そして始まる大問題 1-05
「教頭、高野連には受理されそうです」
「ふむ、結構」
教職員が集う空間から一つ隣にある個室。
年期の入った机、ふかふかのソファー、棚には数々のトロフィーが飾られ
室内を重厚に彩っている。
その中で二人の男性が隣の騒ぎに息を潜めるように
静かに語らっていた。
一人は体格の大きな如何にも体育系の男性教諭で男子硬式野球部顧問、実松 正。
そして、もう一人はこの学校の教頭で実質的な権力者 菱江田 守。
「しかし、大丈夫でしょうか、彼が応じるとは思えないのですが」
強面な顔を不安に歪めながら菱江田へ相談する実松。
その姿を一別、
窓の外へと視線を戻し登校している生徒達を見下ろしながら
菱江田は余裕たっぷりに話す。
「彼の意志は関係ありません」
ふと、菱江田の視界に入った醜い者達。
ギャアギャアと騒ぎながら登校する男子生徒、
それを軽蔑するような眼差しで睨み付けながら続ける。
「彼は所属しなければならない」
呟いた言葉に菱江田は自然と笑みがこぼれる。
その顔はまるで悪魔の様で
実松は背筋に冷たい物を感じた。
「そう、所属しなければ……退学なのだから」
笑いが止まらないとは正にこのことだな、
菱江田はそれを感じながら一人ククッと漏らす。
そうだ、所属し活躍してもらわねば。
今年は叶わなかったが来年こそ行ける。
行ってもらわねば困るのだ。
だからこそ、この千載一遇のチャンスを逃すまいと
色々と根回しをして土台を作ったのだから。
菱江田は苦労の末に実った果実を想像し
静かに笑い始める。
その姿に恐ろしい者を感じた実松、
それはこれから起こるであろう苦労が容易に想像出来、
誰に気づかれることもないように小さくため息をするのだった。
ご無沙汰しております、作者です。
待ってた方、おられたら大変お待たせしました。
またそうでない方、お久しぶりでございます。
いよいよこちらの連載を本格的に開始致します。
『雫から』の時のように週一になるかどうかは分かりませんが、
書いて行きたいと思います。
今回は野球が題材ですので前回とは全く違った趣向となりますが
お付き合い頂けると幸いです。
ここまでお読み頂きありがとうございます。