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星の子ども  作者: 秋野 木星
第一章 序章
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二話 緊張の一日

 ラクーとダンナーは、三人の娘を育て、じいちゃんばあちゃんの介護をしてきた経験から、修羅場には慣れています。

すぐに身の回りを整えて、緊急時のためにコンビニでおにぎりなども買い込んで、マッハの勢いで病院へ向かいました。

ムコーや病院側は、まだネムルーが一般病室に戻れないから、9時ごろに来ればいいとは言っていましたが、こういう時は何が起こるかわかりませんから、迅速に動く必要があるのです。不安にさいなまれているだろうムコーを、一人にしたくないという思いもありました。


ダンナーは、ラクーをネムルーが入院しているA病院で降ろして、自分はそのまま車を運転して、ムコーと赤ちゃんがいるB病院へ向かいました。


ラクーは夜間通用口から病院へ入り、産婦人科の病棟へと向かいました。

この時はすぐにネムルーに会えるとは思っていませんでした。まだ麻酔が効いて寝ていると思っていたのです。でも看護師さんが気を利かせてくださって、術後の患者さんが入っている回復室へ、ラクーを連れていってくれました。


なんとネムルーは起きていました。

そして赤ちゃんのことが心配でたまらない様子です。


ラクーは全身麻酔をかけた帝王切開を経験していましたので、ネムルーが起きていたことにびっくりしました。

ネムルーは目を閉じたり開けたりしながら、一心に赤ちゃんのことを思っていました。


「赤ちゃんが心配じゃ、どうなんじゃろぅなぁ?」

「……丈夫に産んであげられんかった……」

「可愛かったんよ……」

「ムコーに似てた。」

「名前はリノにした。顔を見たらもう一つ考えてた方の名前は違うって、ムコーが言ってた」


とぎれとぎれに話す言葉が、もう『お母さん』のものでした。

小さかったこの子が、本当に成長したなぁと感じた瞬間でした。もう、膝によくチョコンと座りに来ていた幼児の頃の、甘えっ子の面影はありません。


でもネムルーが言っている断片を聞いてみて、ラクーは驚きました。どうも下半身麻酔の帝王切開手術だったらしく、赤ちゃんが呼吸をできていないという騒動も側で聞いていたようなのです。

その時の心痛はいかばかりのものだったのかと思うと、胸が詰まりました。


緊急で帝王切開というだけでもビビるのに、生まれてきた赤ちゃんが泣かないのです。

それを陣痛で疲れ果てて、手術で疲弊(ひへい)し、麻酔で朦朧(もうろう)とした状態で聞いたのです。

何度も流産をして、不妊治療に通い続けて、やっと授かった命でした。



でもラクーはまだ楽観視していました。

月が足りて産まれてきた子だから、体力がある。妊娠中は順調だったので、生きるための体重も必要なだけはあるはずだ。


頑張れ、リノ!

頑張れ、頑張れ!


ラクーは心の中で神様に祈り、産まれてきた孫のリノを応援しました。

そして「お義母さん、お義父さん、しっかり子孫を守る仕事をしてくれんとダメじゃが! ネムルーを泣かしたら承知せんよ!」とあの世の両親へもハッパをかけました。


ラクーはダンナーじいじからのメール速報を待つために、ネムルーを病室に残し、一人で産婦人科病棟へ戻って来ました。

術後の患者を診ている回復室では携帯電話が使えないのです。


ダンナーからは、ムコーと合流できたというメールが来ていただけで、その後、うんともすんとも情報がありません。

病院の連絡網の遅さには慣れているつもりでしたが、一分一秒が長く、長ぁ~く感じます。


30分が経ちました。


まさか……ダメだったの? 赤ちゃんは生命力があるから大丈夫だと思っていたけど、生きられなかったんだろうか?

いやいや、大丈夫。信じてるよ!

リノちゃん、リノ、ばあばに顔を見せて! 元気な顔を見せてくれるでしょ?

神様、お願いお願い、お願いします。ネムルーを、ムコーを悲しませないでください。


こういう時は自分の余命をあげるから……ということまで考えてしまうものなんですね。


世の中に溢れている子ども達、一人一人の命が、こんなに大切なものだと痛感したことはありません。

リノはそのことをばあばたちに教えてくれるために、こんなにつらい思いをしてくれているんでしょうか?

「青い鳥」に書かれていた、産まれてくる前の世界にいる子ども達のセリフを思い出します。


『長いな』


ついついダンナーに、そうメールを送ってしまいました。



一時間が経ちました。


ラクーが何度目かの神に祈っている時に、ダンナーからメールがきたのです。


『栄養点滴を入れるのに手間取っていますと看護師さんが言いに来た』


ああ………………生きてる!


栄養点滴を入れようとしているということは、生きてるということじゃないですか。

思わず『生きてる』『ありがとう』『よかった』『感謝じゃなぁ』と次々に返信してしまいました。

ダンナーのニマニマ顔が目に浮かびます。寡黙なダンナーは返信してこないけれど、絶対に『生きてる』と思ったに違いありません。

後から聞いてみたら、ラクーの想像通りでした。(〃▽〃)


ラクーは看護師さんを捕まえて、「赤ちゃんが生きてるということを、ネムルーに伝えてやってくれませんか? ずっと心配してましたから。」と頼みました。

看護師さんは「あの……他には何か言われてませんでしたか?」と戸惑っていました。病院関係者にしたら、これだけのことを?と思われたのかもしれませんが、身内とはそういうものです。(笑)


ロビーの向こうにある窓に、眩しい朝日が昇ってきているのが見えました。


ラクーは思わず太陽に感謝を捧げました。

そして世の中のすべてのものに、笑いかけたくなりました。


ああ、これで一安心だ。


その後に飲んだ自動販売機のコーヒーは、身体中に染み渡る美味しさでした。

コーヒーを飲み終わったラクーに、朝になって出勤してきた婦長さんが昨夜のことを聞いて、挨拶に来られたのです。


「この度は、ご心配だったことでしょう。一時は、心停止していたとのことでしたから。」


はぁ?!

心停止?!


聞いてないよ~ ( ゜Д゜)

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