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#19 豪華な夕食

 夕食は豪華であった。野菜サラダとスープ、チーズの盛り合わせとメインディッシュはローストチキン。普通にうまそう。そして現代的。

 シトリがチキンとナイフとフォークを上手に使って切り分け、めいめいの皿に盛っていく。その所作が綺麗で、まさに理想的な給仕といった感じだ。


 食堂には俺とイリヤさんと女中であるシトリの3人だけ。宿に他の宿泊客の気配はない。今日は空いているのだろうか。


「そういえば今日はやけに静かだな。サコンはどうした?」


「あ、サコンさんは今日は夕食はいらないって言って出かけちゃいましたよ」


「あいつ、また色町通いか」


 簡素な白地の浴衣姿のイリヤさんが肩を竦める。剣士としての姿も様になっていたが、こうして和服を身に着けていると妙に扇情的でこれはこれで眼福である。

 どうやらこの場にはいないがサコンという名の宿泊客がいるようだ。色町通いってことは男性か。


「やまかしい奴がいないから落ち着いて食事ができるな」


「ええ、本当に」


「早速だが、この静寂を楽しみつつ頂くとするか」


 イリヤさんの言葉をきっかけとして食事が始まった。


 一日ほとんど何も口にしていなかった俺は現在、すこぶる空腹である。目の前に並べられた豪華な食事はその見た目と匂いとで俺の胃をキュッと締め付けた。

 まず、サラダ。一口噛めば新鮮でシャキシャキした食感が歯を直撃だ。

 スープ、コンソメに似た味がするがベースは一体何を使っているんだろう。胡椒のような香辛料がアクセントを利かせていて、食欲を刺激する。

 チーズはなめらかな口どけだ。濃厚だけど後味さっぱり。酒が、酒が欲しくなる!

 ローストチキンはもうたまらん!皮がパリッとしていて中から肉汁がドバドバ溢れだしてくる。ジューシーとはまさにこのことだ。


 食事中は誰もが無言になった。それだけ旨いと言う事だ。シトリの料理の腕は相当なものだ。一通り平らげてしまった後で最初に発言したのはイリヤさんだった。


「さて、今日は色々な事があったが、何から話したものか……。まずは初対面の者同士、自己紹介かな」


 空になったお皿を重ねて隅へ寄せ、机を布巾で拭いていたシトリが手を止めて、顔を上げた。


「はい、じゃあ私から。見ての通り、このお宿を一人で切り盛りしています、シトリ・クローネです」


「一人で!?」


 他に従業員の姿が見えないと思ったらそういう事か。


「シトリは帝国軍魔導部隊所属のれっきとした魔導師だが、訳あって正体を隠しここで働いている」


「はい、そうなんです。でもメインはこっちのお仕事なので」


 そう言ってシトリは微笑む。簡単には他言できない事情でもあるのか。ま、ここで深く詮索するつもりはない。いずれわかるだろう。


「で、こいつはただの変態だ」


「いや、そこでしれっと嘘つくのやめてもらっていいですか?」


「ああ、すまん。色々と説明を省きすぎたか。もう少し仔細に言うと、私がゴブリンと死闘を繰り広げているところへ空から全裸で降ってきて“俺はイケメン”などと意味不明の供述を」


「ちょっと!」


 というわけで初っ端からイリヤさんの大嘘に(?)ペースを乱されつつ、俺はシトリにありのままの事実を伝えた。異世界転移のこと、女神から与えられたスキルについて、イリヤさんとの出会い、今日一日で起こったこと。思えば濃密な一日だった気がする。自分自身、振り返ってみるにはちょうどよい機会だ。


 机に頬杖をついて身を乗り出し、興味津々の体で話を聞いているシトリ。


「すごーい、異世界転移なんていうのがあるんですね! 初耳です!」


「私もこれまで聞いたことのない現象だ。真偽のほどは定かでないがな。だが、こいつの持つ能力の有用性は疑う余地がない」


「それで、剣闘士試合には出場するんですか?」


「いや、まだ何も決めてないっていうか……」


 今のところ、俺がコークスと戦うことに明確なメリットは見いだせない。遊撃部隊に採用されることで高給取りなれる、ってのはあるのかもしれないが。アルコール・コーリングが戦闘にも大いに役立つことはわかった。しかし、だからと言って、肉体のスペックは常人と変わらないこの俺が、あの闘技場チャンピオンにそもそも勝てるのかという疑問もある。


 あれよあれよという間に巻き込まれてしまったが、俺は本来まったり異世界ライフがしたかったはずなのだ。うーん、どうしたものか。

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