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第十五章 優しい月とかぐや姫01

「お、おい、栗原……」


 レフリーの智子さんが手を挙げようとした瞬間、俯いたまま肩で大きく息をするかぐやがその手を掴んだ。


「なにを……する気ですか、智子さん……? わたしはまだ……やれますよ……」

「いや、しかしだな栗原――」

「そこの……尻フェチ男に……お尻ひっぱたかれて……段々と目も醒めて来ましたし……」


 誰が尻フェチだ誰がっ!? まあ、嫌いではないけど……てか、ひっぱたいてなんかいねぇだろ! 尻から落しはしたけど。


 いや、そんなとこをツッコんでる場合じゃなくて――


『おっと、これはどうした事だ! 何やら試合が中断しております。栗原がレフリーに何かを抗議している模様』


 試合の中断に、観客席もざわめき出している。


「おい、かぐや! もういいだろ? これ以上はムリだ……」


 オレは、二人の方へ歩み寄りながら声をかける。


「お前だって分かっているんだろ? お前の首は――」

「ねぇ、優人……」

「なんだよ?」


 かぐやは観客席はおろか、多分セコンド達にも聞こえない小さな声で静かな声で語りだした――


「『オレの夢はプロレスラーの世界チャンピオンになる事だ』……子供の頃から、ずっとそう言っていたわよね?」

「あっ? ああ……でも、もう終わった夢だ」


 身長が足りないなんていうのは、本人の頑張りではどうする事も出来ない。いくら望んでも、もう届かない夢だ。


「じゃあ優人は、わたしの夢が何なのか知ってる?」


 かぐやの夢……? そういえば聞いた事ないな。


「さぁな? 定番のお嫁さんとかか?」

「ハハッ……それもイイかもね……相手がアンタみたいな女装趣味の鈍感バカじゃなければね」


 ムッ! 鈍感バカっていうのは認めるのもやぶさかではないけど、女装は好きでヤッてんじゃないぞ、コラッ!


「わたしの夢はね、優人……仲のいい幼馴染みと、ずっとプロレスを続けて行く事――」

「えっ……?」


 かぐやは智子さんから手を離して顔を上げ、震える足でオレの方に目を向けた。


「子供の頃はね、一緒のリングに立って試合をしたり、タッグを組んだり出来たらいいな……なんて思ってもいたけど――まぁ、それはすぐムリだって気が付いた。でも、同じリングじゃなくてもいい、同じ団体じゃなくてもいい……二人でずっとプロレスを続けていたかった。同じ目標に――世界チャンピオンに向かってお互い頑張っているって共感していたかった……」


 かぐや、お前……


「アンタが夢を諦めても、わたしは諦めて切れなかった。一分(いちぶ)の可能性に掛けて、アメリカに渡ろうとも考えた――でもね、佳華さんがチャンスをくれたの。アンタと同じリングに立てるチャンスを……だから、わたしは諦めない。レフリーストップなんて認めない。仮に今日負けても、いつかアンタをリングに立たせる方法を探してみせる……」


 お前、そこまで……

 てゆうか、以前に智子さんから聞いた、かぐやがオレの為にアメリカに渡ろうとしていたのはホントだったのか……


 完全に言葉を失っているオレに、かぐやは更に言葉を綴っていく。


「……でもね、優人? それもこれも、わたし達が――女子プロのリングが、アンタの本気を出せる相手でなければ意味がないのよ。言ったでしょ? わたし達が本気を出すに足りない相手なのかどうか、分からせて上げるって? だから、手を抜いてんじゃないわよ……」

「い、いや……手を抜いてるわけじゃ……」

「手を……抜いてない? ――くっ!! ふざけんじゃないわよっ!! ノーザンライト!? フィッシャーマン!? あげくの果てにスモールパッケージって!? アンタッそんな気の抜けた技で、本気でわたしに勝てると思っているのっ!? そんな手を抜いた技じゃ、たとえ死んだとしても負ける訳にはいかないのよっ! だから……だから……本気を出しなさいよ、バカーーッ!!」

「――!!」


 かぐやの叫びが胸に突き刺さる。


 オレはかぐやの事を分かっているようで、何も分かっていなかったのではないか……?

 そう思った直後、かぐやの身体がグラリとフラついた。


「かぐやっ!?」


 崩れ落ちそうになるかぐやを、オレは正面から抱き止める。


「さわんな、スケベ……胸が当たるでしょうが……」


 先程の悲痛な叫び声とは一転、弱々しい掠れた声……


「ふん、今さらお前のささやかな胸になんて、ときめいたりしないから安心しろ」

「アンタ、殺す……絶対殺す……」


 オレの腕の中でグッタリとうなだれながら、悪態をつくかぐや……


 でも、そうだな……お前の言う通りだ。試合で手加減して本気を出さないなんて、相手にとって失礼だよな。


「かぐや、次で最後だ。オレの持ち技の中で最高の――取って置きの切り札を見せてやるよ」

「ふん……上等じゃない……。じゃあ、それを受け切ったら、もう一度ダブルタイガーでキッチリとアンタを仕留めてあげるわ」


 腹は決まった。あとは――


「おい、佐野っ! お前、なに言ってるんだ、オイッ!?」


 この大先輩の説得だ。


「智子さん、あと一攻防(いっかい)だけお願いします」

「あのな、佐野――レフリーって言うのは、カウント取るだけが仕事じゃない。選手の安全管理もレフリーの仕事の内だ。そのわたしが、そんな事を認められると思うか?」

「お願いします。智子さん」


 オレはかぐやを抱きとめたまま、呆れ気味の智子さんを正面からジッと見据えた。


「…………」

「…………」


 わずかな沈黙。徐々に観客席からのザワつきが大きくなっていく……


「………………」

「………………」

「ふうぅ~、まったく。佳華といい、お前といい、わたしの後輩は頑固なヤツばかりだな……」


 肩を竦めながら、ため息を吐く智子さん。


「次で最後だ――次で決まらなければ、レフリーストップ――いや、無効試合だからな。ついでに先輩の言う事を聞かない佐野は、試合が終わったら居酒屋で朝まで説教だ――お前のオゴリで」


 ありがとうございます、智子さん。

 でも、説教の方はほどほどにお願いします。あと今月はピンチなんで、お酒の方もほどほどに……


 オレのそんな願いを受けながら一歩後ろに下がった智子さんは、そこで大きく息を吸い込んだ。


「ファイトッ!!」


 智子さんから掛かる試合再開の合図。


『どうやら試合が再開されるようです。佐野っ! サイドから栗原の胴体を抱え込むっ!』


「いくぞ、かぐやっ!!」


 オレは、かぐやの身体を旋回させながら抱え上げて、そのまま片膝を着き、その膝にかぐやの腰を打ち付けた。


「がっ……あぁ」


『佐野の旋回式バックブリーカー炸裂っ! そして栗原をリング中央に寝かせて、ロープまで下がった! これは何かを狙っているぞーーっ!?』


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