#1 チートスキルガチャ(ダーツ)に挑戦して最強のスキルを手に入れろ!
本作は、なろうにて連載していた“酔狂無双”を全面的に改稿しノベルアップププラスにて転載した“酔狂無双”を逆輸入して更に改稿したバージョンとなります。←わかりにくい!
でも特に気にせず普通に読んでください(笑)。
清々しい朝だった。俺はコミケ会場へと向かう為に足取り軽く最寄りの駅まで向かっていた。仕事は休みだし睡眠時間もたっぷりと取った。気力体力ともに充分だった。楽しい一日となるはずの、ウッキウキで薄い本満載のリュックサックを背負って帰る未来が待っているはずの、そんな日。しかし人生とは数奇なものだ。本当に、一寸先に何が待っているのかは足を踏み出してみなければわからないものだ。
信号は青だった。けれど横断歩道を渡っている最中の俺に向かって、そのトラックはブレーキすら踏まずに突っ込んできた。
俺はビビッて体が硬直した。咄嗟に避けることなど、出来るはずがなかった。妙に鈍化した時間感覚の中で俺は、運転手が居眠りしているのを見た。そりゃ、ブレーキも踏まないわけだ。
次の瞬間、俺の視界は一面真っ白に染まった。
「起きなさい、酒井雄大」
声が聞こえた。女性の声。
「ううーん」
呻きながらゆっくりと目を開ける。すると辺り一面、真っ白い空間だった。俺は、360度どこまでも果てしなく白い世界に立っていた。足元には雲のような、もやもやしたものが漂っている。これはもしや……天国というやつか。俺は、死んでしまったのだろうか。
「目覚めたわね」
声の主が突然、俺の目の前に“出現”した。
「おわっ!」
思わず後ずさる。前方には何もなかったはず。それなのにいつの間にか、そこにスーツ姿の女性が立っている。
「な……あの……あなたは?」
思考が追い付かずしどろもどろになりながら問い掛ける。
シルバーのノンフレームの眼鏡の奥、理知的な瞳がちらりと俺を見据えた。ピッチリとしたタイトなスーツ姿のいかにも有能な秘書感を醸し出した女性は、相好を崩して柔和な笑みを見せた。
「私は、道先案内人です」
「案内人?」
やはりここはあの世か。すると……俺はこれからどこへ向かうのか。天国? 地獄ってことは……無いよなぁ。
「やっぱり俺は死んだんでしょうか……?」
あまり聞きたくないことだが、恐る恐る尋ねてみる。
「いいえ、あなたはまだ死んではいない」
返ってきたのは意外な答え。死んでいない?
「厳密にいえばあなたの肉体は死の直前の状態にあります」
「んん? それはどういう……」
「あなたは元いた世界から別の世界に飛ばされた。だから元の世界でのあなたの時間は停止しています。死の直前、トラックと接触する前の時点でね」
「何を言っているのか、よくわかりませんねぇ」
夢か。にしては妙にリアルだ。明晰夢?
「異世界転移、聞いたことはない?」
えっ? 今、何て言ったこの秘書さんは……?
「異世界転移……それってもしかして……今、流行りの?」
「あなたも憧れてたでしょ? チートスキル、無双、ハーレム、ざまぁ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! まさかこの俺が……」
な、何なんだこの流れは!?
まさか俺が、この俺が夢にまで見た異世界チーレム生活を送れるっていうのか!!?
「……いや、でも待てよ。ここはひとつ深呼吸して冷静に考えてみよう。そんなうまい話がどこにあるっていうんだ。俺は変な薬でも飲まされていいように利用されているだけなのかもしれない。落ち着け、落ち着け、俺!」
「あら、私が信用できない? せっかくあなたの性癖にピッタリ合うような恰好で登場したのに?」
「うむ、確かにタイトスカートでスーツ姿でノンフレームメガネ、やや顔が派手めでキツめ、ヒールは高く、髪はロングで一本に束ねていていかにもインテリっぽいしゃべり方をする若干Sっ気ありそうな女性はどストライクではあるが……ん、そういやそうだな。なんで俺の嗜好にこんなにマッチした女性が出現するんだ? 神の御業に違いないな。わかりました、信用しましょう」
「素直でよろしい」
ツンとした顔も最高である。
「でもどうして俺に白羽の矢が?」
「あぁ、それはあなたが死の間際、強力な思念を飛ばしたからです。生きたい、こんなところで死にたくない、という強い意志をね。きっとあなたには絶対に達成したい夢とか野望があるのでしょうね。そういう強い心を持った人間なら、過酷な異世界に飛ばされても大きな仕事をやり遂げられるかなと思って」
「あっ……はい、そっすね……」
その通り、俺は強く念じた。死にたくない、絶対にと。でもこの状況ではとても言えない。エッチ亭おっき先生の新作の薄い本を絶対に手に入れたかっただけなどとは……!
「じゃ、行ってくれるわね? 異世界」
ぐい、と秘書さんが顔を寄せてくる。ヒエェ……エッチ亭おっき!
「あの……行くのは構いませんが元の世界の俺はどうなるんです!?」
「大丈夫! 時間が止まったままよ。あなたが異世界で仕事を成し遂げたら、チートスキル持ち越しで帰してあげるわ。強くてニューゲーム、いい響きでしょ?」
「おぉ……それは有難い。じゃあ早速異世界チーレム生活のスタートですね。あ、でも仕事って何なんだろう?」
「異世界の危機を、救って欲しいの」
「危機を?」
「ええ、あなたの、あなただけのチートスキルを使ってね」
秘書さんは指をパチンを鳴らした。すると俺の視界の先に、何かが出現した。円形のボード。あれは……ダーツの的、か?
「さぁ、最高のスキルを当ててね」
俺の手に、一本だけダーツの矢が置かれた。まさか、自力で当てろと!?
「えっ……やるんすか!?」
「ええ、これが神界の決まりなの。昔は強制的にスキルを付与してたんだけど、今は転移者個人の意思を尊重して自分で選んでもらうことになっているの。スキルガチャダーツを使ってね!」
秘書さんの指し示す先、カラフルな円グラフのような的。よくよく目を凝らすとそこに、心が躍りだすようなスキルの数々が……!
「無条件で誰からも好かれるハーレムスキル……どんな敵も一撃で倒せる即死チート……無限に道具を生産できるスキル……どんなモンスターも使役できるテイマースキル……たわし……ん、たわし!!?」
おかしい。円グラフに占める“たわし”の割合が大きすぎる!全面積の半分くらいたわしじゃねぇか!!!
「たわしって何だよ?」
「えっ? たわし転移だけど?」
「あの……具体的には?」
「初期装備としてたわしを持って転移できるわ」
「……たわしって強いんすか?」
「どれだけ使っても絶対に摩耗しないお掃除最強の装備よ」
「いらねぇ!」
クソッ! マジか! たわしだけは絶対に避けなくては……! たわし以外ならどれでも普通に強いぞ。しかし強力なスキルのエリアを挟み込むようにしていやらしくたわしエリアがあるのが鬱陶しい。
「さぁ、この線の上に足を置いて!」
目測で的から約3メートルほど離れた場所に立たされ、俺はスキル獲得ダーツをやることになってしまった。ええい、どのみちここでうまくスキルを獲得できなければ異世界行っても活躍できないんだ。そうすると……どうなるんだ?
「一つ質問なんですが、異世界の危機を何とかできなかったり、俺が異世界で死んだ場合は……?」
「あ、ゲームオーバーになったら強制的に元の世界に戻されるわ」
「ということはトラックと……」
「接触するわね。あなたの素の身体能力では避けられないから全身を強く打って死ぬことになるわ」
つまりバラバラ死体になるわけだ。……やるしかねぇ。
「異世界で目標達成したらスキル持ち越しで帰ってこられるんですよね? 死を回避、出来るんですね!?」
「ええ、たぶん大丈夫よ」
「その“たぶん”というところがかなり引っ掛かりますが……覚悟を決めました」
線の上に右足をのせ、右手につまんだ矢を顔の高さまで持ち上げる。クソッ……ダーツなんてロクにやったことがねぇ。
「ちなみに的から外れたらスキル無しで転移だから頑張ってね!」
「そういう事は……先に言えぇ!」
ええい、なんて雑な異世界転移だチクショウめ。
単なる転載ではなく、なろうウケを意識しつつ本格的な戦闘描写も随所で盛り込みながら、皆さんに楽しんでいただける作品を目指して書いてまいります。
何卒、応援よろしくお願い申し上げます。