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短編

病院という名のホラー

作者: NOMAR


「熱があるんじゃない?」


 む? 確かに、少し熱っぽいか?


「病院に行った方がいいかしら?」


 嫌だ、病院には行きたくない。


「どうして?」


 俺は、医者という奴が気に入らない。

 その医者が勤める病院というのは、これも気にくわない。そりゃあ病気になったり怪我したりとなれば、医者頼り、病院頼りになるわけで、医者も病院も世の中に必要というものだろう。


 ただ、逆に言えば病気にもならず、怪我もしなけりゃ、医者にも病院にも世話になることも無い。

 健康なときには無縁のもので、病気になって、痛い苦しい誰か助けてくれ、となったとき、金を出せば助けてやると、上から目線で偉そうに言うのが医者という奴だ。

 逆に言えば医者や病院、医療関係者が金を稼ぐには、常に病人、怪我人が必要というわけだ。


 こういうとまるで医者とは悪魔のような奴等で、この医者が勤める病院とは、悪魔の城みたいなもののように見えてくる。

 あの城を建てるのにどれだけの患者の苦痛と死があったのか、と、病院を見るだけで怖くなる。


 医は仁術なんていう奴もいるが、どんな仕事でも利益が出ればやる奴がいるわけであって、利益が出なきゃ、やりたがる奴が減って人材不足になる。

 金になるから仕事をする。これはどこの業界でも当たり前のことだ。


 医者も病院も、事が起きてから対処するのが仕事になる。治療が金になる訳だ。だから予防というのは、金にならない。治療に繋がらないからだ。

 花粉症にアトピーに虫歯、このあたりが金になる病気だ。命を奪うことは少なく、それでいて症状が重い。対処療法の為に金を出そうって患者が多いのはこの辺り。

 金になる病気、医者にとって有り難い病気というやつだ。

 だから完治されるような治療法が広まると困る。虫歯菌を殺菌して虫歯になりにくくなる歯の治療法が、今も保険適用外なのも同じ理由。


 逆にエボラ出血熱とかになると、致死率は高いし医者も感染して死ぬ危険がある。こういうのは危ない上に金にならない。

 医療関係者が予防を訴えてワクチンを広めよう、というのは治療するのに金にならない病気ということになる。


 医者だって人間だ。自分の取り分を守る為には、自分の職を守る為には、わりとなんでもする。嘘もつくし誤魔化しもする。それが人間というものだろう。

 セカンドオピニオンだって、業界を守る為には口裏を合わせる。

 同業者を守る発言に、責任回避の為の職場異動。病院の利益を、自分の収入を守る為には誰だって必死になるもんだ。

 それで患者を治せるならまだいいが、薬害大国日本で医者が製薬会社を守り出すと、これが実に腹が立つことになる。


 どんな薬にも副作用がある。程度の差はあるが、副作用の無い薬というものは存在しない。

 そして、この予防接種を受ければガンにならない、と言ったが為に広まった予防接種。

 これで副作用が出ると困ったことになる。


 だからと言って医者も製薬会社も薬害とは簡単に認められない。誰だって責任は回避したいものだ。


 かつて水俣市で奇病が発生したときも、病因解明には時間がかかった。工場からの廃液が原因と疑わしくとも、その原因物質がはっきりしないと責任の追求が難しい。

 奇病対策委員会が調べる間にも、工場の責任では無いという新説が次々と現れる。


『敗戦のときに旧軍隊が水俣湾に捨てた爆薬が原因かもしれない』

『病因は水銀では無く、アミン系の有毒物質と考えられる』

『水俣病の原因は工場廃水では無い可能性がある』

『ビタミンD欠乏症に症状が似ている』


 有り得る可能性は徹底的に調べなければならない。しかし、そのために罹病者と一般大衆の口を封じ、応急対策を遅らせて被害を拡大したのは、悪質にも程がある。

 東京工大の教授による、アミン系有毒物質説は、一応の結末が出るまで三年の月日がかかっている。


 誰だって責任はとりたく無い。発覚すればうやむやにしたい。誤魔化したい。事件が大きくなり被害者が多く、その症状が酷ければ逃げたくもなるだろう。


 薬害エイズ事件(1989年-1996年)

 血友病の治療に用いる血液製剤がウイルスで汚染されている恐れがあるという指摘が無視され、多くのHIV感染者を出した。


 ソリブジン(1993年)

 ヘルペスウイルス属に有効な抗ウイルス薬。薬物相互作用によりフルオロウラシル系抗癌剤の代謝を抑制し、骨髄抑制などの重篤な副作用を増強した。


 ヒト乾燥硬膜→薬害ヤコブ病事件

(1996年-2001年)

 病原体(伝達性海綿状脳症)に汚染された疑いのあるヒト乾燥硬膜(医療器具)の移植による薬害。


 薬害肝炎(1998年-2008年)

 止血目的で投与された血液製剤(血液凝固因子製剤即ちフィブリノゲン製剤、非加熱第IX因子製剤)によるC型肝炎(非A非B型肝炎)の感染被害。

 1987年前後に使用したと疑われる元患者らがC型肝炎を発症したことから、1998年に「ニュースJAPAN」が「薬害」疑惑として追跡報道を始め、2004年になって製薬会社ミドリ十字(現田辺三菱製薬)が事実を認めた。フィブリノゲン製剤の推定投与数は約29万人であり、推定肝炎発生数1万人以上と試算している。


 スティーブンス・ジョンソン症候群

(1990年代-)

 全身麻酔薬や抗生物質、解熱鎮痛剤、利尿剤、降圧剤、抗てんかん薬などを服用後、皮膚が壊死を起こし、失明するなどの激烈な症状が発生する。年間人口100万人あたり1人から6人が発症し、発症後の症状の進行が急速であるため、治療が間に合わない場合がある。また、市販薬(大衆薬)が原因と疑われた例も5%ほどある。発症のメカニズムが不明な上、症状が急速に進行するため、対策が立てにくい。


 ライ症候群(1990年代-)

 インフルエンザなどにより高熱を呈する小児に対して、サリチル酸やスルピリン・ジクロフェナクナトリウムなどの解熱鎮痛剤(大衆薬を含む)を投与したことで脳症を発症し、後遺障害が発生する症状。2000年に緊急安全性情報が発出され、15歳未満への小児に対しての解熱には上記成分は使用禁忌となり、アセトアミノフェン等ごく限られた薬品を用いる。なおハンセン病(らい病)とは別の病態。


 ワクチン禍(1990年代-)

 自治体により実施されたワクチンの予防接種(予防接種法(1956年(昭和31年)改正前)の規定または国の行政指導に基づく)により、副作用が発症し、それにより障害または死亡するに至った事件。予防接種の種類は、インフルエンザワクチン、百日咳・ジフテリア二種混合ワクチン、百日咳・ジフテリア・破傷風三種混合ワクチン、種痘、日本脳炎ワクチン、ポリオ生ワクチン、百日咳ワクチン、腸チフス・パラチフスワクチン、子宮頸がんワクチン等。


 と、まあ並べるとズラズラ出てくる日本の薬害。これだけ薬害があるとなると、医師が進める薬を信用して身体に入れるのは怖くなる。

 医師の言う通りに薬を飲み続けると、障害が発生するかもしれないという恐怖がある。

 医師が薬を進めるとき、その医師は製薬会社からどれだけのリベートを受け取っているのだろうか? この医師は薬の安全を証明する実験に立ち会ったりしたことがあるのだろうか?


 完全に安全な薬は無いというのは解っている。だが、一方で健康保険適用範囲内の抗ガン剤の約3分の1が、ガンに効果が無いというのは、ただの在庫処分なのではないか? 

 そして、いざ医師ががんになった場合のほうが、抗がん剤治療ではなく代替療法に頼る比率が高いというのはどういうことだ? 何故、医師が自分にしたくない治療法を患者に進めるのか?

 

 何より奇妙に感じるのは、ワクチン接種後の障害が出た患者を診察する、医者が口にした言葉だ。


「子宮頸がんのワクチンの副作用という動画をみて真似をしている。演技しているだけ」

「親が騒ぐから治らない」

「副作用と言って騒いでいる人たちの半分はそうです」

「検査していいの? 検査して異常なしと言われて困るのはお嬢さんですよ?」

「ワクチンとの因果関係を調べることはしていない。原因究明はしない。ワクチンのせいでこんなふうになったと思わない方がいい」

「(国の責任なんて)絶対に認められない。今でも医療費がかかって国の財政が大変なのに。さらに補償を認めたら大変なことになる。線引きも難しい」

「私は、子宮頸がんワクチンによるものとは全く思っていませんし、ありえません。症状は精神的なものによるもので、娘さんが嘘をついているだけです」

「演技、うまいね」

「子宮頸がんワクチンに副作用はない。そんなのない。認めてほしいのか」

「ワクチンの副作用のわけないからな」

「何もすることないけど、予約する?」

「HPVワクチンの副反応は信じていない。一部の医者が因果関係があるというからマスコミが取り上げて、それを見た人が副反応だと言い出して困っている」

「家庭や学校に問題がある」

「この年で精神病院もねぇ」

 

 ワクチン接種後の身体の異常に悩む患者とその家族に、原因を調べようともせずこう言い放つ医師が、正気とは思えない。


 原因を究明するのが面倒になったのか、クララ病と言う医師もいる。


 アルプスの少女ハイジに出てくるクララのように、本当は立てるのに立てないと思い込むことで、立てなくなるという心の病だという。

 ワクチンの注射は切っ掛けで、患者はもとから心理的な病人であるという。それがマスコミの報道する薬害患者の真似をして、偽発作を起こすのだという。

 ワクチンの接種とは関係無く、心の病で立てなくなったり、歩けなくなったり、簡単な計算ができなくなったりする思春期の子供の心の病気であり、この国ではもともと多い病気だという。

 ワクチンの接種とは無関係のクララ病患者が、この国にどれだけいるのか知りたいところだ。


 患者からすれば原因を究明して治療して欲しい。患者の親からすれば、子供を治療してもとに戻して欲しい。

 しかし医療関係者から見れば、治療が難しい。原因は薬では無いことにしたい。ワクチンを推奨した医療関係者、製薬会社の責任にはしたくない。

 これで公害と同じく病因究明が難しくなる。病因が解らないままでは、どうすれば治療できるかも解らないままだ。


 こうした医師の患者に対する診察の仕方が世間に広まることで、今のこの国ではワクチンに対する信用がかなり落ちている。因果応報と言うべきか。副作用が出ても、満足に治療は受けられないと医師が示したのだから。

 そして今もワクチン推進派とワクチン反対派の論戦となる。


 患者とその家族は、原因を究明しない医療関係者、製薬会社に不信感を高め。

 医療関係者は薬害をセンセーショナルにアピールした患者とマスコミを詐欺と言う。


 ワクチンへの不信感の高まったこの国は、今ではワクチン後進国とも呼ばれる。

 それはそれで、結果的には増大する医療費の削減に繋がるので、ワクチン後進国となったのは良いことではなかろうか。いっそ予防接種は全て自費で受けるように変えてはどうかと思う。

 効果が正しくあるのなら、お金のある人は実費を出しても使うだろう。不安を感じる人は、必要の無い治療は百害あって一利無し、と、予防接種をしなければいい。

 国民の信頼が落ちた薬の為に、増税する方がどうかしている。

 信用を落とした薬を、皆が買わない使わないと選択することで、嵩む国の医療費を少しは減らすことに繋がる。


 しかしどれだけ文句を言おうとも、この国では医師と病院の持つ権力は大きい。

 誰もが病院で産まれ、誰もが病院で死ぬ。

 今では病院以外のところで死人が出ることが珍しい。まさしくゆりかごから墓場まで。


 誰もが病院の入院患者のようなものだ。健康でシャバに出ている期間は、ちょっと長い仮退院みたいなものだ。

 俺達は誰もが、あの悪魔の城と鎖で繋がっている。

 健康保険で繋がっている。

 薬害とは無縁だと思う人達が払う金で、その金の取り分を争って、新しい薬が開発される。

 できた薬も、効果が無いと言えないから、なんとか使用して処理することになる。

 健康保険のおかげで誰もが治療費を安くすることができる。

 反面、そこに集まる金を巡って、新しい薬の開発と薬害隠蔽も増加する。

 健康保険に払う金が、巡り巡って病人を治すことと、病人を増やすことに使われる。

 そこに参加していない人は、ほとんどいない。


 すでに病院があることに慣れてしまった現代では、病院が金を稼ぐために、生かさず殺さずと、誰もが病人にされる時代なのかもしれない。


 二人に一人がガンになる?

 それではまだ足りないだろう。

 残る半分は違う病気にしてやれ。

 薬の副作用のせいだと言う輩は、もともと心の病気だったということにしてしまえ。

 いつまでも治らない病気に治療費を払い続けるのが、病院に最良の患者だ。


 まったく病院という存在は、幽霊もゾンビも出て来なくても、十分にホラーだと思う。


「……そんなに注射が嫌い?」


 当然だ。正体不明の液体を自分の体内に入れたく無い。


「注射が嫌いっていうだけで、七歳の子供がこんなに口が回るなんて……、うちの子、賢いって喜ぶところかしら?」


 とにかく、俺は病院には行きたく無い。



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[一言] 凄いな博識だなと思いながら読み進めていたとき、フト気がついて、アレ最初は病院に行きたくないって話しだったようなと思いだし、最後まで読んで行き笑わせて頂きました。 面白い作品をありがとうご…
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