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#8 シトリの正体

「だいたいの事情はわかりました。大変でしたね、お疲れ様です」


「労いの言葉、痛み入ります」


 シトリと二人、東通りを宿へ向かい歩いている。マグナスはシトリと合流できたことにより用済みとなったので一旦引き返してもらった。後程、また彼に会いに行きコークスの試合を一緒に観戦することになっている。


「でも、サックさんって意外と動けるんですね。人は見た目ではわからないものです」


「本当に何もかもお見通しなんだな。魔導師ってのは恐ろしいね。千里眼か何かかな?」


「私の場合は視界を“盗んで”るんですよ。今日の一件でサックさんが“正義の人”だというのは理解できたので、種明かしをしておきましょうか。まずは周囲に目を向けてみてください」


 言われて俺は人でごった返す通りを見回してみた。でも特に、これといって気になることはない。お店は普通に営業しているようだし、人々もただそれぞれの用事の為に動いている、そんな感じだ。ただ、なんか凄く顔色の悪い人が数名いるようだけど。病人かな?


「なんもないけどなぁ……」


 時折、土気色をした人と目が合う気がするが、それ以外には不審な点は見つけられない。


「いえ、ありますよ! よく見てください! 変な人いませんか?」


「変な人? 俺、人を見た目で判断するのは好きじゃな……」


 顔色の悪い人達が、心なしか俺の方に集まってきている気がする。頭からすっぽりとフードを被り、全身を黒いローブに包んだ者達が、なぜだか知らないが俺の方をガン見している。うーん、まさかこいつら、シトリの密偵か!?


「……何、この人達」


「やっと気が付いてもらえましたか? そうです、その人達は死んでます」


「え?」


「死体です」


「動いてるけど?」


「私が動かしてます」


「こいつら、全員を!?」


「はい、そうですよ。驚きました?」


 俺が確認したところ、近くにいるのは6体。みんな同じ黒ローブ姿だから、それとわかれば見つけやすい。


「死体を、操れるのか」


「はい、それが私の魔導師としての能力です。帝国軍魔導部隊、屍体使い(ネクロマンサー)のシトリ・クローネです。改めまして、よろしくお願いしますね」


 まさか、こういうタイプの術師だったとは。その可憐な見た目からは想像がつかない。


「歩きながら、話しましょう。往来で立ち止まっていたら迷惑ですからね」


「あ、あぁ……」


 俺の前をテクテク歩く小柄な少女。そして周囲を遠巻きに囲む死体達。両者がどうにも結びつかない。ここまでギャップがあると素性がバレにくくもあるのだろう。


「にしても、一度に6体も操れるなんて器用だな」


 視界を盗む、とさっきシトリは言っていた。つまりシトリには、操っている死体の見ているものを同じように見る力が備わっているということだ。視界ジャック、とでも言おうか。便利な能力だが、シトリの頭の中はどうなっているのだろう。混乱しないのだろうか。今だと6種類の視界+自分の視界を切り替えながら見ているわけで、どれが誰の視界かわからなくなったりしないのだろうか。俺なら間違いなく、キャパオーバーする。


 今の発言は尊敬の念を込めて言ったものである。純粋に凄いと思ったから。

 だがシトリはムスっとした顔になった。


「んもぅ、侮らないでくださいよ! この6体はたまたま近くにいたからここへ呼び寄せただけで、これで全員じゃありません!」


「えっ、もっといるの!?」


「いますよー、だいたい常時40体くらいは動かしてますね」


「よ、40体!!?」


「えへへ、そうそう、ここでビックリしてもらうのが適切なタイミングですね」


 凄まじいものだ。しかもここにいない残りの34体については遠隔操作をしているわけだろ。術がどれほど遠くまで届くのかはわからないが、数もさることながら、それを全部制御しているシトリのマルチタスク能力が高すぎる。これはもう充分チートと言って差し支えないだろう。


「いやぁ、これは参ったよ。宿で働きながら、40体くらいの死体を動かしてるんだよな?」


「はい、そうです」 


「疲れない?」


「慣れたら大丈夫ですよ。サックさんも、自分の腕や足を使うのにいちいち考えたりしないでしょ? ネクロマンサーも同じです。死体を自分の手足のように使役できるようになれば、余計な思考は必要なくなるんですよ」


 ううーん、その境地に達するまでにリタイアする人が大半のような気がする。


「というわけで、王都は至るところに私の操る死体が配置されていますんで、サックさんもご安心ください。その身に危険が迫ったら、すぐに救援に駆け付けますよ、死体が」


 だから、俺の居場所がわかったのか。

 俺が金を盗まれて、それを取り返すべく走り出した時すでに、シトリは近くにいた死体に指令を下していたのだろう。俺を追跡せよと。


「あ、でも、サックさんはかなり強い人みたいなんで、助けは要らない感じですかね?」


 恐るべき屍体使い、シトリ・クローネはそう言ってから実に無邪気そうに笑った。

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