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魔界で一番、死ぬ奴ら  作者: ミゾロゲシン
第三章 「決戦、シュナイダーシュツルム」
26/31

26. 反撃

 気がつくと、景色が少しずつ左に動いていた。

 何のことはない。実際は、自分の首が右に回っているだけなのだろうが、今はその()()()()()が気になった。


 たとえるなら、空の雲をのんびりと眺めているような感覚だった。

 裂けた額からこぼれ落ちる血の一滴一滴が、風圧ではじけ、空中で躍るさまが見えていた。

 粉塵が舞い、その中に血ではない赤いものがちらと光った。

 珊瑚(さんご)でできたイヤリングだ。

 砲弾で魔力の障壁を貫かれたとき、耳から取れてしまったのだろう。

 地面の血だまりに落ちてしまえば、あとから探しだす自信はない。


 そんなふうに眺めるうちに、7秒がたった。

 現実の時間がどれほどなのかは分からない。

 だが自分の意思や感覚とはべつに、視界は流れ、首は動き、その角度はもうすぐ右側の20°に達しようとしていた。


 こういう感覚は稀にあるのだ。

 死が間近に迫ったときだ。

 感覚が冴え、痛みだけが消え、思考の速度が極端にあがるため、相対的に現実がその速度を鈍らせるのだろう。


 だから逆説的に、私は今、死に直面しているということになる。

 たぶん死ぬだろうと脳が勝手に判断している状況にある。



 となると死因は、首が回りすぎて骨折あたりが妥当だろうか?

 砲弾をかわしきれなかった頭部から衝撃が伝わり、生理的可動域以上のストレスが頸椎(けいつい)を折り、中枢神経を破壊する。

 即死か、そうでなくとも気絶ぐらいはするだろうから、けっきょくのところ遅かれ早かれ死ぬしかない。

 こんなところだろう。

 そして、こう考えているうちにも、首は角度を少しずつだが変え続けている。

 今、45°。

 つまり残りの20°ほどが、命の残り時間といえなくもない。


 では、どうするか。

 渾身の力をこめれば、あるいは砲弾の加速度的な衝撃に抗い、今からでも首を正面にもどせるだろうか?

 まあ、普通に無理だろう。

 筋力でどうこうできるレベルではないし、そういう地味な努力は好みじゃない。


 ならば逆転の発想で、首は折れてもかまわないから、治癒の魔術を今のうちから強化しておくのはどうだろうか?

 これは案外ありかもしれない。

 だがそもそも、折れたあとに千切れた場合、ヒール程度では間に合わないし意味がない。

 つまり、私がここで生き残るための条件は、列挙していくとこんなふうになる。


 首が千切れてはいけない。


 これだけだ。

 シンプルな結論はシンプルな行動に結びついた。

 自分の首に、血を編む鎖(ヘマトクリット)を巻きつけた。

 これだけで動きを抑えきることはできないが、首が完全に千切れ飛ぶことは防げるだろう。

 巻きつけた鎖の力加減は、ふだん敵の首を刎ねているのでよく知っている。

 生活の知恵を存分に活かして、自殺には至らない程度に、しかし最大限、頭部の固定を促すように締めつけた。


 すると変化があった。

 景色の流れがさらに遅くなり、視界の下部から血飛沫が見えるようになった。

 締めつけた首の皮膚が裂け、砲弾の衝撃に逆らうごとに血管が破裂しているためだろう。

 そういえば、いつのまにか痛覚ももどっている。

 これで気絶の心配も消えた。

 痛みは覚醒と殺意を生む。

 この理屈を根拠のない精神論だと言うやつもいるが、その精神論こそが、もっとも重要で不可欠であることをやつらは知らない。

 皆、意思の弱さに鈍感すぎるのだ。

 戦場では「敵を殺す」という純粋な殺意こそが、何よりも強い武器になるというのに。


 やがて首から噴きだす血飛沫が、自分の目線より高くなった。

 全身が、衝撃を受け流しつつ回転しながら倒れているからだ。

 そのとき、ふと感慨が生まれた。

 自分の血を、こんなにも明るい場所で眺めるのは久しぶりだった。

 いい色をしている。

 そんなふうに考えて、それから、敵もきっと私のこの姿を見ているだろうと思った。

 彼らは不意打ちの成功を喜んでいる。

 砲撃を受け、血を流し、無様に倒れる私の姿に、彼らは自らの勝利を疑いもしない。


 ――だからこそ、私はここで、瀕死で倒れる意味がある。


 時間の感覚が現実にもどり、凄まじい圧力とともに全身が地面に叩きつけられた。

 首から流れる温かい血が、仰向けに倒れた体のうなじや肩を濡らしていく。

 その中で、ロスペインは口の端だけで薄く笑った。


 ――さて。


 ここからが、私の反撃だ。

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