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第二章 副社長とルーキーズ02☆

 歳なんてみんな、たいして変わらんだろうに……

 でもこれが、四捨五入二十歳と四捨五入三十路の差なのか?


「それから佐野……」

「は、はいっ!」


 低いドスの効いた声で佳華先輩に名を呼ばれ、とっさに背筋を伸す。


「さっき、かぐやが言っていた禁句ワードな――」

「は、はい……」

「言ったからって殺しはしないけど……一回言うたびに、罰金一万な。翌月の給料から天引きするから」


 ノオォォォォォーーーーッ!!


 タダでさえ少ない収入、これ以上減らされたらマジで死活問題だっ!

 『四捨五入』と『適齢期』――この二つの単語だけは絶対に口にしないと心に――


「あっ! お前、いま口にしなくても考えただろ? とりあえず二万円罰金だ」

「いやゃぁぁああぁーーっ!!」


 ヴァ、ヴァルハラが……ヴァルハラが見える……



  ※※  ※※  ※※



「さて、あと決めるのはリングネームくらいか?」

「そんなん何でもいいッスよぉ。どうせ一試合だけだし、優子でもなんでもお好きにどうぞ」


 少ない手取りからいきなり二万も引かれたオレは、今にもヴァルハラへ旅立ちそうな生ける(しかばね)状態で自分のデスクに座り、投げやりに答えた。


「優子か……? 悪くないけど、佐野の外見からすると少し地味だな」


 じ、地味って――全国の優子さん、特に宮村さんと皆口さんと水谷さんに謝れっ!


「ユツキ……」


 日本全国の優子さんに代わり、心の中で抗議の声を上げるオレの隣でポツリと呟くかぐや。


「ユツキ?」

「まず、優人の優。それと、団体名のアルテミスにちなんだ、お月様の月。それを繋げて優月。佳華さん、いいと思いませんか?」

「ユツキ……優月か……? うん、悪くないな」


 かぐやから出た『優月』と言うを口ずさむと、佳華先輩はその口元へ笑みを浮かべながら頷いた。


「でもよ、なんで団体名と月が関係あんだ?」

「団体名のアルテミスは狩猟と純血、そして月の女神と言われているんですよ」

「なるほど」


 そして、荒木さんからの素朴な疑問に端的は答えを返す木村さん。

 まあ確かに、団体名にちなんだ名前というのは悪くはないが、アルテミス=月を言うのは少々安直過ぎやしないか?


「そういうワケで、リングネームは佐野優月にしようと思うが、佐野もそれでいいか?」

「いいんじゃないですか? どうせその名前も、一ヶ月だけの付き合いですし」


 生ける(しかばね)状態から復活しきれないオレは、椅子に座ったままで投げやり気味に返事を返した。


 正直、今のオレには、一ヶ月限定のリングネームなんかより来月の給料の方が深刻だ。


「まあ、そう言うなよ。もしかした一生付き合う名前になるかもしれんだろ?」


 佳華先輩の物言いに、眉を顰めるオレ。

 一生って……何が悲しくて、一生女装しなけりゃならんのだ?


「さてとっ、衣装も名前も決まった事だし、あと問題なのは――」


 話を切り替えるようにそう言って、足元に目を向ける佳華先輩――いや、その視線の先は足元ではなく、多分その先にいる人達に向けられているのであろう。


 そう一階の道場にいる――


新人(ルーキー)達ですか?」

「ああ」


 木村さんの問いを、苦笑いで肯定する佳華先輩。


「ん? なんでヒョッコ共が問題なんだ?」

「はぁあ? あんたバカァ? そんな事も分かんないの?」


 そして荒木さんの素朴な疑問に、呆れ顔で答えるかぐや。

 だから、お前はどこぞのチルドレンか?


「体育会系は基本的に縦社会。今の話を聞いてないルーキーにとって、優人の方はともかく優月の方は自分達の後輩になるわけよ」

「それなのに、先輩の自分達を差し置いてこの男の娘がいきなりメインイベント。なにより、その対戦相手が元三冠王者の栗原かぐや――やはり納得は出来ないでしょうね」


 かぐやと木村さんの言う通りだろう。それに新人とはいえ、高校時代には格闘系の大会での実績がある者もいる。


 オレも空手や柔道、それに体操なんかで少しは実績があるけれど、優月の方は当然なんの実績もない無名の新人なのだから。


「でもよっ、かぐやの言う通りプロレス界てぇのは縦社会なんだ。いちいちヒヨッコの意見なんざぁ、聞いてやるこたぁねぇだろ?」

「そうゆうワケにはいかんさ――」


 荒木さんの意見を否定しながら、佳華先輩はマグカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。


「あたし自身がバカボンのワンマンなやり方に付いて行けずに、前の団体をあんな辞め方したんだ。そしてあの子たちは、それを知った上で――そんなあたしを慕って入団した。そのあたしが、そんなマネは出来ないよ」

「じゃあ、どうする気だい?」

「なぁに、簡単な事さ――」


 確かに簡単な事だ。あまり気は乗らないけど同じ団体の選手なのだ、今の話を――


「縦社会に置いて序列は大切だけど、ウチの序列は年功じゃなくて実力主義なんだからな――」


 …………えっ?


「手っ取り早く、アイツらに佐野と試合をさせて納得させるさ」


 え、え~と………………あれ?


~おまけ(微エロ注意)~

   PV2500アクセス突破記念!!

挿絵(By みてみん)


【パート06】逆一本背負い

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


『おまけ』は、総合評価ポイントやPV数が一定数上がった時、

技解説画像のないページへ、気まぐれに追加していきます(*´ω`*)



次回予告『総合評価100PT以上』or『PV数5000位上で、「第二章 副社長とルーキーズ03」に、タイガースープレックスを追加予定!

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