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#1 野菜を収穫しよう

「おはよーございまぁーす!」


「うわっ!うるせぇ!」


 耳元でいきなり声が爆発した。飛び起きたらそこに割烹着姿のシトリが座っていた。そういやこの部屋、鍵がないんだった。侵入され放題。


「朝です、起きてください」


「ええー、まだ薄暗いじゃん。今、何時?」


 窓の外はうっすらと闇が明けつつあるから早朝なのだろう。


「朝の6時です」


「まさかもう朝御飯なの?」


 目を擦りながら訊いてみる。


「まだです」


「じゃ、もっと寝る!」


 布団にくるまろうとしたら、機先を制して跳ね除けられた。イモムシみたいに無様に畳の上をゴロゴロする俺。


「起きてください。そして朝の仕事を手伝ってもらいます!」


「マジ!?」


「ほんとです。イリヤさんが、ダラダラしてるようなら追い出してもいいって言ってました」


 無茶苦茶だ。だが仕方がない。宿泊代はイリヤさんに払ってもらってるし。


「ぐぬぬ……わかったよ、起きます」


 盛大にアクビをしながら立ち上がった。こんな時間に起きるなんていつ以来だろう。


「じゃ、外の畑で待ってますね」


 そう言い残してさっさとシトリは部屋を出ていった。朝っぱらから活発な少女である。



 宿の外へ出てみると、青白く滲む空と程よく冷涼な風。そして静けさ。鳥が鳴く声がどこからか聞こえてくる。ラジオ体操でも始めたくなる爽やかな早朝の気配。早起きは三文の徳などと言うが、徳が無かったとしても単純に気持ちのよいものだ。


 宿の裏手の畑の方でシトリが手を振っている。


「こっちですよー!」


 いくつも土が盛り上がった列があって、そこから緑の葉っぱが顔を覗かせている。ニンジン畑のようだ。

 野菜達を踏まないように慎重にシトリに近付く。


「さて、サックさん。見ての通り、野菜の収穫です」


「あぁ」


「二人で手分けして手っ取り早く終わらせちゃいましょう」


「でも、どうやって収穫するの?」


「え?」


「いや、俺、畑仕事未経験なんだけど」


「そんな人いるんですか!?」


 普通にいるよ! てか現代人なら畑仕事なんかしたことない人の方が多いだろうよ!


「いるんですか!?」


「2回訊くな!」


「そうなんだ……畑とか野菜のない世界から来たんですね……」


「そんなディストピアじゃねぇよ!」


 何かひどい勘違いをされてしまったようだ。唖然としながらもシトリは、解説を始めてくれた。


「いいですか、しっかりと腰を落として、茎の根元を持つんですよ」


 見よう見まねでやってみる。足を開いて、腰を深く落とす。この体勢が既にキツい!


「持ちました?」


「おうよ」


 茎をがっしりと掴む。土から少しだけオレンジ色のニンジン本体が姿を見せている。


「この野菜は抜く時にコツがいるんですよ。こうやって、捻じりながら真上に、引っこ抜く!」


 シトリがニンジンをボコッと引き抜いた。途端に、ニンジンが叫んだ(!?)。


「キャー!」


 女性の悲鳴みたいに、ニンジンが鳴く。


「うわぁ!」


 思わず尻餅。突然叫ぶなよ、野菜。


「あっはっは! 引っ掛かりましたね」


 無様な俺の姿を笑いながら、シトリはニンジンをブラブラさせた。ニンジンに人の顔みたいな模様が浮かんでいる。ムンクの叫び的な表情をしていて不気味だ。


「この野菜はマンドラジンと言って、すごくうるさい子なんですよ。でもこの鳴き声が大きい方がよりおいしいんです。この子も声が大きいんできっとおいしく食べられますよ」


「次から野菜が叫ぶときは先に言ってね……」


「え?お兄さんのいた世界の野菜は無口なんですか?」


「普通しゃべらねぇよ!」


「わぁ! もう、いきなり大声出さないでください」


 むすっとした顔をされた。


「あ、手が止まってますよ! 収穫収穫!」


「わかったわかった、やりますよー」



「キャー!」

「キャー!」

「キャー!」


 早朝の畑に女性の悲鳴に似たマンドラジンの叫び声が響いている。まぁこっちの世界の住人にとってはスズメが鳴いてるようなもんなんだろうけど……シュールだよなぁ。

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