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1 十六歳の誕生日にわたしは自分が転生者であると知った

twitterに掲載したものを、多少改稿しています。

 その日、わたしは前世を思いだした。

 それは十六歳の誕生日であり、なぜそんなキリの良い日に思いだしたかといえば、自分がリクエストしたからだった。

 では、そんなリクエストをした理由は? 転生の担当者にサジェストされたからだ――前世の記憶の有無はどうなさいますか? あった方がいい? では、思いだすのはどの時点にしますか? これは重要なことですよ。赤ちゃんバブバブ時代からやり直すのキツイですよ、前世を思いだすのは十六歳ぐらいをお勧めします――と。


 そういうわけで、わたしは思いだしたのである――前世、我が身は二十〜二十一世紀を生きた日本人であった、と。


 ……とはいえ、前世の記憶は十六年も埋もれていた計算になる。当然、断片的なことしか思いだせない。

 今ありありと思いだせるのは、転生担当者と転生の条件について話し合った場面だけれど、これなど、厳密には前世の記憶とはいえないだろう。この転生時の記憶が強烈過ぎて、前世の記憶はかなりどうでもよくなってしまっている……。


 転生したときの状況は、こうだった。

 まず、気がつくと白と灰色しかない空間にいた。雲みたいというか……全体にスモークが流れてるみたいな? なぜだかはわからないけど、自分は死んだのだということは理解していた。死の直接的な原因や状況は、一切わからなかったが。


「ここに来る条件が、死の受容ですから」


 急に声をかけられて、びっくりしたのを覚えている。それは中性的な美声で、なんかこう……すごかった。

 究極的美声は、こうつづけた。


「これから、あなたの転生についてご相談します」

「転生……」


 思わずくり返してから、自分も喋れることに気がついて、なんとなくおどろいた。だって、死んでるのに喋ったら幽霊だろう。ゾンビは言語らしいものを喋らない。と思う。少なくともフィクションではそれが常識だ。


「はい、転生です」

「あなたは?」


 この頃には、担当者も姿をあらわしていた。白くて長くてだぼだぼの――つまり、身体のかたちがわからない服を着ていた。顔の上半分は仮面で覆われていて、くちもとしか見えない。その口がうっすらと開いて、例の美声が流れ出た。


「あなたの転生サポートを担当します」

「……はい?」

「転生サポートを担当します、転生コーディネイターです」

「あの……わたし、なにか特別なことをしたとか、そういう……ご褒美的な?」

「転生は、すべての生命の基本的な権利です。転生者様がどういった世界に転生なさりたいかを伺い、ご希望に合致する転生をコーディネイトするのが、わたしの使命です。この声や姿は、あなたと意思疎通をはかるための便宜的なもので、本来は宇宙意志の一部とお考えください」


 よくわからないので、わたしは理解を諦めた。


「転生って、地球以外にするんですか?」

「地球、すなわち前世と同じ世界をお望みなのでしょうか? でしたら、そのように手配します。ですが、あまりお勧めはしません。同一世界に転生する場合、同一種への転生は推奨されませんので、人間以外をコーディネイトすることになります」

「人間以外……」

「虫とか」

「虫」

「虫がお嫌いでしたら、虫を捕食する種もいいかもしれません。アシダカグモになって軍曹と呼ばれるとか。小鳥もいいでしょう。ツバメなどは、巣を作ると吉兆だと人間に喜ばれることもあります。コウモリという選択肢もございます」


 わたしが地球を諦めた瞬間であった。地球への愛を、虫への忌避感が上回ったのである。

 もちろん、虫が好きで虫に生まれ変わりたい人もいるだろう。でも、わたしはそうじゃないし、主食にしたくもない。


「人間でお願いします。えっと……どこが選べるんですか?」

「ご希望にあわせてお選びします」


 う〜ん、とわたしは考えた。


「できれば、平和なところで」

「世界情勢が落ち着いている時代・地域に転生なさりたい、ということですね」

「そんな感じで」

「承りました。ほかには?」

「ある程度文明が進んでいて、生活に苦労しないところ」

「承りました」

「で、人間」

「はい。あらためてのご確認、ありがとうございます。ほかに条件はございますか?」


 転生……転生といえば乙女ゲーム世界にするものが相場だ、と連想してしまう程度の人間なので、つい、訊いてしまった。


「乙女ゲームっぽい世界とか?」

「具体的には、どのような?」


 プレイしたことがある乙女ゲームがあれば、そのタイトルを挙げればよかったのだろう。ゲーム知識で無双する、なんて楽しみも期待できたかもしれない。

 でも、わたしは乙女ゲームをプレイしたことがなかった。

 乙女ゲーム転生の小説と漫画をたくさん読んだことがあるだけなのだ……だったら、それのどれかを挙げればいいだろうと思われるかもしれないが、たくさん読み過ぎて、どれがどれだかわからなくなっているのである。

 だいたい、どの話も死亡フラグのピンチからの逃走が大前提の設定で、そんな危ない転生は嫌だ。


「イケメン……あ、えっと、顔の良い男性がたくさんいて」

「大丈夫です。イケメンは通じます」

「通じますか……」

「乙女ゲームも通じていますが、いろいろと種類がございますので。お好みがあれば伺います」


 イケメンと一口にいっても、タイプのイケメンとタイプじゃないイケメンがおり、なんなら顔面より内面がイケてるメンズなどという定義もあるのだが、宇宙意志とイケメンについて語り合うのもどうかと思ったので、その話はそこでやめた。

 だいたい、乙女ゲームの男性キャラは顔面がイケているのが最低条件だろう。少なくとも攻略対象は。


「……特に思いつかないです」

「イケメン多めの乙女ゲーム風の平和な世界に、女性として転生したい。これでよろしいでしょうか?」

「ざっくりいうと、そうですけど……そんな都合のいい世界があるんですか?」

「並行世界は無限の可能性に満ちておりますので、いくらでもございます。イケメンの顔面サンプルを抽出し、好みのタイプをお選びいただくことも可能です」


 ここまで来て、わたしは躊躇した。いくらなんでも、転生先を顔で選ぶのはどうかということに気がついたからである。

 人間、顔だけじゃないのである。初対面の印象は顔が九割でも、転生とは暮らしである。生活である。人生である。毎日顔をつきあわせる相手が、顔はキラキラで中身は残念だったら嫌なのである……フィクションとして楽しむならともかく、今後はそれがリアルなのだ。

 まさに死活問題である。


「あの、中身は……つまり、性格の方はどうなりますか?」

「それは、生まれ合わせによりますので」

「生まれ合わせ」


 新語を聞いた。なんだそれ。


「人がどのような性格に育つかは、ある程度は生まれ、すなわち生得的な問題であり、またある程度が環境、つまり後天的な問題とされております。前者と後者の相性を含めた包括的な状況、これを『生まれ合わせ』と称します」

「はぁ……」

「今回は、ご希望に『政情の安定』と、前世と比して『日常生活に支障をきたさないレベルの文明』というご指定がありますので、恵まれた環境にある者が多いとは存じますが、その恵まれた環境でどう生きるかは、やはりその人次第です。それがなければ、そもそも生きる意義もありません。転生もなくなります。わたくしどもがご準備できるのは、どう生まれるか、までです。どう生きるかについては、ご自身の選択次第です。それは、転生者様ご本人のみならず、その世界に生きるすべての生命にとっての問題です」


 難しい話になったので、わたしはまた、理解を諦めた。要は、頑張って生きろということだ。たぶん。

 その後、前世の記憶が戻る時期についての例の会話があって、転生シークエンスは終了となった。

 ……いや、あと少しあった。


「試験的に実装中の機能として、三回まで、担当の転生コーディネイターに直接連絡をとることが可能です」

「担当って、あなたですか?」

「そうなります」

「連絡って……近況報告とかですか?」


 わたしが尋ねると、はじめて、担当者は淡い笑みを浮かべた。


「それも面白そうですね」


 たぶん、そういうことじゃなかったのだ……。



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