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黒棺峠・頂上

 黒棺峠の頂上部分には小さな駐車場があり、周りを散策出来るようになっている。ここまで来る間にも、動画を撮影している人に遭遇した。乗っているのもロードバイクやクロスバイクではなく、シティサイクルだ。サイクリングを楽しむのではなく、心霊スポットの検証に来たユーチューバーだろう。


 ちなみに河野喜彦が現われる条件は『自転車で黒棺峠の坂をスピードを出して下る』だが、正確にはスポーツサイクルでないと現われないらしい。あのユーチューバーがそれを知らないのか、あるいは予算がなくて用意できなかったのか、それとも本当は怖くてわざと条件を満たしていないのかは不明だ。それより永遠は自転車を楽しんでいる人には出会えず、少しガッカリした。


「駐車場はガラガラですね」


 翠の言葉通り、一台しか車が駐まっていない。先程のユーチューバーの物だろうか。


「ここから撮影を開始します」


 一花はそう言うと、自転車をハイエースから下ろし始めた。永遠は刹那と共に翠にメイクをしてもらう。と言っても、今回は野外撮影で少人数のためクルマに乗る前にメイクはほとんど済ませてあった。


 メイクが終わると上衣を脱ぐ、下には刹那と色違いのサイクルジャージを着ている。半袖のジャージとハーフパンツで、永遠のカラーはマゼンダとホワイト、刹那のはスカイブルーとホワイトだ。


 一花が道路にセッティングしたロードバイクやマウンテンバイクにまたがったり、そばに立ったりしてポーズをとる。峠の頂上部分なので見晴らしも良く、周りの山々も背景として抜群だ。メイクの翠は今度はカメラアシスタントとなりレフ板で明るさを調整し、一花がシャッターを切る。少し場所を変えたりに走らせたりしつつ様々な写真を小一時間ほど撮影した。


「ありがとうございます、いい写真が撮れました」


 パソコンで画像チェックを終えた一花が微笑んだ。


「それじゃ、これから……」


「もう一つの仕事をお願いします」


 刹那の言葉を受け、一花が改まり頭を下げた。


「わかりました」


 河野喜彦を呼出すために、これから自転車で坂を下らなければならない。


「それでは協力をお願いします。交通事故を防ぐため、自転車でくだる区間に誰か来ないか見ていて欲しいので、鈴木さんはここでチェックをお願いできますか?」


 翠が了承してくれたので、誰か来た場合はスマホで連絡をしてもらうことにした。一花にはハイエースで移動してもらい、麓のほうで誰か来ないかを見ていてもらう。


 ハイエースが出ていくと、入れ替わるようにして途中で見たユーチューバーが、フラつきながら自転車を引いて登ってきた。フラついているのは怪異にあった恐怖からではなく、単に坂がキツくて疲れているのだろう。やはりスポーツサイクルでなければ、河野喜彦は現われないようだ。


 永遠は愛車のマウンテンバイクと借り物のロードバイクを見つめた。刹那は普段から自転車にあまりのらない生活をしており、ロードバイクに乗ったのも今日が初めてだ。ロードバイクとマウンテンバイクでは、マウンテンバイクのほうが初心者には乗りやすい。


  でも、わたしもロードに、なれていないんだよな……


 マウンテンバイクは趣味や移動手段としてだけではなく、異能力の修業をする際に精神集中をするためにも利用していた。しかし、ロードバイクは試乗したことが数回あるだけだ。


「姉さん、この案件、わたしに任せて」


「どうしたの急に?」


 姉が驚いた顔をする。


「考えたんだけど、今回は自転車に乗ったまま浄霊をすることになるでしょ?」


「そうね……」


「姉さんはもともと自転車に乗りなれていないから、マウンテンバイクでもかなり危ないと思う」


「うっ……たしかにそうだけど」


「わたしもロードには乗りなれてないから、姉さんを充分にサポートできない」


「それは……」


「だから、わたしが自分のマウンテンバイクて独りで対処したほうが上手くいくと思う」


「ちょ、ちょっと待って!」


 刹那が両手を突き出して止めた。


「それはダメ、永遠だけに任せることはできない」


「でも、二人でやったほうが上手くいかない可能性が高いよ」


「それじゃ、あたしがロードに乗る」


「姉さん、さっき乗ろうとして転んだでしょ? 坂を下るのは危ないよ」


 刹那はロードバイクにまたがってペダルを踏込んだところで倒れたが、ザッキーがクッションになってくれたお陰で怪我をせずに済んだ。


「そ、それは永遠の言う通りなんだけど……」


「姉さんが怪我をして浄霊ができなくなれば、結局わたしが独りでやることになる。ううん、ヘタをすれば転んだ姉さんに巻き込まれて、わたしも転ぶ危険だってあるよ」


「う……」


 刹那は言い返せず言葉につまった。


「だから、わたしに任せて。マウンテンバイクなら里山トレイルライドだってなれている」


 里山トレイルライドとは、森林などに作られた荒れ地コースをマウンテンバイクで走ることだ。


 刹那は少しの間考え込んだ。


「わかった、たしかにあたしは足手まといになる。だから、代わりにザッキーを連れてって」


 座敷童子はいわゆる式神のような存在で見た目ほど重さはない。そもそも異能力を持たない人間には視ることすらできず、重さも感じないのだ。それに乱暴な運転をしても振り落とす事もないだろうし、基本的に物理的なダメージを受けない。


「了解!」


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