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赤鬼の仮面  作者: 赤羽景
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自己紹介

 リキは昏々と眠り続ける少女を背負って森をさまよっていた。

 今日中に森を抜けることは難しそうなので、どこかゆっくり休める場所をリキは探す。

 しばらく歩いて日も暮れ始めたところで広大な湖を発見した。

 大自然に囲まれた湖面が沈みゆく夕日を鏡のように映しだしている。

 絵画のような美しい景色に思わず目を奪われてしまう。

 神秘的な光景を存分に堪能したリキは、異世界での最初の夜をここで明かすことに決める。

 少女を近くに寝かせるとリキは焚き火の準備を始めることに。森に戻って使えそうな木の枝や落ち葉を拾い集める。


「お、ナイスタイミング」


 木の枝を抱えて戻ってきたらちょうど少女が目覚めたところだった。


「火をつけて欲しいんだができるか?」


 火起こしに必要な道具は何も持っていないため、素人のリキが自力で火をつけるのは難しい。少女の魔法の力を頼るしかなかった。


「……できる」


「そうか! よかった。じゃあ頼む」


 風しか操れないと言われる可能性もあったが火も使えるようで安心した。

 少女はリキが集めた材料に火の魔法を当ててすぐに火を起こしてくれた。


「便利だな、魔法。あとは食糧があれば……」


 森で獣か食べられそうな果物でも探すか、あるいは湖にいる魚を捕まえるか。リキが迷っていると少女が風の魔法で湖の水を巻き上げ、魚を捕まえてくれた。


「なんか俺もう必要なくね?」


 戦闘だけでなくサバイバルの面でも少女が有能すぎる。


 程なくして日が完全に沈みきり夜になった。

 湖畔に焚かれた炎からは、星の輝く夜空に向かって細い煙が長く昇っている。

 二人はその炎を挟んで座り、夕餉の魚が焼けるのを待った。


「名前……まだ聞いてなかったな。俺はリキ。お前は?」


 魚が焼けるまでの時間つぶしにリキは少女との会話を選んだ。


「……レティシア」


 ずいぶん遅くなったがやっと少女の名前を知ることができた。

 出会いが突然すぎた上にゆっくり挨拶を交わしている時間もなかったため、それも仕方ないことではある。

 今思うと、名前も知らない状態でお互いに命を預けて戦っていたのだから、凄い事である。

 死線を共に超えたことで、名前を知る前からすでに二人の間には一定の信頼関係が生まれていた。

 しかし信頼関係が構築できたといっても、まだ互いに相手のことをほとんど知らない状態なのは変わりない。

 リキはこの謎の少女のことをもっとよく知るために質問をすることにした。

 

「レティシアはなんであそこにいたんだ? あの空間の歪み……お前と龍が出てきたアレはなんだ?」


「『時の牢獄』……対象者を永久に閉じ込める魔法」


 名前からある程度予想はできていたが、やはりあの結界は閉じ込めるための檻だったということだ。


「……やっぱり閉じ込められてたのか。でもどうして?」


 閉じ込められていたのはわかったが理由がわからない。牢獄というのだから何か悪い事でもしたのだろうか。


「龍と魔女は世界の嫌われ者だから」


「なんでだ?」


「…………」


「あ、いや、悪い。答えたくないならいいんだ」


 嫌われている人間になんで嫌われているか聞くなんて少し無神経だった。表情はあまり変わらないが瞳を見れば、この話を嫌がっているのはわかる。


「レティも聞いていい?」


「ああ、もちろん。スリーサイズ以外ならなんでも答えてやるよ」


「リキはどこから来た?」


 いきなり答えにくい質問がきた。

 別に隠さなければいけない理由もないので本当のことを言っても問題はないのだが、馬鹿正直に答えても信じてもらえないだろう。


「すごく遠いところだ」


 曖昧な言い方でぼかした。一応、嘘はついていない。

 もし『こことは違う世界で一度死を経験し、転生してこの世界にやってきた』なんて言おうものなら頭のおかしい人間と思われかねない。

 ところが、


「別の世界か?」


「――ッ」


「リキはこの世界の人間じゃない。違うか?」


 リキのごまかしはレティシアには簡単に見透かされてしまった。


「わかるのか?」


「この世界の生物はみんな身体に魔力が流れてる。でもリキからは魔力をまったく感じない」


「…………」


「魔力がないからヴォルガンもリキがどこにいるか気付けなかった」


「なるほど、そういうことか」


 レティシアの時間稼ぎが上手くいったのにはそういう理由もあったのかもしれない。

 リキが生命の波動を感知するように、龍や魔女は魔力を感知できる。

 しかしヴォルガンはリキの魔力を感知できないから気付くのが遅れた。

 そしてそれはレティシアがリキの作戦に乗ってくれた理由の一つでもあるのだろう。

 さすがに何の勝算もなければ、この聡明な少女はあんな無茶はできなかったはずだ。


「……お前の言う通り、俺はこの世界とは違う異世界から来た」


 この世界ではどんな生物も魔力を持っているのが普通で、それは人間に赤い血が流れているようにごく当たり前のこと。

 それがないのだからリキは根本的にこの世界の人間とは作りが違うということだ。

 この違いは誤魔化しきれるものではないと判断したリキは真実を語るしかなかった。


「リキは何のためにこの世界にきた?」


「別に目的があってここに来たわけじゃない。この世界で何をするのかもまだ決めてねーしな」


 この世界でやるべき使命は一応あるにはあるが、それをやるかはまだ決めかねていた。


「なんでレティを助けてくれたの?」


「たまたまだ。お宝でもあるかと思って破壊したらお前と龍がでてきたから一緒に戦っただけ。それに助けられたのはむしろ俺の方だ」


「リキはこれからどうするの?」


「とりあえず、衣食住の確保のために村か街を目指す。やりたいこともやるべきこともまずはそれができてからだ」


 まずはこの世界で生きる術を身につけなければならない。何をするにもまずはそれからだ。


「お前……家族はいるのか?」


「いない」


「誰かお前の帰りを待ってる人は?」


「いない」


「そうか……」


 この少女は強い。一人で生きていく力は充分ある。だがどれだけ強くてもまだ小さな子供なのだ。一人で生きていくには世界は広すぎる。


「行くとこねぇなら一緒に来るか?」


「…………」


「レティシアがいてくれると俺も助かる」


「……わかった。リキと一緒に行く」


 相変わらず少女の表情は変化に乏しくて感情が読みづらいが、リキにも少しずつわかってきた。

 今この少女はとても喜んでいる。それは間違いなかった。


「よし! 決まりだな。これからもよろしく頼むぜ、レティシア!」


「レティ……そう呼んで」


「了解! よろしく頼むレティ」


「魚、もう食べられる」


「ようやくか。しかし異世界での記念すべき最初の食事が草とかにならなくてよかったぜ」


 そしてそれ以上に嬉しかったのは、最初はおそらく一人になると思っていた食事が二人で食べられるということだった。

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