者からは見えない側の手に、紙片を押し付けられた――これはアレだな。たぶん呪符魔法だ。内容はわからんが、もらえるものはもらっておくタイプなので、わたしはそれを制服のポケットに移動させた。

 あとで見るの楽しみー! と、ファビウス先輩が想定してなさそうなことを考えつつ、真面目な顔で伝える。


「お食事、ちゃんとなさってくださいね。約束ですよ」

「信用ないな。大丈夫だよ。じゃあね、ルルベル」

「本日も、ご教授ありがとうございました」

「気にしないで。君に教えるの、すごく楽しいから」


 ファビウス先輩は、ひらりと手をふって。特にこちらをふり返ることもなく、歩み去った。

 そういえば、さっき粘着質な客を投げ飛ばしてたのも、なんらかの魔法だったんだろうか……色属性のはずないから、呪符魔法だよなぁ。魔力を通せばすぐ発動するものを、いろいろ持ち歩いてるってことか。うわぁ、気になる! そして絶対、参考になる!


「ルルベル嬢、こちらだ」


 ……呪符魔法でウキウキしている場合ではなかった。わたしは断れないご招待に応じてしまったのである……ファビウス先輩に押し切ってもらえた気もしないでもないところを、大丈夫です、とやってしまったのだ。

 大丈夫っつったんだから、大丈夫にするしかないね!

 わたしは気合を入れ、イケボ忍者に案内されるまま、食堂に入った……って、行き先は食堂なんかーい!

 どうやら、以前ファビウス先輩が王子とエーディリア様を拉致した個室に案内されるようだ。個室、何部屋かあるっぽいなぁ。ここ、平民でも使えるのかな? 予約制とかになってるのかな。

 いらんことばっかり考えてるな!


「殿下、連れて参りました」

「ナヴァト、言葉遣いがなってないわ。お連れしました、でしょう?」

「失礼いたしました。……ルルベル嬢を、お連れしました」


 ここでイケボ忍者が脇へ避け、わたしも個室に入ることになった。

 礼儀作法とかさっぱりわからんけど、アレだ……いつかのリートを見習おう! 鼓動せよ、鉄の心臓! ……なんか厨二っぽいな。


「こんばんは、ルルベル。久しぶりに会えて嬉しいわ。元気だった?」


 ウフィネージュ様は、たいへんお美しかった。初対面のときも、イッケイケにイケてる顔面だなと思ったものだが、イケメンを見慣れた上に、天使のように可愛いシスコを毎日見ていても! 綺麗系の上級生は、よいものだ……。


「はい。殿下もご機嫌うるわしゅう」


 上流のひとたちって、こんな感じなんじゃない? とイメージした台詞をいってみたが、正直、慣れない。不安。間違ってる気がする。大丈夫なのか、これ。


「ありがとう。お互い、健康でなによりね」


 ふんわり微笑むウフィネージュ様、マジで眼福。


「はい、殿下」

「まずは食事をしましょう? あなたのぶんも、運ばせてあるわ」


 うん、料理がむっちゃ並んでるから、そうかなぁとは思ってたが……こんなに食べるの? ウフィネージュ様、このお顔で実は飲むように肉を食べる派なの? まさか!


「ナヴァト、扉を閉めて」


 イケボ忍者は無言で扉を閉めた。というか、すでに姿が見えない。やつが扉の内側にいるのか、外側にいるのかさえわからない!

 密室に王太女殿下と平民の小娘をふたりきりにする……わけはないから、きっと部屋の中にいるんだろうけど。


「座って、ルルベル」

「はい、殿下」

「緊張しなくていいわ。それと、わたしのことはフィーネと呼んで?」


 ……要求のハードルたっけぇよ!

 ハルちゃん様といい、我が国の王族は距離ナシって決まりでもあるの?


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[良い点] 祝100話!おめでとう御座います*\0/*
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