表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/43

#17 猶予期間

「へぇ、そんなことがねぇ」


 ニコニコしながらジューク・アビスハウンドは事の顛末を聞いていた。王に次ぐ、帝国の実質的ナンバー2である彼女だが、ルックスや仕草からは威厳らしきものはまるで感じない。ただのゴスロリ美少女だ。世界最強の魔導師と呼ばれたりしているそうだが、実際どれ程凄いんだろう。


 俺達はコークスとの出会いの後、すぐにサンロメリア城へ引き返してきた。ジュークへの報告の為だ。


「コークスについてはこれまで、帝国に対する多大なる貢献が故に素行の悪さについても不問としていたわけだが、そろそろネハンの住民の不満も蓄積されているだろうし、一度痛い目を見てもらうには頃合いではないか」


 イリヤさんが言う。剣闘士試合は巨大なギャンブルであり帝国への“アガリ”も大きい。コークスはスター選手だから彼を目当てに闘技場へやってくる客も多いわけで、そういう意味では彼は帝国にとって功労者である。


 ちなみにネハンについても、こちらへ戻ってくる道中でイリヤさんから詳しく聞くことが出来た。どうやら、王都ロメリア内に存在する色町の名称らしい。風俗街、ということだ。


 コークスはネハンに入り浸っているようだが、客としてかなり無茶な要求をしたり女の子に手荒な真似をしたりしているらしい。また金払いも滞ることがあり、取り立てをしようにも腕っぷしが立つコークスには誰も敵わないようなのだ。


 それで、ネハンの店側からは煙たがられているということだ。が、闘技場のスター選手を無下に扱うこともできない。その鬱憤が溜まっていると、イリヤさんはジュークに言ったわけだ。


 つまり先程ネハン近辺でコークスと遭遇したのは偶然では無かったと言うことだな。奴はネハンにいて、騒動を聞き付けて物見遊山にやってきたのだ。


「なるほど、ついでにサッ君の実力も見ておこうって魂胆ね?」


「あぁ」


「あ、あの、イリヤさん」


「ん、どうした?」


「なんか、勝手に話を進めようとしてません?」


 もちろん俺はコークスと戦うとは一度も言っていない。それにもうひとつ重要なことだが、俺は帝国軍で働きたいわけでは無い。


「あら、サッ君は待遇に不満? ロメール帝国軍兵士は国民皆の憧れの職業だよ?」


「有難い申し出だとは思うけど……そんな急に言われてもねぇ」


 右も左もわからないうちから従軍というのはちょっと気が引ける。ていうか、せっかく異世界に来たんだしもっと自由に冒険もしてみたいというのが本音。軍人じゃスローライフなんか送れそうにないし。


「うーん、まぁ、そうだよね。じゃ、保留でいいよ」


 少しだけ思案し、意外にもジュークはあっさりと言い放った。食い下がってくるかと思ったが、予想が外れた。


「いいのか? この男の戦いを直に眺めての率直な感想を言わせてもらえば、手放してしまうには惜しい逸材かと思うぞ」


「イリヤにそこまで言わせるとは大したものだよね。でもあくまで、保留だよん。サッ君にも考える時間が必要みたいだし。もし仮に、彼の言うことが本当で異世界転移なる現象が存在するのなら、私達はそれを研究する必要がある。それに彼にとっても、王都での暮らしはとても快適なはずだよ」


「王都に置いておく、と」


「そうだね」


 確かに、ここほど栄えた町を自力で探すのは難しいかもしれない。国の重要人物と顔見知りになった今なら、いい暮らしをさせてもらえそうだし。


「どうかな? サッ君」


 俺が思案していた時間は一秒にも満たなかっただろう。どうせこの世界では俺は根無し草なのだ。軍人は勘弁願いたいけど、町に置いてもらえるなら大歓迎だ。


「あー、えーっと……よろしくお願いします」


「良かったな」


 イリヤさんが肩を叩いてくる。


「はい」


「もうじき日も暮れる。私が宿泊している宿へ案内しよう。部屋の空きはあったはずだ。それでいいな?」


「うん、そこが一番安全だと思うし」


 イリヤさんな提案にジュークが賛同し、あっさりと俺の処遇は決まった。こうして俺は一時的に、この王都ロメリアで暮らすことになったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ