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第一章 ため息と旗揚げ 05★

「と言う訳で、そこの男の娘(おとこのこ)――」

「なんかビミョーに字が違くないですか?」

「気のせいです。そんな事より男の娘――」


 絶対気のせいじゃないだろ?


「あなた先程、男子が女子プロレスをやるのは犯罪だとか言っていましたが、そんな事はありませんよ。なぜならこの業界、性別の詐称など特に珍しくもないのですから」


 はぁあ? 性別詐称が珍しくない?


 木村さんの衝撃の発言に、訝しげな表情を浮かべるオレ。しかし、対する他の三人は、平然とした様子で話を聞いてたる。


「それって、どうゆう事ですか?」

「言葉の通りですよ。実際に、女子プロで活動している男子が何人もいるって事です」

「それも日本に限らず、世界中でな」


 木村さんの言葉へ補足するように言葉をつなげる佳華先輩。

 そして、始めて聞く話に困惑するオレへ、木村さんは更に話を続けていく。


「そうですねぇ、有名所で言えば――レイシャ・マフノと言う選手はご存知ですか?」

「えっ? ああ、当然知ってるよ」


 レイシャ・マフノといえば世界的にも有名なレスラーだ。知らないはずはない。


「あれだろ? ロシア出身、金髪の超セクシー系美人レスラーで、本国ではモデルも兼業してる、24歳独身、身長188センチ、バストはGカップ。日本でも人気が高く、写真集が4冊も発売されているっていうレイシャ・マフノだろ?」


 何気にオレも大ファンなので、写真集は全部持っている。


「そこまで詳しいと若干引きますけど、知っているなら話が早いです」

「話が早い……? って、ま、まさかっ!?」


 今の話の流れから、最悪の予感が頭をよぎる。そしてその予感を肯定するように、木村さんは口元へニヤリと黒い笑みを浮かべた。


「彼女……もとい『彼』も女子プロで活躍してはいますけど、身体的には男性です」


 あまりの衝撃に、一瞬目の前が真っ暗になった。

 それでも、木村さんが否定をしてくれる事を祈りながら、オレはなんとか声を絞り出す。


「マ、マジっすか……?」

「本当と書いてマジです」

「じ、じゃあ……あの、む、胸は……?」

「あれはシリコン――いわゆるニセ乳です」


 生きる希望を打ち砕くような木村さんの言葉に、オレは茫然とし、膝から崩れ落ちた。

 オ、オレは……オレってヤツは、なんてモノを見て喜んでいたんだ……


「ホンット男って、金髪とか巨乳に弱いんだから――バカみたい」


 うるさい、かぐやっ! お前に、今のオレの気持ちが分かってたまるかっ!!


「なんだい、かぐや。金髪と巨乳が羨ましいのかい?」


 ガックリとうなだれるオレの横で、ラフな金髪の荒木さんが大きな胸を張っている。


「アンタのは巨乳じゃなくて、巨大な大胸筋でしょうが!」

「あんだとーっ! ヤンのか、この貧乳っ!!」

「なっ!? だ、誰が貧乳だーっ! 平均をやや下回ると言えっ! だいたいアンタなんて、カチカチに硬い、超合金みたいなおっぱいのくせにっ!!」


 つまらない事で言い合いを始めるかぐやと荒木さん。まったく、いい年してみっともない。

 まあ、そのつまらない事で落ち込んでいるオレに、人の事は言えんけど……


「上等だ、おもて出ろやコラ」

「望むところよ」

「待て待て……旗揚げしたら、ちゃんとお前達二人の対戦(カード)も組んでやるから、どっちのおっぱいが上かはリングで決着をつけろ」


 佳華先輩が、今にも場外乱闘を始めそうな二人の間に割って入る。てゆうか、その決着は、リングでつけられるものなのか?


「そのためにも今は――」


 そのまま二人の間から更に一歩踏み出して、オレの前に立つ佳華先輩。


「気持ちは分かるが、そんなに落ち込むな佐野。それに選手になれば、試合中にかぐやのおっぱい揉み放題だぞ」

「そ、そんな事したら、ネジ切るわよっ!」


 胸を両腕で覆いながら、それを隠すように身体を横に向けるかぐや。


 確かにいつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。オレの黒歴史たる闇の書は、帰ったらブックオンにでも売りに行こう。


 オレはゆっくり立ち上がり、佳華先輩の方を向いた。


「いえ、中三から全く成長してないような、かぐやの平ら(フラット)な胸には、全然、まったく、これっぽっちも興味が無いの、ぐはぁっ!」


 ミニスカートから真っ直ぐに伸びたかぐやの足が、綺麗にオレのアゴを捉える。


「ブツわよ」


 仰向けに倒れたオレを、冷ややかな目で見下ろすかぐや。

 ってか、人のアゴをトラースキック(*01)で蹴り上げといて『ブツわよ』じゃねぇよ!

 相変わらず、口より手……とゆうか、足が先に出るヤツだな、オイ。てか、パンツ見えてるぞ。


 オレはアゴをさすりながら、再びゆっくり立ち上がった。


「ところで、さっきの話はマジなんですか? にわかには信じられないんッスけど――てか、なんでそんな事が……」


 痛みを堪えながら、冷ややかな視線を送り続けるかぐやをスルーして、佳華先輩と木村さんへ話を振る。


「ああ、マジだ」

「まあ、性同一性障害(LGBT)が世間的にも法的にも認知されつつある昨今。身体が男性だからという理由で参戦を認めないなどと言うと、市民団体なんかが色々とうるさいのですよ」


 まあ、何かに付けて文句を言いたがるヤツっていうのは、どこにでもいるからなぁ……


「ただ、お前が知らなかったように、一般人には絶対に秘密だ。情報は団体間でやり取りされて、必要があれば選手にも知らせる。たが、もしその情報を外へ漏らしたりしたら、ソイツは業界全体から永久追放される」

「それとマスコミなども、この話題は取り扱わないと暗黙の了解が出来ています。まあ、当然でしょう。そんな事をすれば、全世界の団体から取材拒否をされる事になっていますから。なので、アナタがデビューをしても外に男バレする事は、まずありません」


 なるほど。まだ業界歴三か月のオレじゃあ知らないワケだ。


「それに佳華さんも言っていたけど、選手には対戦前に知らされるし、もしイヤなら断る事も出来るわ」

「もっとも、相手が男だから対戦したくないなんて話は、聞いた事もないけどよ」


 更にかぐやと荒木さんが、追い討ちを掛けるようにオレを取り囲む。前門の佳華先輩に後門のかぐや。それに左右を荒木さんと木村さんに囲まれて、正に状況は四面楚歌……


「状況は分かりましたか、男の娘? あなたのデビューを妨げる要因は何もないのですよ。ついでに逃げ道もありません」


 その男の娘は止めて下さい……


「じょ、状況はわかりましたけど――オレは性同一性障害者じゃないんですから、女子と組み合ったりするのは抵抗があると言うか……」

「何を今更――大学んときは、あたしと何度もスパーリングをしただろう?」

「わたしとだって、子供の頃から考えたら数え切れないわよ」


 前後から佳華先輩とかぐやの挟み撃ち。

 確かにそうだけど――


「かぐやは子供の頃から一緒だから、何も感じないと言うか……カテゴライズ的にオレの中でかぐやは『女子』じゃなく『メス』のカテゴリーだから。それに佳華先輩は『オッサン』のカテゴリーで――」

「「死ねっ!!」」

「あがぁっ!」


 前後から佳華先輩とかぐやによるヘッドバッドの挟み撃ち……今、本当に星が見えたぞ。


(*01)トラースキック

挿絵(By みてみん)

身体を横向きの状態にして、片足を後ろに高く振り上げ、相手のアゴを足裏で蹴り上げる打撃技。

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