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〈 今より先、世界という語に外国が含意されなくなった時代、或るありふれた一場面 〉
ZAP! ZAP! ZAP! 稲妻のような怪光線が、人一人と命乞いを消し去る。黒色の腕輪だけが世界に取り残されて、地面に落ちる。
仲間を消された拍子に後じさりした男は、足がもつれて、尻餅を搗く。仲間を消した四人を見上げる。彼らの手には光線銃と、そして白色の腕輪が嵌められている。
「ほら、どうする。俺たちに金を渡すか、お仲間のように蒸発するか」
その提案に、男は好き嫌いをする子供のように首を振る。
「いやいや、そんな、こいつの金で十分でしょう、もう文句を言う奴もいないし、俺だけは勘弁して下さい」
「黒市民の端た金なんぞ幾ら集めても端た金だ。俺たちは遊びたいだけなんだからな、ほら、選べよ」
「そんな事を言われたって、この金がなかったら生活も出来ないんです」
彼は落ちていた黒の腕輪を拾い上げ、彼らに差し上げる。
「こいつの金なら幾らでも! 死んだ人間は文句なんざ言いませんから」
「死人に口なし、ってか。その口振りから察するに、貴様そういう悪事を働いたのは一度や二度じゃないな」
「え? いや、それは、その……」
「人畜生め、死ね!」
ZAP! ZAP! ZAP! 黒市民の男が白い光線に撃たれて蒸発する。黒の腕輪だけ地に残る。それを楽し気に拾い上げる彼ら白市民。彼らの耳に、唸りを上げるような車のエンジン音が聞こえてくる。何の気もなく、薄ら笑みも失せ遣らぬまま、彼らは音の方へ振り向く。赤い車が砂埃を巻き上げながら突風のような猛速で迫ってくると思った次の瞬間には、四人とも勢い良く撥ね飛ばされて地面を転げ回った。
「……ねえ、ちょっと、帯刀」車の後部座席に居た少女が呆れた声を出す。「何か撥ねたわよ」
「黒を甚振っていた白です。問題ありません」
帯刀と呼ばれた男は、偶然に見掛けた小動物の説明を、世間知らずなお嬢様にするような語調で言う。その態度に、少女は口を尖らせる。
「問題ないって、あなたねぇ、……車が血で汚れたらどうするのよ」
「赤ですから目立ちませんよ」
「そういう問題じゃないでしょうに、まったく、近道なんて許可するんじゃなかったわ」
少女は物憂げに、流れ去っていく景色を眺める。窓縁に突いた可憐な肘から伸びる先の手首には、赤色の腕輪が掛かっている。運転席の帯刀には、黄色の腕輪が嵌まっている。
砂埃を巻き上げながら走っていた車も、漸く舗装された道路に足を乗せて、直ぐにも高架道路へ続く坂に差し掛かり、ぐんぐんと上っていく。摩天楼の森が視覚を圧迫し始めて、巨大な電光掲示板が注意を奪う。
〈 ユートピアが貴方を見ている 〉
標語の背後には、六色大小計十二種の腕輪の新しい意匠が次々と切り換わりながら表示されている。
「新しいの買おうかしら」
少女が掲示板を見て呟く。
「冗談でしょう」帯刀が呆れて笑う。「この走る公害だって買ったばかりですよ。散財が過ぎます」
「腕輪くらいで散財なんて言わないわよ。それより、何が走る公害ですって」
「この車ですよ。うるさいわ、車輪で走るから道路を傷めるわ、揺れるわ、排気を出すわ、ガソリンで走るわ、良い所ないでしょう」
「貴方の挙げたそれが長所よ」
「左様で」
車は順調に道路を進んでいく。他の車はまばらだ。
「あんなに渋滞していたのに、こちら側は随分と空いているのね」
「近道して正解だったでしょう」
「何であんなに混んでいたのかしら」
「さあ。それはそうと、そろそろ着きますよ」
車は、林立する摩天楼のうち、一際に高い一本へと入って行った。