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ハーレム学園ラブラブラバーズ  作者: ういのおくやま
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ようこそ!discB

桜庭くんのエントリー。彼には彼で色々やってもらうつもりです。


目が覚めると教室だった。身に覚えのない教室、整然と並んだ机と椅子の一つに腰掛けさせられていた。自分の他に生徒はいない、教壇の女をそれではないとするならば。

「ん、やっと起きたね」

そいつはさっきの女。テレビの画面から出てきて、俺を連れ込んだその女だ。灰色のスーツに赤縁の眼鏡は女教師の記号だろう。

「それじゃ、はじめよっか」

教室前方の時計は8時30分。鐘が鳴った。

「ラブラブラバーズにようこそ」




ハーレム学園ラブラブラバーズ




「じゃあ、まずは……

「鶴見はどうした」

開口一番噛み付くと自分の声にノイズがかかる。少し不快だが睨むことを続けると、向こうが先に顔をしかめた。

「順応早すぎ。まずは驚いてくれないかなぁ」

「……今更、改めて驚く必要はない」

「あっそ、つまんないの。でも甘くみてると痛い目見るよ?」

ありきたりな科白を吐くと、女は指示棒を伸ばしながら教壇を降りる。

「ハーレム学園ラブラブラバーズ。この思わず声に出したくなる素敵なゲームのジャンルはギャルゲーです。主人公は並み居るヒロインからお気に入りを選んで、見事カップルになればゲームクリアー。君はこのゲームの中にいるのさ」

「…………」

当たり前に登場したゲームの中という表現。『あれ』からそろそろ7ヶ月がたつのか。

「クリアーしたらこのゲームから出られるよ。でも、もし失敗したら……」

「死ぬんだろ」

「まさか。永遠にこの世界で青春してもらうだけさ」

それは死ぬと言わずに何というのだろうか。……まあ良い。クリアすれば良いだけだ。

「他に質問は?」

女がニヤニヤしながら指示棒を揺らす。

「特にない」

俺はすぐに答える。ギャルゲは苦手だが仕方がない。要は機械のご機嫌とりをすれば良いのだろう。理不尽な内容なら事だが、今それをこいつに尋ねてもどうなるものでもない。俺は観念して目を閉じた。

「よし!」

女が指を鳴らす。辺りは眩しい光に包まれた。いよいよ下らないゲームが始まる。光の中で、鶴見の方は大丈夫だろうかと一寸考え、すぐに首を振る。あいつはこういうのは得意だろう、少なくとも俺よりは。



光が止むと、教室だった。光の前と同じく誰も居ない教室。

「うっし、準備完了!」

後ろからした声はさっきの女だ。振り返るとさっきと同じ格好の、同じ女。予想と異なる展開に正直面食らう。

「さっきので始めじゃないのか」

「ん?ああ。それでも良いけど、やっぱりはじめは自分の姿をきちんと見てほしいって思ってさ」

自分の姿?浮かんだ問いの答えは女の隣の姿見にくっきりと像を映していた。

「頑張ってね!身長130cm、最軽量のヒロイン、さくらちゃん!」




教室……先程とは違い、生徒でいっぱいの教室。俺の通っていたのと比べるのもおこがましい程綺麗な教室の教卓には、中年の教師。

「では、今日の授業はこれまで」

そいつは言った。その男は眼鏡をかけていて。

……それだけだった。

一面的に色づけされた青色に、その男の服や肌の全てが包まれている。この男にそれ以上の情報は要らないとでも言うかのように。

ーーモブ。

メインキャラでない、その他大勢という表現。この教室はそんな青で満たされていた。

自分の身体を見てみる。腕には白色が、気色の悪い女物の制服には紺色がついている。

「……」

…………やられた。

改めて自分の身体を見たことで、その思いが沸々とわいてでる。自分は主人公の側だと思い込んでいた。決められた期間、適当に機械と戯れていれば良いのだと。自分が此方側に立つとは思ってもみなかった。

『主人公は並み居るヒロインからお気に入りを選んで、見事カップルになればゲームクリアー』

あの女はそう言っていた。ならば『並み居るヒロイン』のクリア条件は……主人公に選ばれること。それしかないのだろう。

一応、青の群れから鶴見を探してみる。当然見つからなかった。

ーーまずは鶴見を探すところからか。俺は頭を抱えた。

「さーくーらーちゃーん!」

その時、俺の背中に衝撃が走った。麻袋を叩きつけられたような感覚。

「昼休みだよー!遊ぼー!!」

耳元に大音量で女の声。こちらの首を羽交い締めるよう伸ばされた腕は肌色。

「おい、やめろ!」

「さくらちゃ~ん!」

振りほどこうとするが、体格差がありすぎる。抜けられない。が、痛めつける狙いはないようだ。

「やめろ」

「え?」

少し凄んだ声を出すと、その大女はゆっくりと力を抜いた。

「……さくらちゃん?怒ってる?」

振り向くと、女は気まずそうに此方を覗き込んだ。明らかに他の奴らと異なる女。そいつは緑色の髪をしていた。正しい紺色のついた制服は胸元が異様に膨らんでいる。肌は肌色で、何よりその女には目や口が存在した。

俺は少し息を吐いた。

「まず、俺は『さくら』ではない」

自分の口から出る声が気色悪い。先のノイズは音声加工の途中だったのか。

「またまたぁ~!!」

女の方は満面の笑みでそれを否定した。まともに聞く耳はないようだ。

「本当なんだ。俺は……」

そこまで言ってようやく、俺は気付いた。それに続くものが無い。

自分の名前が出てこないのだ。

「おれは?」

女が聞き返すが、答えられない。考えてみれば当たり前のことだ。鶴見に自分が自分だと伝えれば、鶴見の恋愛云々に関わらず選ばれることが出来るのだから。

「俺は……俺は、男なんだ」

「ええっ!?」

「いや、違うか。ええと……」

なんとか使えそうな言葉を探す俺を尻目に女は大仰に驚き、その後何かに気付いたように表情を変えた。

「大丈夫だよ」

「……何がだ」

女が真剣な表情になり、一呼吸入れた。見上げる程体格差がその仕草に凄みを与える。

ーーまさか、こいつプレイヤーなのか?俺と同じくヒロイン側として、鶴見を……。いや、そうなると主人公が鶴見である確証も揺らぐ。プレイヤー同時のバトルロイヤル、という可能性だって否定できない。

「そう。大丈夫……」

女は言った。

「おっぱいがなくたって、さくらちゃんは立派な女の子だよ!おっぱいがなくたって!!」

「……は?」

「誰に言われたかは知らないけど、さくらちゃんは十分かわいいよ!おっぱいがないのも関係ないくらい!」

……真剣に考えて損した。

そうだよな。ギャルゲのヒロインだもんな。やりすぎなくらいのキャラ付けがあるのは普通、こんな変態がいるのも普通だし、だから俺はこういうゲームが嫌いなんだ。構っても仕方ない。

「確かに、女の子はおっぱいが合った方が良いに決まっているけども!いるけどもぉ!!」

……どうでも良いが、こいつちょっとムカつくな。

というか。

「鶴見はどこだ?」

根本的な質問を忘れていた。教室を舞っていた女はとぼけた顔を向けた。

「え、つるみ……ちゃん?誰その子」

知らないようだ。なら、そもそもこの女に用はない。俺は席を離れ廊下へ走り出た。

「え、ちょ、どこ行くの!さくらちゃーん!!」

女の声は青い奴らの何倍も通った。



それらしき教室を割り出すのにさして時間はかからなかった。ほとんどの教室では見かけない色の付いた人間、つまり『主要キャラ』が集まっているクラスがそれだ。

「鶴見はいるか!」

扉を開け、入る。中にいた色付きは3人で、全員が女だった。鶴見の姿はない。

「……くそっ」

そう易々とはいかないらしい。ならば次に居る可能性が高いのは……学食か?確か一階の……

「おい」

考えていると、色付きの1人が話しかけてきた。

「なんだ。鶴見の居場所を知っているのか?」

「『なんだ』ではない。ここはコウトウブだぞ?一応断りを入れるのが礼儀というものではないか」

後頭部?……ああ“高等部”か。俺は納得する。そして、わざわざそんな指摘をするということは。

「……これ中学生かよ」

「中学生は貴様だろう。早く戻れ、そろそろ授業が始まるぞ」

その女は横柄に言った。今の俺はこいつより年下なのか。授業が始まるだなんて、随分前に聞いたっきり……

……ん、授業?

そうだ。授業になれば鶴見は必ず教室に戻る。そこを待ち伏せすれば良いのか。

「おい、鶴見の教室はここで合ってるのか?」

「口の聞き方に気をつけろ。礼儀を知らない者に答える義理などない」

面倒臭い奴。そっちから話しかけてきたくせに。

仕方がないので他の色付きをあたる。話しかけやすそうなのはあっちの女教師か。

「センセ、鶴見の教室は……」

「こ、小林さん。どうしちゃったの?」

尋ねる前に返された。此方のことを知っているようだ。すると小林というのは俺の苗字か。何にせよ、すんなり教えるつもりはないらしい。……まあ構わないか。ほぼこの教室で確定な訳だし。

「もう良い。邪魔をした」

教師との会話も終わらせると、高飛車は露骨に顔をしかめた。

廊下に出る。往来する人はすべて青色をしていて、鶴見の姿はない。幾人かが俺に気付いて、中学生がここにいるとはなんだと噂話をした。

「あの子どうしたんだろ」「誰かの妹かな」「あのロリコン野郎の彼女なんじゃねーの?」

そんな無個性どもも、そのどいつもこいつもが俺より大きい。向けられる視線はともすると見下されているようにも感じ取れる。

……すぐに終わることだし、気にする必要はないのだが。

そんなことを思っていると、廊下の端から轟音が響いた。

「さくらちゃーん!!」

さっきの変態だ。土煙を巻き上げ走ってくるそいつはそこらの青色より更に大きい。

変態は俺の前で止まると膝に手をついた。

「どうした……お前」

「どうしたじゃ、ないよ……。そろそろ、5時間目、始まるよ。一緒に戻ろ?」

「そろそろなのか。なら好都合だ」

「好都合……?」

「ああ。授業が始まる頃、ここに野暮用があるんだ。先に戻れ」

「ええ、じゃあ授業はどうするの!?」

息の整わないまま、そいつは目を見開いた。向こうは前屈の体制なのに目線の高さが同じなのがまたムカつく。

「……出ない。放っておけ」

「駄目だよ!」

女は強い口調で俺の肩を掴んだ。

「いくら勉強出来なくても、授業をサボるのは違うよねってさくらちゃん言ってたじゃん!」

「……そんな事、言った覚えがないんだが?」

「さくらちゃん!」

女が俺を揺さぶる。大音量もあって少し頭が痛い。

「うるさいな。俺はさくらじゃないと言っただろ?」

「さくらちゃん!どうしちゃったの!?」

女は半ば叫声をあげながら縋る。話を聞かない奴だ。

いつの間にか周りには人だかりが出来ていた。相変わらず好き勝手なことを呟くそいつらは完全な青色で……

「あれれ、なんすかねーこのたかり人」

……違う、色付きがいる。頭の緩そうな女。そしてその隣に、男……。

「それを言うなら人だかりだろ」

鶴見だ。

「鶴見!」

俺は出来る限りの声をあげた。鶴見がこちらを見た、気がした。


ーーそのとき。

俺は明らかな違和感に襲われた。何かを無理やり書き換えられたかのような。

そして、一瞬経って理解する。

さっきまで立っていたはずの俺は席についていて、他の席には青色人間。時計が1時10分を指している。左前の席の変態大女がこちらの視線に気付き、手を振った。

それに少し眉をひそめて

「全員席に着いたな。それでは五時限目を始める」

青色の教師は淡々と言った。



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