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第十一章 優月のターンと空中戦02★

『おーっと! この体勢はーっ! ……い、いや、しかし……』


 佐野の行動に戸惑う実況のジャストミート明菜。

 それもそのはず。どちらの技に行くにしても、佐野は自分の身体を後方に倒さなければならない。


 しかし、かぐやはコーナーを背にしてうつ伏せに倒れたのだ。したがって、佐野の直ぐ後ろにはコーナーポストがあり、自分の身体を倒すスペースがないのである。


『化けの皮が剥がれて来ましたね。攻撃を仕掛ける位置を確認しないで技に入るなんて、ド素人もいいところだ……まっ、所詮はデビューしたてのド新人ですね』


 イヤホンから聞こえる川井の解説に、絵梨奈と詩織は顔をしかめた。


「あのニィちゃんらしくねぇミスだな、オイ」

「確かに……あの男の娘が、あんな初歩的なミスをするとは思えませんけど……」


 しかし、川井の毒舌と二人の感想にも、笑顔を崩すことなく余裕の表情でスクリーンを見上げている佳華。


「佐野がそんなのミスをするわけないだろう。後ろに90度回るスペースがないのなら――」


 スクリーンに映るに佐野は後ろからかぐやの両肩を掴み、自分の身体を前後に振り始めた。


「前に270度回ればいいだけだ」


 勢いを付けてかぐやの身体ごと回転する佐野。

 そう、佳華の言う通り、後方ではなく前方に……


『えっ!?』

『な、なっ!?』


 イヤホンからは、実況と解説らしからぬ驚愕の声。


『し、失礼しました――さ、佐野っ! なんと前方に回転しての(*01)カベルナリアッ! 栗原の背骨とアゴをグイグイ締め上げるーーっ!』


 佐野のパフォーマンスに、驚嘆と歓喜の歓声が会場を揺らす。


「「…………」」


 対照的に、再び言葉を失い呆然とする絵梨奈と詩織。そして佳華は、そんな二人に肩をすくめた。


「と言っても、アレは派手な見た目重視の見せ技だ。前方回転では、どうしても足のフックが甘くなる。かぐやならすぐに外せるさ」


 佳華の言葉通り、かぐやは苦しそうな表情を浮かべながらも、身体をズラしながら少しづつ足のフックを外して行く。


「た、確かにそうかもしれねぇけど、あんなのアタイは初めて見たぜ……」

「それに、栗原相手にそんな見せ技を出せるというのは、余裕があるという事ですよね?」

「そうだな――今のところ、試合は完全に佐野のペースだ。あまり調子付かせると、ペースを奪うのは大変だぞ……どうする、かぐや?」



  ※※  ※※  ※※



 ぐうぅぅっ……ふんっ!


『栗原っ! 足のフックを外して脱出! すぐさまリングを転がり、間合いを取った!』

「ハァー、ハァー、ハァー……」


 どうにかカベルナリアを外して、優人と距離を取るわたし。片膝を着き、荒くなった呼吸を整えるわたしに対して、余裕の表情でスクっと立ち上がる優人……


 くっ……どうする……?


 この速い試合展開は優人のペースだ。このままじゃ、ズルズルとなにも出来ないまま終わるかも知れない。なんとかペースダウンをして、自分のペースに持ち込まないと。


 どうやったら優人の裏をかける……?


 わたしは優人から視線を外さずにゆっくりと立ち上がる。そして、力比べを誘うように右掌を突き出した。

 怪訝そうに、一瞬だけ眉をひそめる優人――それでも力比べに応じるよう、左掌を出して手を合わせようとする。


 今だっ!


 わたしは右手を引いて、ボディに右ヒザを叩き込む。そして少し前屈みになった優人のバックに周り、腰に手を回して両手をクラッチした。

 しかし、すぐにクラッチを切り、わたしの背後を取り返しす優人。わたしの腰に回して、固くクラッチする優人の手――ジャーマンスープレックスの体勢だ。


 ここまでは折り込みの済み。優人のジャーマンは速くてタイミングが取りにくいけど、来るのが分かっていれば――


『バックを取り返した佐野っ! ジャーマンで栗原を投げ飛ば、い、いやっ!? 栗原、空中で1回転し、(たい)を入れ替える! そして再び佐野のバックを取る栗原っ!』


 わたしは、ジャーマンを撃とうとして体勢が崩れている優人のバックへ組み付きにいく。


「空中で(たい)を入れ替えられるのは、アンタだけじゃないのよ」

「知ってるよ。オレにとっても、ここまでは折り込みの済みだ」

「えっ? ぐはっ!」


 背後から組み付こうとするわたしの脇腹に、優人の肘が突き刺さる。


 一瞬動きが止まったわたしの頭を肩越しに掴む優人。そのままわたしのアゴは、優人の右肩に乗せられ固定された。


 マズイ、これはっ!?


 そう思った時にはもう、優人はコーナーへと走り出していた。そしてコーナーポストを駆け上がり、その勢いのまま、わたしを飛び越える様に後方へ宙返り。


 うつ伏せに落下する優人と一緒に、わたしの後頭部がマットへと叩きつけられた。


「がぁ……はっ……」


『しっ、不知火(しらぬい)(*02)だぁーーっ! 佐野っ! バックの取り合いを征し、不知火で栗原の後頭部をリングに叩きつけたぁぁぁーっ!! そしてすぐさまフォールの体勢に入るっ! ワーンッ! ツーッ! スッ――返したーっ! 栗原、カウント2.5でフォールを返しました』


 フォールを返したわたしは、再び転がるようにして距離を取る。


 くっ……これでも裏がかけないなんて……

 てか、不知火が使えるなんて聞いてないわよ! いつの間に覚えたのよ、そんな技っ!


 でも、やっぱりスピードとテクニックじゃ、優人には敵わない……わたしが勝っているところと言えば、パワーとスタミナ、それと身長にウエイトと――

 って、なんかムカついて来たっ! だいたい何だ、その細いウエストはっ!? ケンカ売ってんのかっ!? 肉を食え、肉をっ!!


 って、今はそれどころじやない。どうにかして、優人のスピードを殺さないと……

 ならばっ!!


(*01)カベルナリア

挿絵(By みてみん)

うつ伏せの相手の両膝裏を踏みつけて、相手の両つま先を自分の膝裏に引っかける。

そのまま相手のあごを両手でつかんで上半身を起こし、後方へ思い切り後方に反り上げる。



(*02)不知火

挿絵(By みてみん)

相手に背を向け、自分の右肩に相手の首を乗せて固定する。

次にコーナーへ走り、最上段まで駆け上がって、相手を跳び越すようにバック宙。そのままうつ伏せに落下しながら、相手の頭部をマットに叩きつける。


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