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第十五章 優しい月とかぐや姫04

「舞華、肩を貸して貰えるか?」

「あっ、は、はい!」


 オレは一番手が空いていそうで、身長も近い舞華に声を掛けた。

 のだが……


「何の迷いもなく巨乳を選びましたね。このエロ」

「ムッ!」

「違いますよっ!」


 白い目を向ける木村さんと、睨むような視線を向けるかぐやに反論しながら、オレは舞華の肩を借りて立ち上がった。


「詩織、ありがと……もういいわ。みんなも、ありがとう」


 木村さんとセコンド達に礼を言いながら、ゆっくりと上体を起こすかぐや。そして、オレを見上げながら、右手を差し出した。


「優人、手ぇ貸して」

「あいよ」


 舞華に肩を借りながらその手を取り、かぐやをゆっくりと引き起こす。フラつく身体を愛理沙達に支えられながらも、なんとか立ち上がったかぐやは、掴んでいたオレの手を高々と挙げた。


 そんなオレ達の姿に、湧き上がる歓声と拍手の渦――

 その圧倒的な迫力に立ち竦むオレに、優しく微笑みかけるかぐや。


「いいもんでしょ? プロのリングは……」

「ああ、学祭なんかのリングとは大違いだな。いい想い出になったよ」


 オレの返した言葉に、かぐやは眉を顰めた。


「やっぱり、辞めるつもりなんだ……?」

「ああ……そのつもりだ」

「そっか…………あとは頼みます、佳華さん」


 顔を伏せて、段々と小いさくなるかぐやの声。


「えっ? なんだって?」

「なんでもないわよ、この鈍感バカッ!」


 酷い言われ様だな、オイ……


「あ、あの~、おにい……じゃなくて優月さん?」


 かぐやの言い様に苦笑いを浮かべるオレへ、舞華が今にも泣き出しそうな顔を向けて来る。


「んっ? なに?」

「ホントにレスラーを辞めちゃうんですか……?」


 オレは、努めて優しく笑いながら、舞華の頭を撫でるように手を置いた。


「そんな顔するな。レスラーを辞めたって、団体を抜ける訳じゃないんだ。手が空けば、練習にも付き合ってやるからさ」

「うぅぅ……」


 拗ねるように口を尖らせる舞華。


「俺ッチもアニ……アネゴがレスラー辞めるのには、ヤッパ納得できねぇよ……」

「そうですわね……やはり、今すぐにでも性転換医を呼び寄せて、そんな不浄なモノ切除してもらいま――」

「だから、それは止めろってっ!」


 てかっ、オレの命の次に大切な宝物を、不浄とか言うなっ!!


「なぜですの? 費用の事でしたら心配なさらずとも大丈夫ですわよ。その程度でしたら、わたくしのポケットマネーで十分ですわ」

「いや、そうゆう問題じゃないから……」


 てか、そんな金があるのなら、このあと智子さんに連行される飲み屋の代金を立て替えてくれ。ついでに、説教も代わってくれると助かる。


「お~い! そろそろ締めるから、みんな並んでくれ~っ!」


 新人達の理不尽な非難の目に晒させるオレに救いの声。マイクを片手に佳華先輩がリングへと上がって来た。


 これで、ようやくオレの女装生活も終焉を迎えられる。この一ヶ月、色々あったし大変ではあったけど、今日の試合を含めていい想い出になったのは確かだ。


 ちょっと強引……いや、かなり強引ではあったけど、この人にも少しだけ感謝しよう。


 ありがとうこざいました、佳華先輩。


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