第2話 アリスと魔眼説
どうもカナタです。
奇怪な状況をとにかく静観することに決めました。
まずは落ち着こう。これまで起きたことを整理するんだ。
女の子助けようとしてトラックに引かれた。つぎに、目が覚めたらソプラノボイスになってて、ファーストキス。なるほどだめだ。意味がわからない。
これまでのことは置いておいて現状把握に努めようと思う。
まずベッドから降りた自分は、どうやらリビングと思われる部屋につき、当たり前のようにテーブルに着席している。さっきまでいた寝室やいまいるこの部屋、廊下の作りは木造で中世ヨーロッパを思わせる。おしゃれで古風なカフェを想像するといったらいいかもしれない。
テーブルの上には暖かそうなシチューとパンがおいてあるが、美味しそうな匂いも朝が弱いのか若干だけど辛い。余談ではあるが事故当日も昼間の朝食はコンビニで買ったペペロンチーノ1000kカロリーをペロンとたいらげるほどに朝には強かった。
そしてベッドから降りてすぐに気づいたことは目の位置が低いのだ。おそらくこの身体は身長100センチあるかどうかといったところだ。視界から得られた他の情報としては幼少期とうかがえる俺の手が見えた。何故だか分からないが俺の手であるとわかる。
……なるほどだんだん分かってきた。俺にはこの現象について心当たりがあった。これはいわゆるなろう系小説定番の転生ではないか。それ以外に説明がつかないんだ。まずはその線で見ていこう。
ただの転生ではないのは明らかだ。もくもくとスープとパンを食べる俺の身体は自分の意思とは別に動いているのだから。おそらく俺は少女に転生している。これは間違いがない。しかし、少女そのものでもないだろう。女の子の一部なのではないだろうか。あるいは身に付けている意思ある魔道具とか?彼女の二重人格が俺とかそっち系なのか? 彼女と意思の疎通ができれば少しは分かるかもしれないな。
状況に仮定を置くと思考がクリアになってきた気がする。まだまだ疑問はつきないが、この身体もとい少女アリスを見守るとしよう。
「ねぇ、アリス今日は何をして遊ぶの?」
どうやらこの麗しの美人はママのようだ。口ぶりから見てアリスはやはり幼い年齢なのだろう。遊ぶことが仕事のような言い方だ。古い時代の基準で考えれば幼くても仕事はあるかもしれない。裕福な家庭なほうなのだろうか。
「今日も秘密の特訓!」
「そう、それじゃ気を付けてね。お昼には帰るのよ。」
秘密の特訓か、まぁおそらくここにはいないパパさんに向けたものだろう。特訓のためには外出が必要らしい。家事かなんかではないような気配だな。こんな俺みたいな異常現象が起きているような世界だし魔法やらファンタジーめいた修行でも驚きはしないが。いかんな、わりとワクワクしてきた。体が動かないことは不安に思うが興味のが上回ってしまっている。
朝食が辛いからだにも関わらず、アリスはあっさりと平らげた。そんな様子を見るにママさんには気を遣っている事が分かる。アリスと同じ年齢の俺なら我慢なんてせず食べないだろう。思っていたより聡明な子のようだ。
「ごちそうさま! それじゃいってくるね!」
「ええ、行ってらっしゃい。でもその前に! ちゃんと着替えて身だしなみを整えるのよ!」
「わかってる!」
ちゃんと食器を持っていったかとおもうと駆け足で部屋を出ていくあたり、気配りができることに加えてせわしない子でもあるようだ。
着替え終わると身だしなみを整えるため鏡の前に立つ。鏡がうつす俺ことアリスは母と似てアリスは美少女のようだ。
鼻はすらりとした小鼻。
目力は強すぎない程度の猫目。
少女にしては長いまつげ。
髪は母の金髪とは似てもにつかない黒色だが、光の反射具合で青色にも見えるダークブルーといったところ。日本人の黒色とは違う黒髪が、その色と艶を自慢するかのように肩甲骨程度まで伸びている。
目や髪が特徴的なぶん、唇は控えめだ。
どちらかというと北欧よりでドイツやユダヤ系にも見えるが、頬など骨格を見ると角ばっておらずほんの少し丸顔で日本人に近いように感じる。テレビでよく出演しているクォーター系のモデルと言われれば、それが一番納得できる表現だろう。
少し気になるのは髪と同じようにブルーをベースにした黒色の瞳が、一瞬だけど赤色にも見えた。オッドアイってやつか?
なんにせよ、美少女だ。きっと大人になればきっとモテるだろう。ていうか、将来の俺は男に抱かれることになるのか?
……なんとも言えない気分だ。
まだこの世界では美人としかあっていないし、これが標準ということもあるだろうが、少なくともこれが第2の人生と言われれば納得できる男前ならぬ女前な容姿である。
着替えと鏡で移るアリスの容姿から、俺という存在はアリスそのもののようで意思ある道具ではないことが分かった。
残された可能性としては別人格だ。
別人格であれば、ママさんやアリスの使う言語が理解できたのもアリスの言語に関する記憶を知らず知らず俺が利用していたと考えれば納得できる。
その割にはこの世界に対する知識には干渉できない様子なので制限があるのだろうか。
もう一つ気になっている線として、アリスの体の一部という線だ。
ヤマタノオロチを代表に一つの身体に複数の魂が宿るというのはファンタジーでは鉄板である。
もっとも、アリスの頭が8個もあるわけではなくいたって普通の容姿だが。
あのとき鏡から一瞬だけ映ったあの瞳が気になっている。
魔眼というキーワードが俺の頭を駆け巡っている。