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赤鬼の仮面  作者: 赤羽景
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鬼と猿

 鬼の腕に怖気付く子分猿たちを、ボス猿は叫び声を上げて叱咤した。

 その声に背中を押されて、やむを得ず子分猿たちはリキに飛びかかる。

 

「ビビッたまま戦っても勝ち目はねェぞ」

 

 怯えたままでは力を発揮することはできない。

 そして一度怖気付いたら、それを克服することは難しい。

 だから相手を恐れた時点で勝敗はほとんど決まったようなものだ。

 

 懐に飛び込んできた角猿の顔を、リキは鬼の手で掴んだ。

 さらに掴んだ手に力を込めて思いきり握りしめる。

 角猿の頭部はその圧力に耐えきれず、爆発するように血を周囲に飛び散らせた。

 リキはリンゴを潰すような感覚で角猿の頭を握り潰してしまったのだ。

 返り血を浴びてもリキは気にもしない。

 

「しっかり受け取れよ」


 リキはそう言うと、顔色一つ変えることなく、絶命した猿を向かってきた角猿の軍勢に投げつけた。

 刹那のうちに骸に変えられた同族。その無残な姿を見て角猿たちは理解した。

 自分たちでは絶対にこの男には敵わないということを。

 野生といえども、一度それを理解してしまえばもう足は動かない。

 ボス猿の声ももう耳には届かなかった。

 子分猿たちは、ただその場でブルブルと震えるだけだ。

 

 リキは構わず次の行動に移る。

 まず右手の親指を軽く曲げ、残りの指は隙間をなくしてピンと伸ばした。

 そうやって作った手刀を胸の前に構える。

 さらに体を横にひねり、弓を引き絞るように力を溜める


「鬼……」


 そして溜めた力を解放し、腕を横に薙ぎ払った。


「薙イイイ!!」


 鬼の手で作った手刀は、さながら名刀の一振り。

 その切れ味の前に周囲の角猿たちを一刀両断された。

 リキの代名詞とでもいうべき必殺技【鬼薙(おになぎ)】。

 鬼の圧倒的な力で振るわれた手刀は飛ぶ斬撃となって、直接触れてすらいない角猿をも真っ二つにし、周囲を血の海に変えた。

 生き残った角猿は、けたたましい声を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 その光景を見たボス猿は怒り、自分の方に逃げてきた角猿を殴り殺した。


「おーおー。容赦ねェな」


 ボス猿は怒りの咆哮を上げると、リキに向かって跳躍した。

 大地を割り地響きを立てながら着地。

 それから普通の猿より何倍も大きい体でリキを正面から見下ろした。


「やめとけ。上から見下してもお前は俺より下だ」


 リキの忠告は届かず、ボス猿は巨大な腕を振り下ろす。


「遅せェよ」


 ボス猿の攻撃が届く前に、リキは逆にボス猿の腹を殴りつけた。

 車に轢かれて数十メートル飛ばされる子供のように、ボス猿の身体が宙を舞う。

 そのまま受け身も取れず盛大な音を立てながら地面を転がった。


「……頑丈だな。スゲー生命力だ」


 ボス猿はまだ息があり、立ち上がった。

 殴られた腹から血と一緒に臓物が飛び出すほどの重症を負っているが、それでもまだ生きている。

 戦意もまだ失っていない。


「ボスとしてのプライドか……大したヤツだ」


 ボス猿の傷は致命傷――もはやリキが何もしなくても息絶えるだろう。

 鬼化は体力の消耗が激しい。

 リキが片腕しか鬼化させていないのも、相手を舐めているからではなく力を温存するためだ。

 だからこれ以上力を使うのは無駄でしかない。

 まだこの森にどれほどの強者が潜んでいるかわからないのだ。

 それでもリキが鬼化を解くことはなかった。

 まだ相手に戦う気があるのなら、それを正面から受け止め力でねじ伏せる。

 それがリキのやり方だ。なぜそんなことをするのかというと理由はただ一つ、そのほうが気持ちがいいからだ。


 ボス猿はその場から動かない――というより動くことができないほどの重症なのだろう。

 トドメを刺して楽にしてやろうとリキが拳を握る。

 その瞬間、異変は起こった。

 ボス猿の頭にある角が突然青白く光り始めたのだ。

 さらに角の先からは、青白い光の玉が形成されていく。

 それが風船が膨らむようにだんだん大きくなっていった。

 

(生命エネルギー……じゃねェな。何か別の力だ)


 何かはわからないが、何らかのエネルギーの塊なのは間違いない。

 あれをまともに喰らえば、リキも無傷ではいられないだろう。


「面白れェ、なら目には目をだ」


 リキは左腕も鬼化させると、胸の中心で全ての指先を合わせて円を作る。

 さらに鬼の莫大な生命エネルギーを手から放出し、手の中でそれを圧縮していく。

 手の中で出来上がったのは赤く光る玉。その名も【鬼心弾(きしんだん)】。

 赤と青。鬼と猿。それぞれの命を込めて創られたエネルギー弾。

 両者はそれを同時に相手に放った。

 真っ直ぐに進む赤と青。

 二つの玉がぶつかり合い、轟音と衝撃を生んだ。

 周囲の木々は薙ぎ倒され、大地は爆心地のようにえぐられる。

 

 衝撃が止んだ後、リキはボス猿の前に立っていた。

 ボス猿はもともと死にかけだったが、衝撃に煽られて虫の息。生きているだけでも奇跡だ。

 リキはトドメを刺すために腕を振り上げる。


鬼愛打(きあいだ)!!」


 渾身の力と気合の籠った平手打ちをボス猿の顔面に向かって放った。

 その衝撃に耐えきれず、ボス猿の頭部は体を置き去りにして飛んでいった。


「鬼退治には猿だけじゃあ足りなかったな」


 鬼を倒す者と言えば、やはり桃太郎が思い浮かぶ。

 お供の猿だけでは鬼を殺すには力不足だったというわけだ。

 

 勝敗は決し、リキは異世界での初勝利を収めた。

 危なげもなく完勝。この程度ではリキの相手にはならない。

 この戦いでリキの力が異世界でも十分通用することもわかった。


「腹が減ったがさすがに猿は食いたくねェな」


 食糧にはならないが、ただ殺しただけだと寝覚めが悪い。

 せめてその死を無駄にしないよう戦利品を剥ぎ取ることにした。

 肉以外で生き物から得られるものといえば、やはり毛皮だろうか。

 しかし道具を持っていない。あったとしても上手く剥ぎ取れる自信はないため却下。

 角猿の象徴と言える角だけをもらうことにする。

 子分猿の死体の山から角を力で強引に引きちぎり『亜空間宝庫』に放り込んでいく。


「おっと、危ねェ。こっちは下の角だった」


 猿の股間に伸ばした手をリキは引っ込めた。

 下らない下ネタを言ってみても、反応してくれる人は誰もいない。

 勝利を手にしてもそれを共に分かち合う仲間はどこにもいないのだ。


「寂しいなんて言うわけない……か。あの時は本気でそう思ってたんだけどなぁ……」


 独りぼっちの案内人に告げた言葉がまさか今更自分に返ってくるとは思わなかった。


「死ぬってのは独りになるってことか……確かにこいつは思っていたよりもずっと――」


 口からこぼれそうになった『辛い』という言葉を飲み込んだ。

 誰も聞いてはいないが弱音は吐きたくない。

 何より情けない言葉を自分の耳に入れたくなかった。


「ん? 宝庫の中になんかあるな」


 角を投げ入れている途中に気が付き、中にあるものを確認する。

 宝庫の中にあったのはピラミッドのように積まれた酒瓶だった。

 手前の酒に紙が貼りつけられている。リキはそれをはがして書いてある内容に目を通した。


『少しくらいはお酒持って行ってください。でも飲みすぎちゃダメですよ。身代わり人形は持っていないと効果がないので肌身離さず持っていてください。異世界を甘く見ないこと! 使命も忘れずに必ず期限内に果たすこと! 幸運を祈ります』


「心配性の母親みたいだな」


 自然とリキの口元から笑みがこぼれる。

 優しい案内人のおかげで大事なことを思い出せた。

 死んでリキは独りになったと思ったがそれは違う。

 アンナとのつながりは死んでからできたものだ。

 そして異世界に旅立った今もこうしてメッセージを届けてくれた。

 生きる世界は違くとも繋がりは確かにある。

 リキが仲間を思い出すように、仲間たちもリキのことを決して忘れない。

 忘れられない限り、死んでも繋がりが消えることはないのだ。

 そしてこの世界でもきっと新たな繋がりを作ることができる。

 独りになったと落ち込む必要などどこにもないのだ。


 リキはアンナの言いつけに従い、ポケットの中の使命のカードを確認した。

 旅立ちの時には何も書かれていなかった。

 だが異世界に来た今はリキの背負う使命がはっきりと書き込まれていた。


「こいつは……穏やかじゃねェな」


 カードにはこう書いてあった。


『結晶の世界へ転生した者に与えられる使命 使命その1 勇者の殺害 期限1年 期限内に使命を果たせなかった場合は転生者の魂を浄化するものとする』


 使命を達成できなければ、リキの異世界生活はそこで終わる。

 異世界での寿命は残り1年。

 延長したければ、勇者を見つけて殺さなければならないということだ。

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