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第六章 乙女心と腐女心03

「それから、アナタ達――」

「えっ? あ、あっ! はいっ!!」


 事の成りゆきに着いて来れず、呆然と立ち竦んでいた三人娘であったが、突然元三冠王者に声をかけられ、慌てて背筋を伸した。


「まだ元気が余っているみたいだし、すぐにシャワーを浴びないのなら道場(ジム)に戻ってもう少し練習を続けようか?」

「「「え……?」」」


 かぐやからの提案に顔を青ざめさせる新人達。

 その姿を見て、かぐやは口角を吊り上げながらポキポキと指を鳴らした。


「なんなら、わたしが本気のスパーリング(ガチスパー)で相手してあげ――」

「申し訳ありませんっ! 今日のところは遠慮させて頂きますっ!」

「すみませんっ、すみませんっ、すみませんっ!」

「お先に、シャワー失礼するッス!」


 取るものも取りあえずといった感じで、替えの下着とタオルを抱え、脱衣所へと逃げ込んで行く新人達。


 ってか舞華、パンツ落としたぞ、パンツ。


「まったく……近頃の若い娘には、恥じらいとか慎みというモノがないのかしら?」


 まるで自分には、恥じらいと慎みしがあると言った口ぶりだな、オイ。


「何か言った?」

「いや、別に……」


 ギロリと睨まれ、そっと視線を逸らすオレ。

 コイツ……ホントはニュータイプか何かじゃないのか?


「じゃあ、詩織。わたしもシャワー行くから、このバカ二人お願いね」

「了解です」


 うずくまるオレの右手と、青い顔で口元を押さえている荒木さんの襟首を掴む木村さん。


「さあ、行きますよ、男の娘。ルーキー達の練習を見て性欲が高まっている、飢えた狼どもがお待ちかねです」


 小柄で非力に見えても、そこはやはりプロレスラー。木村さんはオレ達二人をズルズルと引き摺りながら、何食わぬ顔で歩き出した。


 てか、行きたくねぇ……


「そうそう。今日のスパーリング、わたしはスケベくん……もとい、深津くんのセコンドに付きますから」

「…………え?」


 あのエロ深津に、寝技(グラウンド)の魔術師がセコンドって……


「レスリングの技術はともかく、彼のねちっこさと打たれ強さ。更には打たれて悦ぶМ属性は、わたしの心に訴える何かがあります」

「いやいやいやっ! アイツはウチの選手でもなければ、試合に出る訳でもないんですから、セコンドに付いたって何の得もないでしょうっ!?」

「損得の問題ではありませんっ!!」


 お互いの額がぶつからんばかりに、オレの眼前へ眉尻吊り上げた綺麗な顔を寄せる木村さん。

 そして、オレの目を間近で睨み付け、静かに口を開いていく。


「コレは、わたしの腐った心を満たせるかどうかの問題です」


 うおぉぉぉ~~いっ!?


「ちょっと、詩織ぃ! さすがに最後の一線を越えそうになったら止めなさいよっ!」


 いや、その前に止めてくれ。マジでっ!!


 しかし、木村さんはオレの眼前に寄せていた顔を上げ、かぐやに向けてニヒルな笑みを見せる。


「ふっ……ソレは()の道に生きる者にとっては、出来ない相談ですね」


 だから、うおぉぉぉ~いっ!? ってか、腐の道って何だよっ! 初めて聞いたわっ、そんな道っ!!


「それでは、フカ×サノのカプ成立を目指して、今日も張り切って行きましょう♪」


 今にもスキップを始めそうな勢いで、再びオレ達を引き摺り歩き出す木村さん。


 くっ、こうなっては仕方ない。オレの貞操と正体を守るため、深津には組み合う前に打撃だけで息の根を止めさせてもらおう。

 深津……悪いが、迷わず成仏してくれ……


「詩織ぃ~っ! せめて、動画っ! 4Kとは言わないから、フルHDで撮っておいて~っ!」

「やかましわっ!!」


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