エス市百景④机の上の花束
学校に行くと、私の机の上に花が一輪置かれているようになったのは一ヶ月前からだ。
初日は桜の枝が置かれていた。学校の西側の桜の木の枝を折って、誰かが私の机に置いたらしい。最初に発見したT子が、H先生に相談して、H先生が校内を見回ったところ、そのような形跡があったらしい。
お葬式の祭壇をしめやかに華やかにする菊の花が大量に花瓶に生けられていたり、「死ね」と書かれた手紙が置いてあったりする訳ではなかったので、私もT子もH先生私がもいじめられているという状況ではないなあと、判断した。
しかし前述した通り、そういった不可解な現象は一ヶ月前から続き、今日も置かれていた。今日は菜の花が置かれていた。最早花が置かれていることは私の生活の一部になっていた。
「今日は菜の花か。春の匂いだね」
T子がいつの間にか私の隣にいて、菜の花の茎を弄っている。
「そういえば、今日は誰が学校を休むだろうね。この一ヵ月で一日につき一人が不登校になっているんだよね。うちの学校は七クラスあるから、少なくても一クラスにつき四人以上は不登校になっている計算だね」
「そうなんだ。全然気がつかなかった。学校って勉強をしにくるところだから、他人のことなんて全然気にしていなかった。あ、その花邪魔だから捨てちゃうね」
私は菜の花を持ち上げて、廊下へ向かった。窓を開けて、菜の花を放り落とす。菜の花は中庭に真っ直ぐ中庭に落ちた。
教室に戻ると、T子の姿はなかった。トイレにでも行ったのだろうか。
「T子のことを殴りたかったけれど、まあいいか」
どうせ十分も経てば、誰か登校してくるだろう。私はのんびりと国語の教科書を開いた。