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英雄の見た夢  作者: ササップ
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見知らぬ土地、見知らぬ男

頭が痛い。意識が覚醒して一番に感じたことは酷い頭痛。

次に全身に強い違和感。太陽が真上にあるようで、光が強く周りの様子はよくわからない。

次第に視界がはっきりしてくる。横を見ると土がある。

そこで自分は昏倒していたのだと気付いた。

体に痛みは無い。全身をよく見てみるが、特に外傷は見当たらない。

しかし全身にざわざわする違和感がある。

原因はわからない。そこで昏倒していた理由を思い出そうと記憶に意識を向ける。

しかし、何も思い出せない。どれほど思い出そうとしても自分の名前すら分からない。

何か周りに思い出すきっかけはないかと周りを見渡す。

周りには木造建築の家屋が点々とあるばかり、遠くには畑やフェンスが見える。

ここは田舎なのだと理解することはできた。しかし、見覚えはなく、やはり何も思い出せない。


「俺……?自分……?僕……?僕は、誰だ」


自分が雑に整備された道の上に横になってることは理解したので、とりあえず近くの木陰に入る。

何もわからなくて不安なのに、そこでさらに太陽に体力を奪われたらそれこそなすすべが無くなってしまう。

周りには人影は見えない。記憶はなくとも知識はあるみたいで、考えることはできるようでよかった。

目につく限りでは家は多くなく、遠目に見えるフェンスの奥は森が見える。

畑はあるが広くなく、農具のほかに武器のようなものが見えるため、農耕より狩猟が主な稼業の村、あるいは民族であることが推測できる。

自分が横になっていた道は横幅が狭く、馬車などはあまり使われていないと見受けられる。

少し目線を落とし、自分の状態を確認する。服や下着は身に着けているため、出合頭に誰かに不審者扱いされる恐れはなさそうだ。

ただ、手や足がすごく小さく短い、立ち上がってもまるで視線が高くならない。

自分は子供らしい。

は?

自分でいうのはあれだが結構論理的に今思考できているつもりだ。しかし、目に見える自分は高くいつもっても9歳くらいの体に見える。

ただ今混乱しても事態がよくならないことを理性が強く自分に言い聞かせる。これだけでも自分が9歳程度とはまるで感じられないが、もう少し周りを見る。

自分の持ち物は服以外に何もない。ポケットの中にも何もない。

つまり自分の身元を確認する手段が無い。

木陰で調べられることはこのくらいだろうか。そう自分の中で結論付け次にすべきことを考える。

武器がないうえに未発達な体で単身森に突っ込むなんてことは論外。いや、そこらへんになんの対策もされずに置かれている武器を拝借したら安全な可能性は高まるが、そもそも森に突っ込んでも得られるものはない。今抱えてる不安を一時的に和らげてくれるくらいだろう。

そうなると、記憶が何も無い自分にとれる次の手段は、この小さな集落の中で済んでる人に自分のことを知らないか聞いて回ることだろう。可能であれば水辺あたりで自分の顔を確認することもしておきたい。自分の顔という強いアイデンティティーのあるものならば記憶を思い出すきっかけになるかもしれない。

となればとりあえず道に従い歩いてみるのがいいだろうか。目の前の道は片方は森に向けて伸びていて、もう片方は家のあるほうにつながっている。

ひとまず家のほうに歩きだす。

ただ、やはりおかしい。どう見ても集落なのに、さっきから人が見えない。太陽は真上にあるため時間はまだ昼であるはず。しかし一切の人の営みを感じない。もっと言えば狩猟が主な稼業と推測したが、それにしては野生動物の死骸を干している様子も見られない。ある程度気温も高いため畑にあるべき青々しさもなく、点々と野菜らしきものが不規則に生えているていどで、雑草も多く生えている。

いやな予感が体を走り抜ける。気付けば最初に感じていた全身の違和感はどこかへ消えていた。

はやる気持ちを抑えられず足早に家の多くある方向へ向かって進む。

道が十字に重なるところは広場になっているようで、近くには井戸もある。そして、その井戸の近くに一つの人影が見える。人がいた。その事実にほっとし胸をなでおろす。

「あの、すみません。」

ひとまず何か自分に関することを知らないか声をかける。何か知っていたらよし、何も知らなければこの狭い集落であるため自分はこの集落の人間ではないことが分かる。

「……ん?あぁ、起きたようだね。こんな辺境の集落に小さい子供がいるなんて珍しいこともあるもんだ。」

人影は若い男のようで、井戸に寄りかかりながら寝ていたらしい。立ちながら寝るなんて器用な人だ。口ぶりからすると自分に関することは何も知らなさそうだ。まあ、9歳程度の子供が記憶をすべて失って道端に昏倒していたなんて異常な状況。さすがに簡単に解決はしないか。

「少年、立ち歩いても大丈夫なのかい」

目の前の男は自分の身を案じてくれいているようだ。確かに昏倒していたのにすぐに立ち歩くのは危険だったかもしれない。かといってずっとその場にいるわけにもいかなかったため、気にしても仕方のないことだろう。

「あぁ、はい。大丈夫……だと思います。」

「それはよかった」

さて、この人が自分に関することを知らないとなると、まずはこの集落について知る必要があるだろう。ここはどこなのか、近くに他の町や集落がないか、聞いておくべきことはいくつもある。

「変なことを聞いてもいいですか?」

「かまわないよ。」

この人はそう言って近くの家の玄関にある階段に腰掛け、隣に座るよう促した。断る理由もなければずっと立つのも体力を消耗するため、素直に従う。

「ここってどこですか?」

とりあえず地名でもなんでもいいから少しずつ現状を把握する必要がある。

「ここがどこか……か、なるほど。ここはビギード大陸のファスルト村と呼ばれているよ。どこかもわからない中こんな僻地に来て無防備に寝ていたのかい。」

「あはは、そんな感じです。」

「変な少年だねぇ。」

口では驚いている様だが、目に変化がない。驚いていない、信じていない、もしくは元々知っていた。そんな人間のリアクションだ。とりあえず他の人はどこにいるのか聞いてみるべきだろう。

「あの、この村の他の住人が見当たらないんですけど、全員で出かけていたり、日中は活動しないような理由があるんですか?」

「この村の住人?あぁ、みんな死んだよ。正確に言えば殺されたかな。」

「え?」

人がいたから安心していた。他の人もどこかにいるのだろうと考えていたところに強い衝撃を受けた。悪い予感が当たってしまっていた。

これは、すごく困った。

「ここは森に囲まれているだろう。ここら辺の森には魔物が多く住んでいてね。この村の住人は元々魔物を殺して、その素材を町に卸して金銭を得て、食料や衣類を得ていたんだけどね。ある時からなぜか魔物が急増、活発化してね。この村の住人は一毛打尽って感じで、一人残らず殺されたよ。」

目の前の男以外に人がいない。つまり他の町や村に行かなくては自分に関する情報は得られないどころか、周辺の森は魔物が多く抜けることは困難。頼れる人間は目の前の男だけで、今の自分にできることは無く、価値のあるものは手元にないため護衛を頼むこともできない。

「そうだ、大事なことを忘れていた。」

男はおもむろに立ち上がり、こちらを見た。男は長身で、引き締まった筋肉をしており、整った顔立ちに綺麗に伸びた金髪が特徴的だ。

「自己紹介をしていなかったね。」

そういえばこの男のことをなんと呼べばいいか分からなかった。自分の名前さえ分からないのだから、当然といえば当然だが。

「私の名前はヒード、名探偵をしている者さ。」

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