第3話 修行
やはり外の風景は中世ヨーロッパを思わせるRPGでよくある世界観そのままであった。
自宅は他の家と比べるとそれなりに立派なものだし裕福だという予想も大方間違ってはいなかったようだ。
「それじゃいってくるね!」
大きな声で挨拶したかと思うと駆け足で移動を開始した。
道いく人にすれ違うたびに挨拶や声をかけられており、これで3人目である。
元気で礼儀も正しく愛想が良いためか、あるいはアリスの家の身分が高いのかも知れない。まぁ家のことはおいおい分かるだろう。
しかし驚いたのはアリスのスタミナである。当時の俺より明らかに速いペースで走るアリスは疲れを感じさせず、むしろこの日差しと風の心地よさを心底楽しんでいる。
家を出てから15分くらいして目的の場所にたどり着いたらしく、1件の民家の門をくぐる。家にはあがらず裏手の庭に行くと老人と、アリスと同じくらいの背をした少女がいた。
「おはよう、アリス」
「おはよう、シノン、師匠も」
「うむ、それじゃいつも通り修行を始めよう」
どうやらこのじいさんが師匠のようだが、そんなことより少女シノンである。シノンの容姿に俺は興奮がおさまらなくなった。
なんと彼女の耳は犬耳なのである。良く見れば尻尾もある。
やはり異世界!地球に生まれて良かった!
「っきゃ!?」
いや異世界なんだけどな…ここは、などという下らない思考もつかの間、唐突にアリスが頭をおさえだした。何が起きたのか俺も理解がおいついてないが、なんとなくアリスが困惑している感情が伝わってきた。
「アリス、大丈夫? 体調悪いの?」
「ううん。 もう平気。今日の朝から頭痛じゃないけど頭に変な感じするの。その違和感の波が強くなっただけよ」
「あんまり無茶するんじゃないぞアリス」
「平気だってば、師匠まで。なんだか悪い感じではないの」
「そこまで言うなら本当に大丈夫なのだろうな。いつも通り修行を始めるとしよう。正し何かあればすぐに言いなさい」
…朝から頭に違和感? これはひょっとして俺のせいか?
タイミング的に俺が犬耳で興奮していた時に頭をおさえていたし、なんとなくアリスの感情が俺に伝わるように、ひょっとしたら俺の感情がアリスに伝わっているのかもしれない。
感情が伝わるのなら、うまいことすればコミュニケーションもアリスととれるのかもしれない。
しかし犬耳で興奮したことを少女に知られているのだとしたら恥ずかしくて死にたくなるんだが…いつかコミュニケーションが取れる時が来たとして「あの時、あなたシノンの犬耳にひどく興奮してたわよね」みたいな蔑んだ眼差しを受けたくはないのだ。
シノンがおもむろに壁に立てかけてあった木剣を二つ手に取り一つをアリスに渡す。
「あんまり無茶しちゃだめよ」
「そうね、でも本当に大丈夫よ」
「なら、いいけど」
「いっとくけど! 手加減はいらないんだからね! 」
「例えアリスが不調でも手なんか抜かないよ」
…やはり剣と魔法のファンタジーなのか!! 魔法は未確認だけどな!!
「…やっぱり、今日の朝からなんか変だわ」
そんな少女のつぶやきは俺にしか聞こえなかったようだ。
打合いが始まり木剣と木剣の音が鳴りやまないで5分しばらくになるが、二人の打合いを見るに、二人とも驚くほかないという技術であった。もう映画さながらである。若干シノアが常に優勢であるが、なんとかアリスもシノアが振るう研ぎ澄まされた一閃一閃に追いつき、隙あらば反撃するも反撃の一閃はシノアほど研ぎ澄まされておらず乱れを感じさせる。
その素人目でわかる乱れをより明確にとらえているのだろう、シノアは受け流す、反撃に出るなど常にその乱れを攻撃の起点としているのがわかる。
それにしても本当に台本なしでここまで打合いって続くものだろうか。現実問題で二人はやってのけているものの、身長が1mもあるか分からない少女達が映画さながらの打合いを見せるのはやはり異世界パワーとしか結論付けられない。この光景はさすがに才能では言い訳できないレベルだと思う。
修行の後の3人の会話で分かったことは、シノアは剣術のレベルが「中級」にあるということ。
そしてアリスは「下級」だが「中級」に達しつつあるということ。
アリスの剣術で「下級」なのだから「上級」の剣とやらは映画ですら見ない光景を見せてくれるのだろう。
シノンの名前は暫定です。
2019/1/30現在、本章での内容を追加・訂正中です。